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150 ドルゴのお願い

 ドルゴに竜の王権について聞いた後、しばらく談笑した。

 それから、俺はドルゴに言う。


「さて、水竜の集落には、なるべく急いで向かった方がよろしいですよね」

「もちろん、あまり時間はありません」

「準備がありますので、いまからというわけには参りませぬが……明日にでも向かった方がいいでしょう」


 水竜の集落は、王国の端だ。王都からかなり距離がある。

 ケーテに送ってもらうとしても、数時間かかるだろう。

 侵攻が始まってから、向かっては遅い。


 今すぐ大規模な侵攻があるとは考えにくいが、急いだほうがいいのは確かだ。


「いえ、ラックさん、しばしお待ちを」

「ふむ、何か事情があるのですか?」

「少し準備をしなければなりません。水竜たちにも説明が必要ですから」


 いきなり人族が護衛と言って駆けつけても水竜たちも戸惑うだろう。

 水竜たちのプライドを傷つけかねない。

 水竜たちとの間にドルゴが立って説明する必要がある。


「それもそうですね。水竜たちが救援依頼を出したのは風竜王にですから」

 俺の言葉を聞いて、ゴランが、うんうんと頷く。


「たしかに。水竜としても、卑小な人間に力を貸りるってのが面白くないかもしれないな」

「いや、俺やゴランならともかく、ラックだからな。水竜も嫌とは言うまいよ」

 エリックがそう判断した理由が、よくわからない。


「うむ。エリックの言うとおりであるぞ」

「その通りですね。水竜も喜びはしても、怒りはしません」

 ケーテとドルゴまでそんなことを言う。


「そんなことはないとは思いますが……。準備が必要なのは理解いたしました」

「はい、お待たせして申し訳ありません」

「いつでも言ってください。すぐ向かいましょう」


 横で聞いていた、ミルカがぽつりと言った。


「でも、ロックさんがいなくなったら、王都が不安じゃないのかい?」

「それは、確かにそうであります」

「少し不安ね」


 シアとセルリスが深刻な表情で言う。


「エリックとゴランがいる。大丈夫だ」

「それはそうなのだけど……」

「神の加護もあるしな。そうだろ、エリック、ゴラン」


 俺がエリックとゴランを見ると、

「身が引き締まる思いだ……」

「ああ、気合を入れねーとな」

 そんなことを、言っていた。

 基本はいつも通りでいいと思う。


 そんなことを話していると、ドルゴが言う。


「それと……ラックさん。まことに申しあげにくいのですが……」

「どうしましたか?」

「ラックさんには風竜王の宮殿に鍵をかけていただいたようで、とてもありがたいのですが……」


 ドルゴは言いよどむ。

 単なるケーテの家ではない。風竜王の宮殿だ。

 鍵にもいろいろな作法があったのかもしれない。

 不安になって俺は尋ねる。


「鍵をかけては、まずかったでしょうか?」

「いえ! とてもありがたいことです。あれほど堅固な鍵は竜族でもかけられるものはおりませぬ」

「そうであろう。ラックがかけてくれた鍵があれば、昏き者どもも入れまい!」


 ケーテも自慢げに胸を張る。

 尻尾の先が縦にゆっくりと揺れていた。


「それなら、よかったのですが。何か作法があったりするのですか?」

「作法? そんなものはないはずである。な、父ちゃん」

「はい。そのようなものはありませんよ。ですが……」


 ドルゴはまた言いよどむ。俺は大人しくドルゴの言葉の続きを待った。


「お恥ずかしながら……私が入れなくてですね」

「あっ」

 そういえば、ドルゴを登録していなかった。


「父ちゃんでも無理だったのであるな」

「ケーテがかけた鍵なら、私が入れないわけがないと最初思ったのですが、鍵をかけたのがラックさんだったのならば納得です」

「開けられなくても、恥ずかしがることはないのである!」


 ケーテは嬉しそうだ。


「恥ずかしがってはいないのですが……。まことにお手数ながら……私を鍵に登録していただきたく……」

「たしかに、それは急がないといけませんね。すぐに向かいましょう」

「助かります! お送りいたしましょう。ぜひ私の背に乗っていただきたい」

「えー。ラックはケーテの背に乗った方がよいのである」

「いや、父の背に乗っていただくべきだ」

「えー」

「ケーテは一度乗っていただいたのであろう? 父に譲るべきだと思わぬか?」


 しばらく話し合って、ドルゴが乗せてくれることになった。


「通行許可証を発行しましょう」

 そういって、エリックが許可証を書いてくれた。

 正式の通行許可証の発行には少し時間がかかるので臨時のものだ。


 王都の外に出て、距離をとる。

 そして、ドルゴは竜の姿に戻った。ケーテよりさらに一回り大きい。

 俺が背中に乗ると、ドルゴは空へと飛びあがる。


「では移動を開始しますね」

「お願いします」


 ドルゴの加速は強烈だった。


「いやはや。ラックさんを乗せて飛べる日が来るとは! 光栄の至りですよ」

「こちらこそありがとうございます」


 王都からケーテの宮殿まであっという間だった。

 到着さえすれば、ドルゴを登録すること自体は簡単だ。


「終わりました」

「誠にありがとうございます。また、王都までお送りしましょう」


 俺を王都に送った後、ドルゴは水竜の集落に向け飛び去った。

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