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180 水竜の集落にいこう

 どうやら、水竜の集落を襲うレッサーヴァンパイアは決まった方角から来るらしい。

 それは貴重で重要な情報だ。


「その方角っていうのはどっちなんだ?」


 水竜の集落は、メンディリバル王国の南端付近に位置している。

 さらに南から、つまり他国の領土から来るのなら、面倒ごとが一気に増える。

 エリックが騎士を率いて向かうなどは絶対できなくなる。

 余程周到に交渉しないと、宣戦布告と取られてもおかしくないからだ。


「水竜の集落から西の方でありますよ」

「それなら……王国内に敵の拠点がある可能性が高いな」

 攻め込むのに支障がない。


 さらに詳しく語り始めようとしたセルリスを俺は止める。


「エリックとゴラン、ドルゴたちも呼んだ方がいい」

「そ、そうね!」


 セルリスは少し緊張したように見えた。

 国王と尊敬する父の前で自分たちの活躍の成果を話すのだ。

 緊張しても当然かもしれない。


「少し待っていてくれ」


 断ってから、俺は通話の腕輪でエリックたちに語り掛ける。


「いま、お時間大丈夫ですか?」

『大丈夫であるぞー』

『大丈夫ですが、何かありましたか?』


 ケーテとドルゴが真っ先に反応してくれた。


『私も大丈夫です』

 水竜の侍従長モーリスも大丈夫らしい。


『暇ではねーが、……事情によっては駆けつけよう』

『こちらも同じだ』


 ゴランとエリックはそう言ってくれた。


「セルリス、シア、ニアが帰って来てな。水竜の集落を襲いに来るヴァンパイアが来ている方角を調べたとのことだ」

『それはすごいのである!』

 ケーテは興奮気味に言った。


 俺が簡単に説明すると、エリックも言う。

『確かに、貴重な情報だ。今後のことを話し合う必要があるな。とりあえず、向かおう。水竜の宮殿に行けばよいか?』

「頼む」


 そして、話し合いの結果、一時間後に水竜の宮殿に集まることになった。

 エリックもゴランも忙しいだろうに、調整してくれるようだ。


「セルリス、シア、ニア。向かおう」

「はい!」


 元気よく返事をするニアたちと一緒に、水竜の集落へと向かう。

 いつものようにリーアが出迎えてくれた。


「ラックさん! 今朝ぶりね」

「リーアはちゃんとお昼寝したのか?」

「うん!」


 夜の襲撃があると、リーアも起こされることになる。

 リーアはまだ子供なので睡眠は大切だ。


「がうがーう」

 ガルヴがはしゃいでぐるぐる回る。散歩に来たと勘違いしているのだろう。

 ガルヴが走り始めたので止めることにする。


「ガルヴ。散歩しに来たんじゃないぞ」 

「がう?」


 足を止め、首だけこちらに向けて首をかしげていた。

 目を輝かせて尻尾をものすごい勢いで振っている。


「仕方ないな……」


 俺はリーアに言う。


「すまないが、少しガルヴを走らせてくる」

「はい! 私も行きますね!」

「じゃあ、私も!」


 リーアとニアがついて来てくれるようだ。

 他の人たちには宮殿に先に行ってもらう。

 もしドルゴやエリックたちが来たら、先に説明を始めておいてもらうためだ。


 俺は走りながら言う。

「ガルヴ、エリックたちが来るまでには戻らないと駄目なんだからな」

「がーうがう」

「そんなに遠くには行かないぞ」


 話を聞いているのかいないのか、ガルヴははしゃいで、かなりの速さで走っていた。

 リーアは「わーいわーい」と言いながら、あとをついて行く。

 リーアの立派な尻尾が元気に動いていた。


 一方、ニアは必死の形相だ。


「ニア、無理しなくていいぞ」

「大丈夫です!」


 ガルヴは子供とはいえ霊獣の狼だ。足が速い。

 ニアも狼の獣人、人族の子供の中では足はかなり速い方だ。

 それでも、まだきついのだろう。


「ガルヴ、もう少しゆっくりな」

「がう!」


 しばらく走って、宮殿に戻った。

 そのころには、水竜が十頭ほどついて来ていた。

 走っていると、

「あ、ラックさん! どうしたんですか?」

 とか言いながら追走してくるのだ。


「はぁはぁはぁはぁ」

「ニア、大丈夫か?」

「大丈夫です!」

「がうー?」

 息のあがったニアをガルヴが心配そうにぺろぺろ舐めていた。


「はい、お水なの」

 リーアが水を持ってきてくれた。


「はぁ、はぁ、ありがとうございます」

「がふがふがふ」

 ニアとガルヴは嬉しそうに水を飲む。


「はい、ラックさんも」

「ありがとう」

 俺も水を飲む。水竜の集落で飲む水はいつもうまい。


「リーアは足が速いな」

「リーア、かけっこは得意なの!」


 嬉しそうにリーアの尻尾が上下に揺れた。


「む? リーア、かけっこしたのであるか?」

 ケーテがやってきたようだ。


「ケーテ、急に呼んで申し訳ない」

「構わないのである。今日は暇だったのだ」

「……そうか。ドルゴさんは?」

「父ちゃんも、すぐ来るのである」

「それなら、そろそろ宮殿に入った方がいいな」


 宮殿の応接室に入ると、侍従長モーリスがお茶やお菓子を出してくれた。

 それをありがたくいただいていると、エリックとゴランが到着した。

 ドルゴもほぼ同時にやってきた。


「急に呼び出して申し訳ない」

「いや、どんな情報でも欲しいからな。早速詳しい話を聞かせてくれ」


 エリックは真剣な表情でそう言った。

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