しばらくゴランはそのままだった。セルリスの同行について考えているのだろう。
真剣に考えていることがわかっているので、皆なにもいわない。
ただ、ガルヴだけが嬉しそうに俺の手をぺろぺろ舐めていた。
そして、ゴランは目を開ける。
「ロック。エリック」
「なんだ?」
「足手まといになるが……いいか?」
「……俺は構わぬ。ゴランが決めろ」
「俺も構わない。セルリスの剣技は一人前だ」
「すまないな」
ゴランはセルリスを見る。
「はっきり言おう。俺はセルリスの力量が充分だとは思っていない」
「はい」
「それでも同行したいというなら覚悟を決めろ」
「はい! 覚悟はできています」
「ならば、付いてきなさい」
「ありがとうございます!」
セルリスの同行が決まったところで、俺はケーテに尋ねる。
「どうする? ケーテは同行するか? それとも防衛に残るか?」
「そうであるなー、悩みどころである」
そう言ってケーテはリーアと侍従長モーリス、ニアを見た。
「ううむ。集落への攻撃がどの程度の規模になるのか、そもそも果たして襲撃があるのかわからぬが……
そちらはロックがおるから大丈夫であろうしな。万一のことを考えてこちらに残るのである」
「そうか。ケーテが残ってくれるなら、心強い」
「そうであろう、そうであろう」
ケーテは満足げにうなずいている。
リーアも嬉しそうな表情になった。
「ケーテ姉さまはリーアと一緒にいてくれるの?」
「そうであるぞー。ニアも一緒に遊ぶのである」
「はい」
ニアも笑顔だ。だがドルゴは複雑な表情になる。
遊ぶなと言いたいが、リーアとニアが嬉しそうだから困っているのだろう。
「風竜王陛下。節度と緊張感をお持ちください」
悩んだ結果、ドルゴは、ケーテを娘ではなく王としてたしなめることにしたようだ。
「わかっているのである。ガルヴも残ってほしいのだがなー」
「がう? がう!」
だが、ガルヴは俺と一緒に来たいようだ。
両前足で、俺の右手をひしっとつかんでいる。
「ガルヴは俺と同行したいみたいだから」
「そうか。残念である」
俺はガルヴの前足をつかむ。そして目を見た。
「ガルヴ。大丈夫か?結構走るぞ?」
「がう」
「敵もいっぱい出ると思うが……」
「がう!」
ガルヴの決意は固そうだった。
それから、襲撃の準備に入る。
シアは狼の獣人族の族長たちに連絡をして、攻撃の段取りを整える。
そして、ドルゴとエリックは盾を選定して、それに転移魔法陣を刻む作業だ。
俺の屋敷からフィリーを呼んできて、一緒に作業している。
エリックは盾を実際に、持ち上げる。
「少し重いですね……」
「ですが、これ以上小さくなると、転移魔法陣としての用途を果たすのが難しくなります」
魔法陣を刻む係のドルゴがそういうのならそうなのだろう。
「なるほど……。それならば仕方ないですね。多少重くともなんとかなるでしょう」
「陛下、発言してもよろしいですか?」
フィリーが少し緊張した様子で口を開いた。
「フィリー。なんでも言ってくれ。それにここは公的な場でもないのだ。わざわざお伺いを立てなくてもよい」
「ありがとうございます。素材を鋼から、オリハルコンとミスリルの合金にすれば……」
「確かにそれならば、軽さも強度も問題なかろうが……。今から買い付けるにしても、探すにしても時間がかかりすぎる」
「以前、試しに作った盾がございます。それを持ってまいりましょう。それでよろしければ……」
盾はフィリーが昔作った試作品を利用することになった。
俺はリーアと侍従長モーリスとともに、集落の周囲を見て回る。
絶対はしゃいで疲れると思ったので、ガルヴにはお留守番をさせている。
「一応、侵入者を察知する魔法は強化しておきます」
「ありがとうございます」
「平時であれば、弱い魔獣などにいちいち反応するので面倒になるのですが……」
「今は有事ですからね。助かります」
「ただ、作動していない魔装機械の侵入を察知は出来ないのでご注意ください」
「はい。肝に銘じておきます」
侵入者察知の魔法を強化して、それをリーアとモーリスの腕輪に連動させた。
「ラック、ありがとう」
「リーアも気を付けるんだぞ」
「はい!」
そして、俺たちは水竜の宮殿に戻った。
「おお、ラック。戻ったか」
「それが、転移魔法陣の盾か?」
「そうだ。なかなか良さそうだろう? フィリーは鍛冶師としても才能があるようだ」
エリックは盾を構えて、聖剣を素振りしている。
調子を確かめているのだろう。
装飾はないが、シンプルで実用的で美しい白銀色の盾だった。
盾の転移魔法陣とつなげる集落側の転移魔法陣は小さな小屋の中に設置した。
敵に利用された時の備えとして、魔法でできる限り固めておく。
そのとき、シアが走ってきた。
「狼の獣人族から、追加の情報であります。敵の本拠地はこのあたりだろうと、陛下にお伝えしろとのことであります」
シアは地図の一点を指さした。
「ほう?」
「隠蔽の魔法などでガチガチに固めているうえ、そのあたりからヴァンパイアどもが湧いてくるであります」
「なにかがあるのは間違いあるまい。とりあえず、その場所を叩いてから考えるとしよう。獣人族に感謝を」
「ありがたきお言葉であります!」
シアは通話の腕輪で連絡を取り始めた。
狼の獣人同士連絡を取り合う通話の腕輪があるのだろう。
それを見ながら、俺は言う。
「では、急いで向かいましょうか」
「私が竜の姿で、お送りしましょう」
敵が襲撃を予想していたとしても、対応に間に合わないほどドルゴは速い。
「それで行きましょう」
そういうことになった。