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186 水竜集落の防衛その2

 俺の腹から流れる血を見て、

「ふっ」

 ヴァンパイア、恐らくハイロードがにやりと笑う。

 その剣には黒い液体が付着している。恐らく毒だ。

 時間がない。毒で動けなくなるまでに敵を殺しきるしかないだろう。


「敵は毒を使っている! 気をつけろ!」

 全員に呼びかける。


「わかりました!」

 水竜たちが返事をしてくれる。


 水竜たちとの会話を隙と思ったのだろう。


「死ねっ!」

 ヴァンパイアハイロードが襲い掛かってくる。

 大きな昏竜も息を合わせて攻撃してくる。


「いいコンビネーションだ。だが甘い」

 俺は大きな昏竜とヴァンパイアにまとめて重力魔法をぶつける。


「ぐがっ!」

「GYAAAAA……」


 突進中のハイロードと昏竜は立っていられなくなり転倒する。

 地面に転がり、抑えつけられる。

 そこに魔法の槍をそれぞれ十本ずつ撃ち込む。昏竜の全身に魔法の槍が刺さった。

 だが、ハイロードは跳びはねて避けた。俺の重力魔法を振り切ったのだ。

 ただのハイロードではなさそうだ。

 エリックとゴランが戦っているのと同じ階級だろうか。


 ハイロードは毒のついた剣で襲いかかってくる。

 俺は大きめに避けて間合いを広げる。


「ガルヴ、剣に毒が塗ってある。気をつけろ!」

「ガウガウ!」


 ガルヴは俺の言葉を理解してくれた。少し距離をとり、油断なく姿勢を低くしている。

 左右に素早く移動しながら、隙をうかがっていた。


「劣等種族の人間風情が!」


 ハイロードが叫びとともに、常人には目にもとまらぬ速さで突っ込んでくる。

 俺との間合いが一気に縮まる。そして鋭い斬撃。

 俺は紙一重でかわすと、そのままハイロードの首を左手でつかむ。


「なっ、なぜ、動ける。毒を食らったはずだ」

「ああ、だいぶ動きが鈍くなってる。劣等種族だから毒ごときで体力が足りなくなるんだよ。すまないが、体力をもらうぞ」

 俺はドレインタッチを発動する。


「ぎゃああああああああ」

 ハイロードは絶叫を上げ、一気に老人のような容姿に変わっていく。

 逃げようというのだろう。剣を落とし、手の先から霧に変化しかける。

 そこにガルヴが素早く突っ込む。ハイロードの胴体に噛みついた。


「ひぎぎいいい」


 ハイロードは聞いたことのないような絶叫を上げた。変化できなくなったのだ。

 すでに霧になっていた部分は、俺がドレインタッチで吸収しておく。

 そして、魔神王の剣で、ハイロードの首を斬り落とした。

 魔神王の剣で斬り裂いても、生命力は吸収できる。

 このようなとき、非常に便利だ。


「ラックさん、動かないでください。すぐに治癒魔法を……」

 水竜の一頭が、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「ありがとう。だが、大丈夫だ」

「いえ、大丈夫な顔色では……」

「慣れているから」


 そういって笑っておいた。

 魔神との十年間の戦いの最中、何度も毒を食らっている。

 対処法はいくらでもある。回復魔法をかけてもらうその時間が惜しい。

 回復魔法が使えなくても、俺にはドレインタッチがあるのだ。


 俺の体内に入った毒は強力なものらしい。たしかに意識が少し朦朧とする。

 だが、まだ敵はいる。休むわけにはいかない。

 俺は次に大きい昏竜に狙いを定めた。


 俺は魔装機械に雷撃系の魔法を撃ち込みながら、昏竜に襲いかかる。


「GYAAAAA!」

 昏竜は咆哮して魔法を撃って、爪をふるう。

 昏竜の腕を魔神王の剣で斬り落とし、直接触れて、ドレインタッチを発動する。

 そうすることで、一気に体力が回復するのだ。

 毒で失った体力を回復しながら戦った。


 水竜やケーテの奮戦もあり、しばらくたって魔装機械と昏竜の討伐が完了した。


「ラックさん、今度こそ止まってください! 解毒の魔法をかけさせてください」

「ありがとうございます」

「それにしても、あの毒をうけて戦い続けられるとは……。竜以上の体力ですね」


 水竜たちにも毒をうけたものがいたのだ。

 竜の身であっても、動けなくなったらしい。

 速やかに解毒しなければ、命が危ない。そんな毒だったようだ。


 リーアが慌てた様子で駆けてくる。

「ラック、大丈夫? 毒に侵されてしまったの?」

 リーアが竜の姿のまま心配してくれた。大きな鼻先を俺の顔にくっつける。


「大丈夫だよ。顔色の割に平気だ」

 俺はリーアの顎の下を優しく撫でた。


「がーう……」

 ガルヴも心配そうに俺の匂いを嗅いでいる。ガルヴのことも撫でておいた。


「ガルヴも心配してくれるのか。ありがとう」

 そんなことをしていると、あっという間に楽になる。


「ありがとうございます。もう楽になりました」

「もう、大丈夫なのですか?」

「はい。さすがは水竜の魔法ですね」


 ほめると、水竜は照れていた。

 水竜は回復系の魔法が得意なようだ。解毒の効果が非常に高い。

 回復魔法のエキスパートであるエリックの妻レフィを連れてきたら喜ぶかもしれない。

 そんなことを思った。

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