俺の腹から流れる血を見て、
「ふっ」
ヴァンパイア、恐らくハイロードがにやりと笑う。
その剣には黒い液体が付着している。恐らく毒だ。
時間がない。毒で動けなくなるまでに敵を殺しきるしかないだろう。
「敵は毒を使っている! 気をつけろ!」
全員に呼びかける。
「わかりました!」
水竜たちが返事をしてくれる。
水竜たちとの会話を隙と思ったのだろう。
「死ねっ!」
ヴァンパイアハイロードが襲い掛かってくる。
大きな昏竜も息を合わせて攻撃してくる。
「いいコンビネーションだ。だが甘い」
俺は大きな昏竜とヴァンパイアにまとめて重力魔法をぶつける。
「ぐがっ!」
「GYAAAAA……」
突進中のハイロードと昏竜は立っていられなくなり転倒する。
地面に転がり、抑えつけられる。
そこに魔法の槍をそれぞれ十本ずつ撃ち込む。昏竜の全身に魔法の槍が刺さった。
だが、ハイロードは跳びはねて避けた。俺の重力魔法を振り切ったのだ。
ただのハイロードではなさそうだ。
エリックとゴランが戦っているのと同じ階級だろうか。
ハイロードは毒のついた剣で襲いかかってくる。
俺は大きめに避けて間合いを広げる。
「ガルヴ、剣に毒が塗ってある。気をつけろ!」
「ガウガウ!」
ガルヴは俺の言葉を理解してくれた。少し距離をとり、油断なく姿勢を低くしている。
左右に素早く移動しながら、隙をうかがっていた。
「劣等種族の人間風情が!」
ハイロードが叫びとともに、常人には目にもとまらぬ速さで突っ込んでくる。
俺との間合いが一気に縮まる。そして鋭い斬撃。
俺は紙一重でかわすと、そのままハイロードの首を左手でつかむ。
「なっ、なぜ、動ける。毒を食らったはずだ」
「ああ、だいぶ動きが鈍くなってる。劣等種族だから毒ごときで体力が足りなくなるんだよ。すまないが、体力をもらうぞ」
俺はドレインタッチを発動する。
「ぎゃああああああああ」
ハイロードは絶叫を上げ、一気に老人のような容姿に変わっていく。
逃げようというのだろう。剣を落とし、手の先から霧に変化しかける。
そこにガルヴが素早く突っ込む。ハイロードの胴体に噛みついた。
「ひぎぎいいい」
ハイロードは聞いたことのないような絶叫を上げた。変化できなくなったのだ。
すでに霧になっていた部分は、俺がドレインタッチで吸収しておく。
そして、魔神王の剣で、ハイロードの首を斬り落とした。
魔神王の剣で斬り裂いても、生命力は吸収できる。
このようなとき、非常に便利だ。
「ラックさん、動かないでください。すぐに治癒魔法を……」
水竜の一頭が、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ありがとう。だが、大丈夫だ」
「いえ、大丈夫な顔色では……」
「慣れているから」
そういって笑っておいた。
魔神との十年間の戦いの最中、何度も毒を食らっている。
対処法はいくらでもある。回復魔法をかけてもらうその時間が惜しい。
回復魔法が使えなくても、俺にはドレインタッチがあるのだ。
俺の体内に入った毒は強力なものらしい。たしかに意識が少し朦朧とする。
だが、まだ敵はいる。休むわけにはいかない。
俺は次に大きい昏竜に狙いを定めた。
俺は魔装機械に雷撃系の魔法を撃ち込みながら、昏竜に襲いかかる。
「GYAAAAA!」
昏竜は咆哮して魔法を撃って、爪をふるう。
昏竜の腕を魔神王の剣で斬り落とし、直接触れて、ドレインタッチを発動する。
そうすることで、一気に体力が回復するのだ。
毒で失った体力を回復しながら戦った。
水竜やケーテの奮戦もあり、しばらくたって魔装機械と昏竜の討伐が完了した。
「ラックさん、今度こそ止まってください! 解毒の魔法をかけさせてください」
「ありがとうございます」
「それにしても、あの毒をうけて戦い続けられるとは……。竜以上の体力ですね」
水竜たちにも毒をうけたものがいたのだ。
竜の身であっても、動けなくなったらしい。
速やかに解毒しなければ、命が危ない。そんな毒だったようだ。
リーアが慌てた様子で駆けてくる。
「ラック、大丈夫? 毒に侵されてしまったの?」
リーアが竜の姿のまま心配してくれた。大きな鼻先を俺の顔にくっつける。
「大丈夫だよ。顔色の割に平気だ」
俺はリーアの顎の下を優しく撫でた。
「がーう……」
ガルヴも心配そうに俺の匂いを嗅いでいる。ガルヴのことも撫でておいた。
「ガルヴも心配してくれるのか。ありがとう」
そんなことをしていると、あっという間に楽になる。
「ありがとうございます。もう楽になりました」
「もう、大丈夫なのですか?」
「はい。さすがは水竜の魔法ですね」
ほめると、水竜は照れていた。
水竜は回復系の魔法が得意なようだ。解毒の効果が非常に高い。
回復魔法のエキスパートであるエリックの妻レフィを連れてきたら喜ぶかもしれない。
そんなことを思った。