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220 材料の採取

 ゲルベルガさまは五枚の羽を提供してくれた。

 そのおかげでガルヴに爪の先だけ提供してもらえれば大丈夫になった。


「ガルヴ、ほんの少しだけ、爪の先をくれないか?」

「……がぅ」


 恐る恐るといった感じで、ガルヴは前足を差し出してくれた。


「ありがとう」

 俺は慎重にガルヴの爪の先を削り取るように魔法で切り取る。


——ガチン


 ガルヴの爪は非常に硬いので、切り取る瞬間音が鳴る。


「きゃうん!」


 痛くないはずだが、びっくりしたのかガルヴは声を出した。

 念のために聞いておく。


「ガルヴ。痛かったか?」

「……がう」


 ガルヴは申し訳なさそうに耳をぺたんとさせて、尻尾も力なく垂れさがる。

 やはり痛くはなかったらしい。びっくりして悲鳴を上げたことが恥ずかしいのだろう。

 だが、爪を切る際に大きく音がなった。びっくりするのは仕方のないことだ。


「なるべく早く済ませるからな」

「がぅ」


 そして、俺はガチンガチンと爪の先を切り取っていく。

 そのたびにガルヴはびくりとした。


 ガルヴは子狼だが、巨大なのでそれに比例して爪も大きい。

 切り取った先は俺の小指の爪の半分ぐらいの長さはある。

 それが二十だ。充分だろう。


狼爪ろうそうは他の爪に比べて比較的伸び気味だな」

 俺がそういうとケーテが笑う。


「ガルヴは狼なのだから、全部狼爪といっていいのである」

「そうだな、犬の狼爪にあたる爪と言った方がいいかもしれない」


 そんなことを言いながら、俺はガルヴの爪を切り終わる。


「ガルヴ、よく頑張ったな!」

「偉いのである」「さすがです!」「ガルヴは偉いね!」「こここ」


 俺が褒めると、ケーテ、モルス、ルッチラ、ゲルベルガさまも一緒に褒める。

 褒められると、ガルヴは嬉しそうに尻尾を振った。


「がうがぅ」

 そして部屋の中をぐるぐる歩く。爪の具合を確かめているのだろう。


「どうだ? 大丈夫か? 違和感とかないか?」

「がう!」


 ひと声なくと、ガルヴは俺の両肩に前足を乗せて、顔をべろべろ舐めてきた。

 甘えているのだろう。とりあえず、撫でてやった。


 ガルヴは、どうやら大丈夫らしい。一安心だ。


 これで材料がそろった。

 俺はガルヴの爪の先、そしてゲルベルガさまの羽を机に並べる。

 その横に魔法の鞄から取り出した魔石を置いた。

 強力な魔物を討伐した際に得た高級な魔石だ。

 さらにその横に、ケーテがオリハルコンとミスリルのインゴットを置いていく。


 それを見ながら、モルスが言う。


「これだけの材料があれば、よい魔道具が作れそうです」

「うむ。張り切って作るのである!」


 そして、俺たちは魔道具つくりに入った。

 昏き者どもの侵入を防ぐ結界を発生させる魔道具だ。

 屋敷周辺を覆えるほどの範囲が必要だ。ダークレイスの侵入を防げるだけの強度も欲しい。


 作成の途中で手伝ってくれていたルッチラが尋ねてくる。

「この魔道具はどのくらいの強さの敵を防げるのですか?」

「うーん、ダークレイスは防げるのである。あと魅了された奴とか眷属とかも防げるのだ」

「ヴァンパイアは防げますか?」

「レッサーも難しいのである。ゴブリン程度なら防げるかもしれぬが……」


 ルッチラはそれを聞いて驚いたようだ。


「レッサーも難しいのですか?」

「神の加護とは違うからな。ダークレイスは体が魔素でできているから、結界でも防ぎやすいんだが物質の体を持っている奴はそうそう防げないな……」

「そうなのですか」


 ルッチラの問いに俺が答えると、すこしがっかりしたようだった。

 とはいえ魅了にかかった者とダークレイス以外、狼の獣人族は見つけられる。

 だから見つけられないやつの侵入を防げれば、最低限の機能としては合格だ。


「屋敷の壁を強化すれば、物理的な体を持つものなら大体防げるから大丈夫だろう」

「そうですね! ロックさんの屋敷とか秘密通路にかけてるやつですね」

「そうそう」


 俺たちが作業に熱中していると、扉がノックされた。


「はい、入って大丈夫ですよ」

「お邪魔するであります」

 入ってきたのはシアだった。


「どうした?」

「お邪魔して申し訳ないでありますが……。そろそろ夕食を食べたほうがいいであります」

「もう、そんな時間か」

「いえ、とっくにそんな時間は過ぎているでありますよ」


 気づかぬうちに深夜になっていたようだ。

 最初の試作品ができたのがおやつの時間。

 それから、遅めの昼食をとり、ダークレイスの襲撃を撃退した。

 そのうえ壁を修復し、魔道具作りに入ったのだ。その時点で日は沈んでいる。


 よく考えたら、夜も更けて当然だ。

 俺たちはともかく、成長期のルッチラはご飯をしっかり食べるべきだ。

 そしてよく眠るべきだ。


「せっかくだ。夜ご飯を頂こうかな」

「それがいいであります!」

「よく考えたら、お腹が減ったのである!」

 ケーテも嬉しそうに尻尾を揺らす。


「急いだほうがいいのは確かですが……。空腹と睡眠不足はクオリティの敵ですからね!」

 モルスもそう言ってうんうんとうなずいた。


 そして、俺たちは夕ご飯を食べて、風呂に入ってひとまず寝た。

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