そして、ハイロードの頭だけ残った。頭にもドレインタッチをかけて魔力を吸う。
コウモリや霧に変化する余力も残さない。
「そこで待ってろ。あとで話を聞かせてもらう」
「……なめるな人間風情が」
ハイロードはぼそっとそういうと、灰になった。尋問されないように、自ら命を絶ったのだ。
情報を得られないのは残念だが、仕方がない。
俺はシアたちに言う。
「敵の首魁は倒した。残りは残党。さっさと狩ろう」
「了解であります!」「大丈夫! すぐに片付くわ!」
シアとセルリスはヴァンパイアたちとの戦闘を有利に進めていた。
ニアやルッチラ、ガルヴは俺に返事をする余裕はないらしい。それでも悪くない動きだ。
ケーテも、ヴァンパイアどもをどんどん屠っている。
転移魔法陣から出現するヴァンパイアも打ち止めになったようだ。
シアたちが戦局を有利に進めてくれていた。そこに俺が加われば、すぐに片付く。
すべてのヴァンパイアを討伐したあと、念のために魔力探知を発動する。
俺たちから逃れたものがいないか、確かめるためだ。
「ルッチラ。疲れているだろうが、魔力探知を忘れるな」
「はぁはぁ。はいっ!」
俺が魔力探知をしているので、今回に限ればルッチラは休んでいてもいい。
だが、魔法の訓練のためだ。それに戦闘における魔導士の心得を教えるためでもある。
ルッチラは素直に魔力探知を発動する。疲れている割に範囲が広い。
なかなかの魔導士に育っている。頼もしい。
俺はルッチラよりずっと広い範囲に魔力探知をかけていく。
ヴァンパイアを含めて、周囲に敵影はないようだ。
「どうだ、ルッチラ」
「はい。周囲に敵の気配なしです」
「お疲れさま。ルッチラ、全体的にいい動きだった」「ここぅ」
ゲルベルガさまは俺の懐から顔だけ出して、やさしく鳴いた。
ルッチラを褒めているのだろう。
「ありがとうございます。ロックさん。ゲルベルガさま」
ゲルベルガさまにも褒められて、ルッチラは嬉しそうだ。
「シア、ニア、セルリスも強くなったな」
「お世辞でもうれしいでありますよ」
「ありがとうございます!」
「ロックさんは、あまりお世辞は言わないわ! 自信になるわ」
三人とも嬉しそうだ。
「がうー」
ガルヴが俺に体を押し付けてくる。褒めてもらいたいのかもしれない。
「ガルヴも強くなったな。いい動きだった」
「ガウ!」
尻尾をびゅんびゅんと振った。
「それにしても、大量のヴァンパイアだったな。全部で何体だ?」
「八十体ぐらいでありますよ」
「そんなにか……。とりあえず死骸の処理を始めてくれ」
「了解であります」
シアたちが死骸の処理を開始する。アークヴァンパイア以上は死ぬと灰になるので処理は楽だ。
そして、俺はというとエリックとゴランに連絡を取ることにした。
その時、ばさばさ羽をはばたかせながら、ケーテが寄ってくる。
顔が近い。ケーテは顔も体も巨大なので、圧倒される。
「ロック、ロックっ! 我はどうであったか?」
「なにが?」
「戦いぶりとか……そういうのである!」
ケーテはシアたちと違って、元から強い。だから講評しなかった。
失礼に当たると思ったからだ。だが、ケーテは俺の講評を期待しているようだ。
「ケーテも強かった。見事な動きだった」
「そうであるかー」
ケーテは満足げにうなずくと、尻尾をゆっくりと揺らした。
その様子を見ながら、俺はエリックとゴラン、ドルゴに通じる通話の腕輪を作動させた。
「少し報告がある」
『お、何があった? ダークレイス関連で何かあったのか?』
最初に返答をしてきたのはエリックだ。
エリック、ゴラン、ドルゴ、そして水竜の集落にはダークレイスについて報告してある。
「そのとおりだ。少し厄介なことがあってな」
エリックから少し遅れて、ゴラン、ドルゴ、そして水竜のリーアとモーリスから返答があった。
全員が聞いていることを確認して俺は説明する。
「いまちょうど狼の獣人族の屋敷を強化して、魔道具を設置しおわったところなんだが……」
ダークレイスの襲撃があったこと。それにレッサーヴァンパイアが同行していたこと。
そして謎の魔道具があり、隠ぺいを解除したら大爆発したこと。
爆発に合わせて転移魔法陣からヴァンパイアハイロードやロードの大群が出現したこと。
それらを手短に報告していく。
「で、今から俺は転移魔法陣をくぐって、向こう側を掃除してくる予定だ」
『ちょ、ちょっとまて!』
『まあ、待て。ロックよ』
ゴランとエリックが慌てている。
「どうした? 何か問題があるか?」
『問題しかねーぞ。俺もすぐに向かうから待っていろ』
「そんな時間はないんじゃないか? 向こうから魔法陣をふさがれる可能性もあるしな」
『まあ、落ち着け。ロック』
エリックがなだめるように言う。俺が慌てているように思えるのかもしれない。
「待てというのなら待つが……」
『とりあえず、十分ぐらい待って欲しい』
『少し待ってくれねーか?』
「わかった」
その後、しばらくエリックやゴラン、ドルゴの通話の腕輪からバタバタ音がしていた。