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249 人質の救出

 俺は改めて全員に言う。

「中にいるのは魅了をかけられた人間だ。危害を加えないよう制圧してくれ」

「了解したわ」

「気絶している可能性も高いだろうが、油断はしないに越したことはない」

 ゴランが笑顔でそう言った。


 真祖は逃亡した。とはいえほとんど魔力を奪い瀕死にはしたのだ。

 魅了をかけたのが真祖の場合、気絶している可能性はあるだろう。


「真祖ともあろうものが、人間如きにいちいち魅了をかけるとも思えぬが」

 エリックの言う通りでもあるのだ。

 ロードどころか、アークヴァンパイアでも魅了をかけることは出来る。

 そして、アークもロードもハイロードも見つけ次第、退治してきた。


「もし真祖以外が魅了をかけていたのなら、気絶している可能性はさらに高いだろうな」

「とりあえず、見てみるとよいのである。あけて良いか?」


 ケーテは扉のノブに手をかけている。うずうずしているようだ。

 もちろん魔導士であるケーテは罠などは調べたうえでそうしている。

 ガルヴもケーテのすぐ近くでハアハア言っている。そんなガルヴを引き離してから、

「ああ、開けてくれ」

「うむ!」


 ケーテが扉を開けると、ちょっとしたパーティーを開けそうなぐらい広い部屋だった。

 その床に五人の人間たちが転がっている。


「気絶か。てえことは魅了をかけたやつは倒したって考えてもいいかもしれねーな」

「恐らくはな」

 そう返事しながら、俺は一人一人に念入りに魔力探査マジック・エクスプロレーションをかけて行く。

 真祖の魔力切れによる魅了化解除の場合、魔力を取り戻した後どうなるのかわからない。

 だから慎重に処理をする。


「どうやら、大丈夫なようだ。魅了は完全に解除されている」

「それは何よりだわ」

「介抱を始めるでありますよ」


 シアとセルリス、ゴランとエリックに介抱を任せて、俺とケーテ、ガルヴは部屋を調べる。

 魔道具の類は見つからない。

 倒れていたのは女ばかり五名。ベッド五台に、トイレと風呂も部屋の中にあるようだった。

 食事さえ供給されれば、ここで日常生活は送れなくはないだろう。


「おおっ? まさか!」「えっ? なんてことなの」

 ゴランとセルリスが同時に驚いた様子で声を上げた。


「どうした?」

「……こいつは俺の徒弟とていの一人だ」

 ゴランが一人の少女を抱きかかえながらつぶやくように言う。


「なんだって?」


 詳しく俺が聞こうとしたとき、

 ——ダガアアアァァン

 今いる建物、その少し離れたところから轟音が響いた。


「なんなの!?」「どうしたのであるか!」「ガ、ガウ!」

 セルリス、ケーテ、ガルヴが慌てる。三者とも慌てながらも身構えているので大したものだ。


「壁をぶち抜いた音だろうな」

「ロックさん、さすが冷静ね! つまりは敵襲ってことよね?」


 セルリスは剣を抜いて腰を低く構えた。シアも剣を抜き、ガルヴは姿勢を低くして尻尾を立てる。

 敵襲とは限らないが、警戒するのは正しい。


「竜形態に戻ったほうがよいか?」

「いや、とりあえずはいいだろう。昏竜はいない。人族だしな」

 当然、俺は魔力探知と魔力探査をかけ続けている。

 壁を爆破して突入してきたのは、三十人程の人族。統率のとれた素晴らしい動きだ。


「ロック。どう見る?」


 エリックはとても落ち着いている。だが、一応フードを取り出してかぶった。

 他国であることを考えて、正体がばれることを懸念したのだろう。


「対ヴァンパイア部隊だと思うが……。変装ディスガイズの魔術をかけておこうか?」

「ああ、頼む。普通ならばれることを懸念して断るべきなんだろうがな」


 魔法で変装していることがばれたら、当然のことながら疑いの目が強くなる。

 だから、ばれる可能性があるなら、最初から魔法で変装などしない方がいい。


「まあ、よほどのことがなければ、ばれまいよ。一応言っておくが抵抗はするなよ?」

「わかっているさ」


 エリックは、勇者だけあって魔力抵抗値が非常に高い。

 その上から無理やりかけるとなると、俺でも骨が折れる。

 だが、抵抗されなければ、変装魔術をかけるのは難しくない。


 それを見ていたセルリスが驚いたようだ。

「すごい。おじさまにまったく見えないわ。まるで幻術ね」

「幻術とはちょっと違う。いや、術理はとても似ているか」


 幻術は臭い、音、魔力を含めて、総合的に周囲の者の感覚すべてをだます魔法だ。

 変装魔術は姿、それも人相と髪色だけをごまかす魔法。身長や声は変えられない。

 だが相手の感覚をごまかすという点は共通だ。変装は幻術の下位互換と言ってもいい。


 そんなことを説明している間にも、侵入者たちはこちらに真っすぐ向かって来ていた。


「とりあえず、敵か味方かわからないから俺が対処する」

「おう、任せる。敵を無力化させる能力ならばロックが一番だ。俺は人質を保護しておく」

 ゴランは剣すら抜かず腕を組んでいる。全面的に俺に任せるつもりのようだ。


「魔導士もいるのであるなー」

「そうだな」


 その間に侵入者たちは扉の前に静かに隊列を整えている。

 ——ダーン

 そして扉が爆音ともに一気にぶち破られた。

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