俺はきちんと正確な情報を伝えなければならないと考えた。
「マルグリット。転移魔法陣の開通まで早くても半日だ。遅ければ数日かかるかもしれない」
「え? 遅くても数日で済むの?」
意外にもマルグリットは前のめりになる。
「……あぁ、そのぐらいだろう」
「普通の宮廷魔導士なら数か月かかるわ。いくらロックでも数週間はかかるものとばかり」
「がっはっはっは! 数週間ならケーテでもできるのだ。ロックがそんなにかかるわけないのだ」
「がうがう!」
ケーテは尻尾を床にびたんびたんと叩きつけている。
その尻尾に嬉しそうにガルヴがぴょんぴょん飛びついている。楽しそうで何よりだ。
「じゃあ、俺は魔法陣を開通させて来る。ほかの調査や連絡は任せた」
「おう、任せてくれ」
調査も連絡も大切だが面倒だ。だが、全部エリックとゴランに任せておけばいいだろう。
俺は転移魔法陣の置いてある部屋に戻る。ガルヴが一緒について来た。
「……さて」
俺は転移魔法陣の調査に入る。
隠ぺいが得意な真祖の拠点にあった魔法陣だ。警戒しすぎるということはない。
そもそも、ここに来たのが、解析したら爆発する仕掛けがきっかけだった。
解析は慎重に、それも爆発なども考慮しなければならない。
「一番厄介なのは、支配権を取り返されることだよな……」
この転移魔法陣は遠隔操作で破壊された。その仕組みも解析する必要がある。
「思ったより厄介かもしれない」
早ければ半日とか調子乗ったこと言わなければよかった。
後悔しはじめた俺を励まそうというのか、ガルヴがそっと足に寄り添ってきた。
それからしばらくたって、部屋にゴランが入ってきた。
「ロック。調子はどうだ?」
「ああ、いまちょうど終わったところだ」
「……終わったのか?」
「ああ。どのくらいかかった?」
集中しすぎたせいで、どのくらい経ったかよくわからない。
「…………二時間」
「十二時間か? 想定よりも早くできたな」
「いや、十二ではなく、二時間だ」
「…………本当に?」
「ああ、本当だ」
思ったより時間が経っていない。俺の力量から考えても半日から一日かかると想定していた。
「……ゴラン」
「どうした?」
「もしかしたら、最近、強くなったかもしれない」
「…………そうか」「がうがう!」
少しゴランは固まっていた。一方、ガルヴは元気にゴランに飛びついていた。
それから、俺とゴランとガルヴは開通を知らせに皆のところに戻った。
どうやら、皆は食事の準備をしていたようだ。
食事の準備が完了したので、俺を呼びに来たのだろう。
「ロック。魔法陣の調子はどうであるか?」
「さっき終わったところだ」
「ふーん……え?」
ケーテにすごく驚かれた。そして、みんなにも驚かれた。
それから皆でご飯を食べた後、ケーテが言う。
「皆が転移魔法陣で帰った後、リンゲインの王都の方にケーテが飛んで持っていくのである!」
「そうしてくれると助かる。俺も行こう」
皆が転移魔法陣を経由で帰還した後、俺とガルヴはケーテの背に乗った。
マルグリットは配下たちの都合もあり、配下たちと徒歩で帰ることになった。
そして俺はリンゲインの王都近くに転移魔法陣を設置して魔法的且つ物理的な防御を施した。
これでばれることも、悪用されることもそう簡単にはないだろう。
それから人型に戻ったケーテと一緒に転移魔法陣を通って帰還する。
そこにはエリックたちと狼の獣人族の族長たちが待っていた。
待機組のルッチラ、ニア、ゲルベルガさまにドルゴもいる。
ルッチラがゲルベルガさまを胸に抱いて、大急ぎで駆け寄ってくる。
「お疲れ様です。それにしても真祖とは」
すでにエリックたちが起こったことの説明をしてくれていたようだ。
ダントンも駆けつけてくれている。
「真祖か。我らの中にも実際に戦ったやつはいない」
やはり真祖は本当に珍しいらしい。あれほど強いのが何匹もいたら困る。
「ロック。転移魔法陣お疲れ様だ。とりあえず休め。後のことは俺がやっておく」
「すまない。任せる」
「ロック。我が送っていくのである!」
「助かる」
そして俺はルッチラ、ガルヴ、ゲルベルガさまとケーテに乗って帰宅することになった。
シア、ニア、セルリスも一緒だ。
レイス対策の魔法防御も完了している。
後はエリック、ゴラン、ドルゴ、モルスと、ダントンたち族長たちにお任せだ。
「久しぶりな気がしますね!」
「そうだな」
「こここ」「がう」
ゲルベルガさまとガルヴも久しぶりに自宅に帰れるということで嬉しそうだ。
今日はレイス対策の魔法や戦闘で、たくさんの魔法を使った。
久しぶりに疲れた気がする。今夜はぐっすり眠れそうだ。