ヴァンパイアについてはまだ知らないことがある。
真祖については特にそうだ。人前にめったに現れない上、ヴァンパイアどもは真祖について語らない。
シアたち、狼の獣人族たちですら、あまり知らないだろう。
真祖を倒せたと思ったのは間違いだったのかもしれない。
もう少し情報が欲しい。
「上司が馬鹿だと大変だな。こんな間抜けな策を実行して、あげく殺されるんだからな」
「あの方を愚弄することは許さぬぞ! 俺も神も許すまい!」
「あの方、あの方って、お前らは真祖を知らないんだ。俺ごとき猿にやられてあっけなく死ぬ程度の雑魚だ」
「……愚かな奴だ。猿があの方を殺せるわけがない」
このロードは精神的に若いようだ。いや幼いと言うべきか。
外見から、ヴァンパイアの年齢を計るのは難しいの実際の年齢はわからない。
だが、俺の挑発に乗って口がなめらかになっている。
さらに挑発すれば、もう少し話してくれそうだ。
「そう信じたい気持ちはわかるが……これは事実だ。残念だったな」
「ふん。信じたいことを信じているのはお前だろう。実際俺は……」
そこでロードは口ごもった。
「実際俺は、どうしたんだ?」
「………………」
ロードは完全に口を閉ざした。途中まで上手くいっていたのに、残念だ。
冷静さを取り戻してしまったようだ。
「…………ふん。自分たちの中に裏切り者がいるとも知らずにのんきなものだ」
「裏切り者?」
「下等生物は下等生物らしく、共食いで滅びるが良い」
「なにか計画があるのか?」
「…………」
無言のまま、ロードは灰へと変わっていった。どうやらこれ以上情報を漏らさぬように自害したのだろう。
死ぬ直前のロードは冷静さを取り戻していた。
ならば、最後の言葉も何らかの意図があると考えるべきかもしれない。
裏切り者。共食い。
ロードは死ぬ前に、俺に疑心暗鬼の種を植え付けるために、そう言ったのかもしれない。
だが、そう切り捨てて、無視することの出来ない言葉でもある。
実際、王宮に裏切り者がいることは間違いない。
そして、その裏切り者を俺たちはまだ見つけ出せていないのだ。
俺が考えていると、後ろの方からケーテが言う。
「もうよいか?」
「とりあえずは大丈夫だ」
するとケーテとガルヴ、アリオとジニーがやってきた。
「ロックさん、ヴァンパイアロードを倒されたんですか?」
「ああ倒した」
「ロックが強いことは知っていたけど……ここまでとは」
「俺はFランク冒険者だが、ベテランだからな」
「そんな無茶苦茶な」
「でも、ロックさんならあり得る気がします」
アリオとジニーはうんうんと頷いている。納得したようだった。
「ロック。ケーテは耳がいいから話を聞いてたのであるが……」
そして、俺の耳元でささやく。
「真祖は生きておるのか?」
「可能性はある。だが、はったりかもしれない。竜たちは真祖についてなにか知っていることはないか?」
「知らないのである」
「それもそうか」
もし知っていたら、ドルゴやモルスが教えてくれただろう。
竜たちにとっても、真祖は未知な存在らしい。
「とにかく、油断は出来んな」
俺とケーテがこそこそ話していると、
「ロックさん、村の様子を見てきてもいいですか?」
「ああ、ヴァンパイアに襲われた村ってのが心配だ」
ジニーとアリオは真剣な表情だ。
「いや、まだ村には近寄らない方がいい」
「どうしてだ?」
「アリオ、ジニー。村はまだヴァンパイアの手に落ちたままだ」
「ロックとケーテさんが、もうヴァンパイアを倒したんじゃないのか?」
「倒したんだがな」
俺はずっと村に魔力探査と魔力探知をかけ続けている。
その結果、村にいる魅了された者や眷属が動き続けていることを確認していた。
魅了をかけられた者も眷属にされた者も、術者が滅んだら、魅了は解け、眷属は灰になるのだ。
つまり、村人に魅了をかけたり眷属にした者は、倒したロードではないということだ。
それを皆に説明する。
「冒険者ギルドに応援を要請してあるからそれを待ったほうがいいな」
そして俺はケーテにアリオとジニーを王都まで送ってもらおうと考えた。
ヴァンパイアの拠点はFランク冒険者であるアリオとジニーにとって荷が重すぎるからだ。
「ケーテ。アリオとジニーを——つぅぅ……」
強烈に頭が痛い。吐き気に襲われ、体から力と魔力が失われていく。
「ぐうううう」「ぁぅぅぅ」
ケーテとガルヴも辛そうにうめいている。
この感覚には覚えがある。
王都などに張られる昏き者どもを排除する神の加護。
それの邪神版。強い人族や竜族、聖なる者ほどダメージを受け行動に制約を受ける邪神の加護である。