「『ろ、ロックさん、どうしてここに?』」
通話の腕輪からと直接の肉声が、ほぼ同時に聞こえる。
「説明は長くなるからあとだ。こいつらを殺してから考えよう」
「お父さま!」「ぱぱ!」
シャルロットとマリーはエリックを見て、嬉しそうだ。危機はまだ去っていないのが安心したようである。
「待たせてごめんね。シャルロット、マリー。目をつぶってなさい」
「はい! お父さま」「わかった!」
二人の王女は、素直に目をつぶる。
これから起こる凄惨な場面を見せないようにしたいのだろう。
「あなた、遅かったわね」
「これでも急いだんだよ」
「そう、なら許してあげる」
レフィは額に汗を流し、子供たちをかばうように杖を構えている。
レフィの足元を中心に、シア、セルリス、王女を守るように魔法陣が刻まれていた。
魔法陣の効果は守護結界だ。
レフィはシャルロットを身ごもるまで、俺とエリック、ゴランと同じパーティの一員だった。
超一流の回復術士にして、聖なる力の使い手だ。そのレフィの作った結界なら効力は絶大。
この辺りの霧が薄かったのは、レフィの結界の効力だろう。
「セルリス。よく粘った」
ゴランは笑顔でそういうと、セルリスとシアの足元に目をやる。
生きている十匹のヴァンパイアの他に、死んだヴァンパイアが残す灰の小山が十ほどあった。
十匹はシアとセルリスが倒したのだろう。
二十匹に襲われて、そのうちの十匹を倒すとは、二人の成長は著しい。
「時間稼ぎしただけよ!」
レフィが魔法陣を刻んで結界を張るまでの間、シアとセルリスがヴァンパイアを相手にしたのだろう。
「二十匹のコウモリ野郎相手に、時間稼げるのは素晴らしいことだ。後は任せろ」
そういいながら、俺は残った十匹のヴァンパイアの首を、魔神王の剣で順に刎ねていく。
エリックとゴランもそれぞれヴァンパイアを狩っていった。ガルヴも勢いよく飛びかかる。
十匹のヴァンパイアはロードである。ロード十匹など、俺たちの相手にはならない。
あっというまに狩りつくした。
霧やコウモリになって逃げようとしたが、ゲルベルガさまが鳴いて全て灰にする。
部屋を安全にしてから、俺は念話を使って皆に言う。
『レフィ、王女たちを連れて俺の屋敷に逃げるといい』
『そうでありますね。それがいいかも知れないであります』
『なにを言うの? 私は戦うわよ?』
『王女たちを安全な場所に逃がすだけでなく、フィリーたちの護衛が欲しい』
『ああ、ロックの言うとおりだ。いま、フィリーが神の加護の穴をなんとかする方法を考えてくれている』
『そういうことならば、わかったわ。協力できることもあるかも知れないし。ロックの屋敷に向かうわね』
『あたしたちも、ロックさんの屋敷に行った方がいいでありますかね』
『私は——』
前のめり気味にセルリスが何かを言いかけた。私は戦えると言いたいのだろう。
そんなセルリスにゴランが言った。
『セルリス』
『なに、パパ』
『人手が足りない。ついてこい』
『! わかったわ!』
『指示には従え。無理はするな』
『はい!』
セルリスは嬉しそうに張り切っていた。
シアとセルリスは子供をかばいつつ、ヴァンパイアロード二十匹を同時に相手にして十匹を倒した。
それは単に十匹だけで攻めてきたヴァンパイアを全滅させるよりもずっと難しい。
そんな強力な戦力を遊ばせる余裕はない。
そうゴランは判断したのだ。ギルドマスターらしい的確なる判断だ。
そして俺はシアに言う。
『シアも来てくれ』
『わかったであります!』
レフィと王女たちを秘密通路の入り口まで送った後、俺は魔法で周囲を探索する。
そうしながら、俺はフィリーに通話の腕輪を使って話しかけた。
「フィリー。聞こえるか?」
『……聞こえる』
通話が通じていると言うことは、霧に覆われていないと言うこと。
まだ俺の屋敷は安全だ。
「そちらに味方を送った」
声に出しているので、具体的な内容は伏せて会話をする。
フィリーは天才なので、具体的なことは言いたくないという俺の意図を察してくれるだろう。
『わかった』
「状況はどうだ?」
『難しい』
「そうか。引き続き頼む」
『ああ』
そこで通話を終える。
その間に俺は王宮の魔法での探索を終えている。
とはいえ、霧の中は探索できない。わかったのは霧の外の状況と霧の位置だけ。
だが、それがわかれば、色々と推測できる。
『こっちだ。ついてきてくれ』
俺が走ると皆がついてくる。
『ロック。こっちになにがあるんだ?』
『ゲルベルガさまが霧を払ってくれたのに、またすぐに霧が発生した箇所だ』
ゲルベルガさまの鳴き声の効果範囲はかなり広い。
だから、霧が払ってもらった場所全てを丹念に調べられたわけではないのだ。
当然見落としはある。
『なるほど霧の発生源か、どうしても隠したいものがあるということだな』
『恐らくな』
しばらく走ると、その場所が見えてきた。