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283 傭兵の事情

 そのとき、またシアたちが眷属を灰にする。これで眷属五体のうち三体が灰になった。

 元々、優れた戦士だった者たちが眷属化されてさらに強くなっている。


 それを数の不利をものともせずに、シア、セルリスとガルヴは確実に一体ずつ仕留めていった。

 三体目も灰になったのを目の当たりにして、リーダー以外の傭兵たちは現状を認識できたようだ。

「わかっ——」

「ふざけんな! お前ら、あいつをやるぞ!」


 だが、リーダーは大声で叫び、俺めがけて襲いかかっていた。

 戦士にしてはなかなかの身のこなしだ。だが、ゴランは当然のこと、シアやセルリスよりも落ちる。


「ニアのほうがまだ強いな」

「なにを——」


 俺は魔法を使わない。剣を振るう右手を掴みひねりあげて地面に引き倒した。


「降伏しないなら、拘束させて貰う。面倒だが仕方が無い」

「てめえ! 離せ! お前らも——」


 魔法で縄を作り拘束したが、リーダーはわめき続ける。

 仕方ないので魔法で猿ぐつわをかけておく。


 そして俺はシア、セルリス、ガルヴの方を見る。

 残った二体の眷属が灰になったところだった。


「おつかれさまだ。いい働きだ」

「ありがとうであります。こいつらはどうするでありますか?」

 シアは拘束済みの魅了された者六人とリーダーの計七人を見る。


「面倒だが、どこかの部屋に押し込んでおこう」

「それがいいかもでありますね」

 そして俺は傭兵たち三人に言う。


「手伝ってくれ」

「あ、ああ」

「この辺りに空き部屋はないか? 窓から侵入する予定だから直線距離で近い場所がいい」

「そうか、それなら——」

 傭兵たちは素直に教えてくれる。


「運搬は俺たちがやるから、シアとセルリスは周囲の警戒を頼む」

「わかったわ」

「任せるであります」

「がう」

 そして、俺は魅了された者六人とリーダーに向けて眠りの雲スリープクラウドをかける。


「もごも……」

 リーダーも魅了された者どもの、抵抗しようともがいたが、一瞬で眠った。

「これでよしと」

 七人はピクリとも動かなくなった。


 不安そうに傭兵の一人が言う。

「し、しんだのか?」

「いや生きている。眠っているだけだ。呼吸しているだろう? それに心臓も動いている」

 俺の言葉で傭兵たちは口元に手を近づけたり、首に手を触れて脈を確認していた。


「確かに生きているみたいだ。だが死んでいるようにしか見えないな」

「それだけ眠りが深いってことだ。当分は起きない」

「当分ってどのくらいだ?」


 傭兵の一人が尋ねてきた。

 呼吸も静かで、ピクリとも動かないので、パッと見では死んだように見える。

 だから心配になったのだろう。


「心配するな。放っておいても明日には起きるだろう」

 そして俺と傭兵たち三人で七人を部屋へと運ぶ。

 傭兵三人がそれぞれ一人ずつ背負い、俺は四人を運ぶ。


 四人を一度に運ぶのは、魔法を使わないと大変だ。

 俺は魔法で四人を浮かせて、運んでいく。


「あんたなにものだ?」

「ただのFランク冒険者だ」

 俺は本当のことを言ったのに、

「……そうか。話すわけには行かないってことか」

「機密ってやつなんだろう? 俺たちも傭兵だ。わかっている」

「ああ。深く詮索はしないさ。それが長生きするコツなんだ」

「それは助かる。痛くもない腹を探られるのは色々と面倒だからな」


 そして俺たちは近くの部屋に侵入し七人を並べる。

 それから部屋全体に魔法をかけて防御した。そのうえで外から扉や窓に魔法でロックをかける。


「これでヴァンパイアどもが殺しに来ても、容易には入れまい」


 大使館の外にある屋敷にいるよりも安全なぐらいには防備を施した。

 彼らを殺されると、情報を得ることが難しくなり、あとでエリックやマルグリットが苦労するのだ。

 防備を施した後、俺は傭兵三人に尋ねた。 


「話を聞かせてくれ」

「ああ、何でも聞いてくれ。だが、俺たちはヴァンパイアなんて知らないぞ?」

「わかっている。誰に雇われた?」

「大使館警備の仕事があったから応募したんだ」

「元々四人パーティーだったのか?」

「いや違う。三人ともソロで活動していた流れの傭兵だ」

「三人? リーダーは?」

「リーダーは俺たちが雇われたときにはすでに大使館の警備主任だった」

「なるほどな」


 もしかしたらリーダーは昏き者ども側の人間だったのかも知れない。


「灰になった奴等は、大使館で初めて会ったのか?」

「元から知っている奴ばかりだよ」

「詳しく教えてくれ」


 エリックの治めるメンディリバル王国も、隣国のリンゲイン王国も最近大きな戦争がなかった。

 そのため傭兵の需要自体が少なく、警備や護衛などの仕事で食いつないでいたようだ。


「傭兵の数自体が少ないんだ。若い奴は冒険者になるしな」

「ああ、逆に今も傭兵やっている奴は皆古いなじみだよ」


 今の傭兵は、戦争や小競り合いが多かったころから傭兵をやっている者ばかりだ。

 対人戦闘以外に得意なことがある奴は、他の仕事に就いて傭兵をやめていく。

 今も傭兵をやっているのは、騎士になれるほど家柄も教養も無く、薬草集めや魔鼠退治も苦手な者ばかり。


「今の傭兵はさ。みんな知り合いみたいなもんなんだよ」

 傭兵の一人がしみじみという。

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