破壊を終えると、俺は先ほどまで雑音がひどかったフィリーへと呼びかける。
「フィリー。聞こえるか?」
『聞こえる。随分とよく聞こえるようになったじゃないか』
「よし。成功だ」
『何を成し遂げたのだ?』
俺は魔法陣の解析を進めながら、フィリーに現状を報告する。
『ほほう。それは流石、ロックだな。ところでだ。聞きたいことがある』
「なんだ? いま解析に忙しいから、あまり丁寧には対応出来ないぞ」
そう言ったのだが、フィリーは気にした様子がない。
『今ロックさんが解析している魔法陣の構造なのだが——』
「それはだな——」
『となると、つまり——』
フィリーに説明することで、俺の理解も深まった。解析が加速していく。
しばらく会話した後、フィリーは言う。
『ロックさん。大変参考になった』
「なんだ、もういいのか?」
『ああ。こちらも神の加護については何とかしようとしているのだ。おかげで進捗が一気に進んだ』
「それは心強い」
『こっちも頑張る。ロックさんも頑張ってくれ』
「お互い頑張ろう」
それでフィリーとの通話が終わる。
フィリーも神の加護を再生させようと、全力で作業を進めてくれているのだろう。
俺とフィリーのどちらが再生させても構わない。
達成のための手段は多ければ多いほど、速ければ速いほうがいいのだ。
俺が解析を進める間、度々敵襲があった。
ゴブリンは流石にここまで侵入してこない。だがヴァンパイアはやってくる。
それも、先ほど俺たちが倒したダークレイス型ヴァンパイアだ。
ダークレイス状態で移動しているとき、狼の獣人族でも視認できない。音も臭いもないので気づけないのだ。
だが、ここまでやってきたダークレイスタイプのヴァンパイアは、ガルヴに察知されシアとセルリスに即座に斬り捨てられていた。
ガルヴにはダークレイスがわかるのだ。
見つけ次第、吠えるので、どの辺りにいるのかシアたちにはすぐにわかる。
それに、ダークレイス状態のヴァンパイアが攻撃する直前に魔力が大きく動く。
それを察知して、セルリスとシアは斬り捨てているらしい。見事な腕前だ。
「やるじゃねーか」
「た、たいしたことじゃないわ。アークだし」
ゴランに褒められて、セルリスは照れている。
ダークレイス型ヴァンパイアは、指揮を執るエリックでもゴランでもなく俺の方に襲いかかろうとしている。
だから俺を護衛しているシア、セルリス、ガルヴに狩られることになるのだが。
ちなみに周囲にいた狼の獣人族の警護兵たちは各地に走って行った。
通話の腕輪の機能が戻ったことで、人を伝令に使わなくてもよくなかったのだ。
警護兵たちは、みな一流の戦士なので、伝令に使うよりも的の討伐に向かわせた方がいいという判断だろう。
『……俺を狙ってきてるな』
解析しながら俺はゴラン、エリック、シア、セルリスに念話で話しかける。
一応、ゲルベルガさまとガルヴにも聞こえるようにしておいた。
『ああ、奴等にとってどうしても阻止したいことなんだろうさ』
ゴランが冒険者たちに指示をしながら言った。
『それはいい情報だな』
敵の嫌がることが出来ているのならば、俺の行動は大きくは間違っていないはずだ。
解析が四割ほど進むと、魔法陣の機能が少しずつ見えてきた。
すでに破壊した長距離通話の魔法を妨害する機能の下に、神の加護を打ち消す機能を司る層があった。
『……神の加護を打ち消すのがメインの機能ではないようだ』
『なんだって? じゃあメインの機能はなんだってんだ?』
ゴランが驚いているようだ。
『まだわからない』
『邪神の加護を発動させるのがメインではないのか?』
そう尋ねてきたのはエリックだ。
『かもしれない。まだはっきりとは言えないがな』
『……もしそうなら最悪だな』
ゴランの言うとおりだ。
先刻までは、神の加護に穴を空けられていた。
それによって王都の一部、王宮付近が神の加護から守られず無防備な状態になった。
それだけでも大変な事態である。
だが今は、神の加護に穴を空けられているどころではない。
この魔法陣によって神の加護そのものが打ち消されている。
無防備になっているのは王都全体だ。
『最悪、王都全体が邪神の加護の中に入るってことかしら?』
『最悪な』
俺がそう答えると、セルリスは顔をしかめる。
邪神の加護に王都が覆われれば、王都の民の体調は悪くなるだろう。
そして強力な冒険者や魔導士などは苦痛のあまり動けなくなる。
エリック直属の警護兵である狼の獣人族も動けなくなるだろう。
王都は加護も失い、守る者も失って、昏き者どもに蹂躙されることになる。
『急がねばなるまい』
そして俺は現状わかったことを、通話の腕輪でフィリーに報告する。
天才だけあって、フィリーは簡単に説明するだけで理解してくれた。
報告が終わると、俺は再び解析に集中する。
その間、どんどん敵が襲ってきた。徐々に敵の質も上がっているように見えた。
だが、シア、セルリス、ガルヴが守ってくれている。
俺が敵に構わず解析に集中していると、
「調子はどうであるか?」
上空からケーテの声が聞こえてきた。