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297 魔神王

 魔神の群れと対峙してもエリック、ゴランだけでなく、セルリスとシア、ガルヴもおびえる様子がない。

 ケーテは竜形態のまま、先陣をきって突っ込んでいく。


「ケーテが吹き飛ばすのである! あまりは任せたのだ」

「ほほう、随分と自信がありそうじゃねーか」

 そう言ったゴランの方を、ケーテは一瞬見た。


「当たり前である! ケーテは風竜王なのだ。ラック頼んだのである!」


 俺は「何を頼まれたのだろうか?」と思ったが、すぐに理解した。

 ケーテは魔神の群れに向けて、口から暴風のブレスを吐く。


 ——GGAAAA


 十数体の魔神が吹き飛んでいく。魔神は飛ばされるだけでなく身体ごとバラバラになっている。

 そしてケーテの強力なブレスの余波が、こちら側にも吹き荒れた。

 その余波を俺は障壁を張ってカバーする。さっき頼まれたのはこのことだったのだろう。


「ケーテ、本当に凄いわね」

「むふふ」


 セルリスに褒められたケーテは嬉しそうにブレスで隊列の乱れた魔神の群れに突っ込んでいった。

 牙を、爪を、尻尾を使って、魔神を倒す。

 エリックとゴランも次々と魔神を斬り捨てていった。


 魔神はヴァンパイアロードよりも強い存在だ。それでもケーテやエリック、ゴランの敵ではない。

 シアとセルリス、そしてガルヴは三者で連携して、魔神を倒していく。

 俺も魔法で魔神の頭を吹き飛ばし、魔神王の剣で魔神を斬り裂いて、奥へと進んでいった。


「エリックもゴランも、やっぱり十年前より強くなったんじゃないか?」

「当たり前だろう」

「ああ、俺たちだって十年何もしてなかったわけじゃねーんだ」


 エリックとゴランも、十年前より鮮やかに敵を倒している。


「シアとセルリスも、出会ったときと比べて格段に強くなったな」

「ラックさんのご指導の賜物でありますよ!」

「そうかしら? それなら嬉しいのだけど」

「ガルヴも強くなった」

「ガウ!」

「ケーテは?」

「ケーテも強くなったと思うぞ」


 ケーテは出会ったときから強かった。だが、さらに強くなったと感じる。

 俺たちは順調に魔神の群れを討伐しながら前進していった。

 七割程度の魔神を倒した頃、魔神より強力な昏き者の気配が近づいてくるのを感じた。


「何者であるか?」


 魔神出現時に感じた、次元の狭間を膨張させているであろう昏き者よりは弱そうだ。

 それでもハイロードよりもずっと強い。


「……魔神王か」


 エリックが目の前の魔神を斬り捨てながら呟く。


「この前殺したばかりなんだがな」


 魔神王は十年前にエリックとゴランと一緒に殺した。

 その後十年間、次元の狭間で戦った後、もう一度俺が殺した。


 魔神王という存在は、定期的に生まれるのだろう。とはいえ、間隔が短すぎる気もする。

 今回の作戦のために復活を早めたのかも知れない。


「三度目の正直って奴だな。ここは俺に任せて——」

「ラック。ここは俺に任せて先に行けっていうのは無しだ」

「ああ。むしろ、ここは俺たちに任せて、ラックは先に行け」

「そうであります! 次元の狭間を膨張させている奴を止めるにはラックさんの力が必要でありますからね」

「雑魚は任せて!」

「魔神王との魔法戦はケーテに任せるのである」

「なら、任せる。なるべく早く追ってきてくれ」

「ああ、任せてくれ」


 俺は魔神王をエリックたちに任せると、先に進む。ガルヴは俺についてきた。

 後方では、エリックたちと魔神王の戦いが始まった。

 魔神王は灼熱の炎を周囲にばらまく。距離のある俺まで熱さを感じるほどだ。


「甘いのである!」


 ケーテが暴風ブレスで炎を押し返す。

 そこにエリックとゴランが斬り掛かっていく。

 魔神王はエリック、ゴランの二人がかりの連携した斬撃を、魔神王の剣で凌いでいく。

 エリック、ゴランを同時に相手に出来るほど魔神王の剣速は異常に速い。


「……あれは魔神王の剣ではないな」


 魔神王は剣を振るっている。だが、俺の持っている魔神王の剣とは別物だった。

 魔神将の持っていた剣に似ている。俺がドレインソードと名付けた剣だ。


 ——GOOOOAAAAAA


 魔神王が咆哮する。


「それにしても強いな」


 魔神王が、ではない。仲間たちが強かった。

 エリックとゴランが魔神王の剣での攻撃を完封している。


 そして、シアとセルリスが隙を見て、魔神王に斬り掛かる。

 魔神王の身体は障壁に覆われている。だが仲間たちの斬撃は障壁ごと身体を斬り裂いていた。

 そして、灼熱の炎は、エリックとゴランへ剣で切り払う。

 シアとセルリスに向かって放たれた灼熱の炎はケーテが障壁を張って防ぐ。


「ケーテありがとう!」

「助かったであります」

「魔法防御はケーテに任せるのだ」

「さすが、ケーテね」

「ケーテは、ラックがやっていたことをずっと見てきたのであるからなー」


 ケーテと一緒に何度も戦った。そのときに俺は何度も味方を守るために魔法障壁を張って来た。

 それを見て学んでくれたのだろう。

 ケーテは超一流の魔導士である。安心して任せられる。


 そして、俺は安心して走り、次元の狭間を膨張させている昏き魔力の持ち主のもとに到着した。

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