目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
非戦闘職の魔道具研究員、実は規格外のSランク魔導師~勤務時間外に無給で成果を上げてきたのに無能と言われて首になりました
非戦闘職の魔道具研究員、実は規格外のSランク魔導師~勤務時間外に無給で成果を上げてきたのに無能と言われて首になりました
えぞぎんぎつね
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月10日
公開日
34.3万字
連載中
 規格外の天才魔導具師ヴェルナーは、賢者の学院にて、日々魔導具開発にいそしんでいた。  その魔導具は民の生活を豊かにするほど画期的で、学院の名声を高めに高め、資金面でも潤った。  だが、ヴェルナーの才能を妬み、魔導具利権に目がくらんだ学院長によって、賢者の学院を追放されてしまう。  しかし、ヴェルナーはあまり気にしない。お金はあるし、魔導具のロイヤリティ料の収入もある。  一人で楽しく研究に精を出す。  一方、ヴェルナーのいなくなった学院は、大変なことに。  そして王宮では優秀なヴェルナーを取り込もうと色々と考え始める。  同時に、ヴェルナーの作った魔導具目当てに、暗黒教団も動き出す。  安心安全、快適、目立たないひきこもり研究ライフを目指す、若き天才ヴェルナーの前途は多難なのだ。

1章

001 学院追放

一章

  ◇◇◇◇◇


 俺、ヴェルナー・シュトライトは、世界最高峰と呼ばれる魔導の研究機関、賢者の学院その学院長室にいた。


「シュトライト君。明日から君のする仕事はない」


 そう言ったのは賢者の学院のトップである学院長だ。


「え? もう一度言ってください」


 俺は耳を疑った。

 聞こえていたのに、聞き返してしまったほどだ。


「察しが悪いな。君も。クビと言っているんだ」


 学院長の側近、魔道具学の学部長が、こちらを馬鹿にした目で睨み付けながら言った。


「クビ……ですか?」

「そうだよ。クビだ」

「なぜでしょうか?」


 俺は賢者の学院で研究担当の助教をやっていた。


 やりたくもない雑務を言いつけられたり、学生の教育指導をしたりと忙しく働いてきた。

 朝、研究室に行き、授業や雑務をこなし、職員や他の教員の帰る夕方からやっと俺の研究の時間だ。

 魔道具の開発を日付が変わるまでやって帰宅する。

 それが、俺の日常だ。


 我ながら相当頑張ったと思う。


「なぜだと? まさかなぜ自分がクビになったのか、わからないのかね」

「はい。わかりません」

「学院に対する貢献度が低いからだ」


 全く理解できない。


「具体的にお願いします」

「君の指導する学生の成績が悪すぎる」


 それは落第した学生ばかり指導したからだ。

 落第しつづけ、放校されかかっていた学生をきちんと卒業させる。

 それが、俺に与えられた仕事だと思ってきた。


 教育はあまり好きではない。

 それでも伸び悩み、行き詰まっている学生を見捨てるわけにも行かず丁寧に指導したのだ。


 指導教員に放置され「見て盗め」と言われ落第しつづけていた学生達はきちんと教えればきちんと伸びた。

 それまでの成績が悪すぎたから、卒業時の総合成績は悪くとも、卒業研究は優秀な成績を皆が収めている。


「みな、立派な卒業研究を残していきました。成績が悪いとしたら、私の所に来るまでに……」

「口答えをするな! そういう反抗的なところも評判が悪いぞ!」


 魔道具学部長に怒鳴り散らされる。

 魔道具学部長は自分の気に入った学生にしかまともに指導しないのだ。

 だから多くの学生が、落第し、放校寸前になって、俺の所に送られてくる。


「会議でもいつもいらない意見を言って、長引かせて……学院全体の効率を極めて悪化させている。その事を理解していないのかね?」

「私は間違ったことは言っていないと思いますが」

「なんだその態度は! 目上の者に対する態度か!」


 なんとなくわかってきた。

 会議などで直言するのでうっとうしかったのだろう。


 だから、俺の師匠が引退したこの機会に追放しようとしたのだ。

 俺の師匠は、初代学院長にして名誉学院長であるケイ博士である。


 今の学院長にとっても頭の上がらない存在だ。

 もっと言えば、目の上のたんこぶと言っていい。


 意のままに動かない俺のことを以前から追放したかったのだろう。

 だが、師匠ケイ博士がいたから出来なかっただけなのだ。


「わかりました。そういうことでしたら、すぐに研究室を引き払いましょう」


 元々、師匠から手伝えと言われたから、助教になったのだ。

 師匠が引退した今、別に賢者の学院に在籍し続ける理由はない。


「ん? 何を言っているんだ? 君はクビになったんだ。研究室には入れないぞ?」

「研究室には私が開発したの——」


 俺の言葉の途中で、学院長が大げさに驚いた様子で言う。


「それを持ち出そうというのかね? 学院の予算で開発した魔道具を私物であるかのように?」

「まったく。シュトライト君にはモラルが欠けていますね。盗用宣言など」


 学部長も、心の底から軽蔑したような、馬鹿にしたような目を向けてくる。


 魔道具開発の予算として貰っていた額は微々たるものだ。

 一月あたり、一回の昼飯代ぐらいしかもらっていない。


 ほぼ十割。正確には九割九分九厘。自腹だ。

 学生時代に開発した自分の魔道具のロイヤリティ収入があるので、俺は金に困っていないからいいのだが。


 そして、俺が助教になってから開発した魔道具は、全て権利は学院のものとなっている。

 勤務時間中に開発したからというのがその理由だ。


 もっとも、俺の開発は勤務時間が終わってからである。


「相当、私の魔道具で学院に貢献してきたつもりなんですがね」

「はぁ? あの程度で貢献だと?」

「思い上がりもここまで来ると滑稽ですな! あんな学生でも開発できる程度の魔道具で貢献していたつもりになっていたとは!」


 何を言っても無駄なようだ。


「……わかりました。全て置いていきます」

「当然だよ」

「盗っ人猛々しいとはこのことですな」


 そして、俺は研究資料や開発中の魔道具を全て置いて、賢者の学院を追放されたのだった。




 ◇◇◇◇◇


 学院長と魔道具学の学部長はほくそ笑んだ。

 ヴェルナーの作った魔道具はすばらしく、巨額の富をもたらしていた。


 だが、魔道具師ヴェルナーの名声が高まるほど、魔道具学部長の地位を脅かす。

 学院長も、忌々しいケイ博士の直弟子にでかい顔をされるのは面白くない。


 二人の利害が、ヴェルナー追放で一致したのだ。


「シュトライトは間抜けだが、金になる魔道具を作りますからな」

「ああ、あいつの残した研究資料と、開発途中の魔道具があれば……」

「巨額の富を得られますな。勿論学院長も共同開発者として登録させていただきますよ」


 学院長と魔導学部長は、ヴェルナーが開発していた魔道具を自分の名前で登録しようとしていた。

 ヴェルナーがやっていたように、学院名義にしたら、ロイヤリティは学院に入る。

 だが、自分の名前で登録すれば、巨万の富を得られる。


 そう考えたのだ。

 それが甘い考えだったと知るのは、すぐ先の出来事だった。


 ◇◇◇◇◇

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?