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ヴェルナーが、荒野の拠点を引き払った直後。
つまり、暗殺部隊が跡形もなく消し飛ばされた直後のことだ。
王都の片隅にある光の騎士団のアジトでは、最高幹部たちが会合を開いていた。
「……内通者がいるのではないか?」
「確かに。隠者に送った刺客が跡形もなく殺されたあの事件。あれは内通者がいなければ難しい」
その場を重苦しい沈黙が包み込む。
荒野の拠点に襲撃をしかけた部隊が、あまりにも的確に狙い澄まされたように吹き飛ばされたのだ。
事前に襲撃を掴んでいなければ不可能なことに思えた。
「……我らに対しての警告だろう」
「警告?」
「我ら、光の騎士団の動きは全て把握している。そう『隠者』は挑発しているのだ」
「『隠者』はどこまで把握しているんだ?」
「わからぬ」
最高幹部の一人がぼそっと言う。
「ゲラルド商会は信用できるのか?」
「…………どういうことだ?」
ゲラルド商会は、学院長と魔道具学部長をそそのかして、ヴェルナーを追放させた黒幕である。
さらにその背後には光の騎士団があった。
「ゲラルド商会から、一向にケイ指導下で開発されつつあったという魔道具が送られてこないではないか」
「……確かに。ゲラルド商会はなんと?」
「魔道具学部長が開発に手こずっていると報告してきているな」
それを聞いて、最高幹部たちは顔を歪めた。
「それは嘘だろうな」
「魔道具学部長は、金でどうとでも転ぶ俗物だが、学識は確かだ。魔道具学の権威と呼ばれた男だ」
「ああ、ケイ指導下の研究室とはいえ、ただの院生や助教が開発していた魔道具を作れぬわけがない」
「それに設計図や研究ノートを丸ごと接収したらしいではないか」
「…………裏切ったな」
最高幹部の一人がそう呟くと、他の者たちもうなずいて同意した。
金で転ぶ奴は、いつでも金で転ぶのだ。
それを光の騎士団の最高幹部たちは、かみしめていた。
本当は、ヴェルナーの作っていた魔道具が複雑すぎて、解読できていなかっただけなのだが。
「……問題は誰が裏切っているかだ」
「ああ、ゲラルド商会が裏切っているのか、魔道具学部長が裏切っているのか。それともその両方が裏切っているのか」
「はっきりさせねばなるまいな」
「……いや、その必要はあるまい」
その言葉を聞いて、残り全員が発言者をにらみつけた。
「なんだと。裏切り者を野放しにしろと?」
「そうは言っていない。裏切り者には裏切り者にふさわしい扱い方があるということだ」
「……説明しろ」
「学院長は攻撃魔法のエキスパートだ。魔道具学部長は魔道具の扱いに長けていよう。利用できる」
「……つまり、学院長と魔道具学部長を刺客に仕立てあげると?」
「刺客? 違うな。失っても痛くない捨て駒だ」
金で転ぶなら、もう一度転ばせるまでのこと。
そう光の騎士団の最高幹部の連中は考えた。
「だが、肝心の『隠者』の正体も所在もつかめぬ」
「どうせ学院長たちは捨て駒なのだ。適当に……そうだな、ケイの弟子辺りにぶつければよかろう」
「ふむ。確かにケイの弟子が、『隠者』との連絡役を担っているのは間違いなさそうだ」
姿を消したケイと『隠者』が連携している。
もしくはケイが『隠者』本人であると、光の騎士団は考えつつあった。
そしてケイと「隠者」の連絡役は、ケイの弟子、つまりヴェルナーである可能性が高い。
ケイ本人が「隠者」ならば、ケイと皇国中枢との連絡役に違いない。
そう光の騎士団は考えた。
「弟子を殺すことは、ケイと『隠者』に対する宣戦布告としてふさわしかろう」
「そうだな。そろそろ何らかの成果も欲しいところであったしな」
「ケイの弟子を殺せば、ガラテア帝国も満足するだろう」
光の騎士団は、ガラテア帝国と手を結んでいる。
支配下にあるわけではない。
ラインフェルデン皇国で戦乱を起こそうとする光の騎士団に、ガラテア帝国が資金や技術を援助している。
そういう関係だ。
光の騎士団が暴れれば暴れるほど、ラインフェルデン皇国の国力は落ちる。
それは結果的にガラテア帝国に利することになるのだ。
互いに利用しあう関係ではある。
「ガラテア帝国の望む成果を出せなければ……」
ガラテア帝国からの資金援助が滞る可能性が高い。
それは光の騎士団としては絶対に避けたい事態だった。
光の騎士団は、計画がことごとく上手くいかず焦りつつあった。
焦りから光の騎士団は、無謀なる襲撃計画の着手に入った。
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