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第4話 冒険者ギルドと"歩けない少女"の登録

 帝都オーガンの冒険者ギルドは、まさに混雑の真っただ中だった。

昼過ぎ、依頼掲示板の前には冒険者たちが群がり、カウンターには完了報告をする一団が列をなす。


そんな熱気あふれるオフィスの扉が静かに開かれ、ひときわ目を引く三人が中へと足を踏み入れる。


先頭に立つのは無口で無表情な長身の男。

その腕には、まるで陶器の人形のように整った顔立ちの美少女が、ふわりと抱きかかえられていた。

その後ろには、雪のような肌と艶やかな黒髪を持つ美女が優雅に歩いてくる。


――その瞬間、ギルドの喧騒がぴたりと止まった。


(あれは……依頼人のお嬢様と、護衛の騎士か?)


(いや、あの女……えぐいほどの美人だぞ)


(ってか、なんだあの男。目が死んでる……いや、目そのものが見えない!)


ざわざわとした視線が一斉に三人へと集中するなか、真魚は壁の腕の中でふわりと小さく笑った。


(視線が痛い……というより、かゆい。お雪の美貌と壁の地味さと、私のこの“お姫様スタイル”のせいかしら)


受付カウンターに辿り着くと、受付嬢の若い女性がにこやかに声をかけてくる。


「いらっしゃいませ。どのようなご依頼でいらっしゃいましたか?」


完全に“金持ちのお嬢様とその護衛”と思い込んでいる様子だった。


「冒険者登録を頼む」


壁が短く言い放つと、受付嬢の笑顔が一瞬ピクリと引きつった。


「……失礼しました。それでは、お二人様の登録ということでよろしいでしょうか?」


「いや、三人だ」


「……は?」


ぽかんと口を開けた受付嬢が、思わず壁に抱きかかえられている真魚を凝視する。


「あの、その……お連れの方は、もしや……お足が……?」


「はーい。歩けません♪」


真魚はにこやかに右手を軽く上げて挨拶する。


「えっ、えっと……それは、その……大変失礼ですが……冒険者というのは、命に関わる仕事でして。身体的にご不自由のある方には……かなり、厳しいかと……」


受付嬢の視線が泳ぐ。明らかに困っている。


「仲間の命にも関わる可能性が……その……」


「問題ない。登録してくれ」


「問題あります。申し訳ありませんが、足の不自由な方の登録は――」


「問題ない。登録しろ」


「ですから、無理ですって――」


「登録しろ」


「だから無理なんですってば!」


段々とエスカレートしていく壁と受付嬢の不毛なやりとりに、とうとう痺れを切らしたのはお雪だった。


「ああもう!だから壁は!」


お雪がストンと壁の後ろから姿を見せ、腰に手を当ててため息をつく。


「あなたも、もう少し柔らかく言いなさいよ!

……いい? 私たちは、三人で行動してるチーム。この三人で、すでに三年以上一緒にやってきてるの。オーガンでの登録は初めてだけど、実績も信用もある。チーム内の責任はチームで取るから、ギルドの側が干渉しないでくれる?」


ピシッとした口調ながら、感情を抑えた理知的な物言いだった。


受付嬢はその気迫に押され、つい「は、はぁ……」とうなずいてしまう。


「ですが……帝都オーガンでの登録は初回ですので、通常は初級ランクからのスタートに……」


「お雪、紹介状」


「はいはい、用意してるわよ」


お雪が懐から一通の封書を取り出し、丁寧に受付嬢へ手渡す。


それは先ほど送り届けたリィーナの父、ランズベルド公爵からの紹介状だった。護衛任務の成功への感謝として、事前に書いてもらっていたものだ。


封を開けて読み進めた受付嬢の顔が、見る見るうちに青ざめ、そして直立不動になる。


「こ、これは……ランズベルド公爵様からの……!」


がたんと椅子を蹴って立ち上がり、深々と頭を下げる。


「大変失礼いたしました。皆様は、上級冒険者として正式に登録させていただきます!」


ギルド内の注目が、再び三人に集まった。


「歩けない少女が、上級冒険者……?」


「いったい何者なんだ……」


ざわつきは止まらないが、三人はいつも通り、特に気にする風もなかった。

静かに、淡々と、自分たちの居場所を作っていく。


その日、帝都オーガンの冒険者ギルドに新たな“異色の三人組”が登録された。






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