3年たった。俺は3歳になった。そして、今空のお腹の中にはもうすぐ産まれるであろう、赤ちゃんがいる。俺の両親は二人とも男だ。だが、この世界では男同士での結婚も女同士での結婚も当たり前のような世界。男同士でも女同士でも子供を産むことは可能だ。だが男は一度子供を産むと男としての機能が無くなる、これは女性でも言えることだ。
俺は順調に育っている。風邪ひとつひかない健康体だ。そして、可愛さの方も順調だ。このままいけば、大きくなったらかなりのイケメンになるだろう。ゲームでは、顔は見えなかったから楽しみだ。
「 陸ー、ごめんね〜ちょっと手伝って欲しいことがあるから来て欲しいな。 」
「 はーい、いま行くねー。」
空はお腹が大きくなっていて、生活するのが大変そうだった。いつもは、海が手助けしているのだが、いますぐやらなければいけない仕事ができたらしい。空の説得により、しぶしぶ仕事に行った。なので、空の手助けをするのは、今は俺の役目だ。
ところで両親は一体どんな仕事をしているのだろう?空は今は産休をとっているが、海の方は産休をとっているのに仕事に行っている。一体どれだけ大事な仕事をしているのだろう。ゲームでも仕事のことは出ていなかったし、今度聞いてみようかな。そんなことを考えながら、空のもとへ行く。
「 どうしたの?おかーさん。 」
俺は空のことをお母さん、海のことをお父さんと呼んでいる。
「 ごめんね。飲み物を持ってきてくれないかな。今ちょっと動けそうになくて。」
「 わかったー。 」
空のお願いだ、必ず達成させるぞ。そう思い、俺はキッチンに行き、取れる所にあるプラスチックのコップを取り、そのコップに慎重にお茶を注いだ。
お茶を注ぎ終わり、空の所へ持っていこうと慎重に足を進める。
だが俺は、コップを落とし中のお茶をぶちまけた。目の前に、床でうずくまって苦しそうにしている空の姿があったからだ。
ふと床を見ると、破水しているようだった。
「 おかーさんっ!」
俺は空に駆け寄る。返事は無い。とても苦しそうだ。
( どうして!まだまだ産まれるには早いのに!)
そして俺は思い出した。ゲームで出ていた風太の誕生日を……。
( 今日……だ。今日だ!風太が産まれるのは今日だ!一体どうしてこんな大事なこと忘れていたんだ!)
空は苦しみ続けている。今にも気を失いそうだ。
( どうしよう、どうしようっ)
俺は混乱していた。周りをキョロキョロと見回した。すると、空が持っているものを見た。空が持っていたのはスマホだ。空はスマホで必死に何かをしようとしていたが、どうやら苦しくてできないらしい。
「 おかーさん、俺に任せて。」
そう言って、俺は空からスマホを貰い、何をしようとしていたのかを確認しようとしていた。意外と空はすんなりとスマホを渡してくれた。きっと考えてる余裕がなかったのだろう、俺に託してくれたのだ。
画面を開くとさっきまで使っていたのか、ロックはまだかかっていなかった。そして、そこに映っていたのは。
「 おとーさんのでんわ。」
空は海に電話しようとしていたのだ。そして俺は、海に電話をかけた。
海は電話にすぐに出た。いつでもでれるようにしていたのだろう。
「 空、どうした?大丈夫か?」
電話越しから聞こえる海の声は良い。だが、そんなことを思っている余裕はないのだ。この事を早く海に伝えなければ!
そう思っているのに、なかなか喋れない。
「 おとーさん。 」
思っていたより、自分は涙声だった。
「 陸?どうした、何があった。 」
少し驚いて、でもすぐに状況を把握し冷静に、でも優しく聞いてきた。
「 おかぁさんが……倒れっ……て 」
俺は精一杯状況を説明したが、これが今の俺に出来る全力だった。
「 わかった、すぐ行く。 」
それだけ言って海は、電話を切った。そして数分もしないうちに海は家に着いた。一体どれだけ急いで来たのだろうか、警察に捕まらないだろうか?と思えるほど早く帰ってきた。
「 空! 」
海は家に着いてすぐ空に駆け寄った。
海は空を車に乗せ、俺に言った。
「 陸、今から病院に行く。陸は、家で大人しく待っていてくれ。後で俺の仕事の後輩が家に来るから、落ち着いたらその人に連絡するから。 」
そう言って、病院に行った。俺は、その海の仕事の後輩を待ちながら、空の破水と自分の落としたコップやお茶を片付けていた。そして、その後輩さんが来てからも俺はずっと空と海のことを心配していた。
数時間後、海から連絡が来て迎えに来てくれた。これから赤ちゃんが産まれると教えてくれた。病院について、看護師さんに連れていかれた。大人しく看護師さんの言うことを聞くようにと海は言って、空のところに行った。
それから数時間、かなり待った。看護師さんに案内され、一つの部屋の前まで来た。この中に空と海と風太がいる。俺は扉の前で止まっていた。緊張して扉を開けることが出来なかったのだ。それを見かねた看護師さんが扉を開けてくれた。少し中に入ると、そこは幸せの空間だった。まだ、朝日は昇っていない。それなのに、その空間はキラキラと輝いていた。ベットにいる空、その傍にいる海、そして空の腕の中にいる……風太。
「 陸、こっちにおいで 」
俺に気づいた空が優しく言う。俺は迷っていた。あの尊い空間に俺みたいだ異物が入り込んでいいものかと。だが俺を見つめている二人の顔が優しくて行きたくなってしまった。何より風太の姿をこの目で見たかった。空の近くに寄り風太を覗き込む。
そこには、天使がいた。少しくせっ毛の白い髪。白くて透き通った肌。間違いなく風太だった。じっと見つめていると風太が目をゆっくりと開いた。白く長いまつ毛、綺麗な吸い込まれそうな青い瞳は、まだ見えていないはずなのに、俺をじっと見つめ、笑った。ふわりと花が咲くような笑顔だった。俺の心は射抜かれた。この子を生涯かけて守っていこうと、そう心から思った。
突然空が風太のおでこにキスをした。空に続いて海も風太のおでこにキスをした。このキスは、俺が気絶した原因の行動だ。俺が困惑していると、空が優しく微笑みかけながら言った。
「 これはね、おまじないなんだよ。相手のことを思ってするおまじないだよ。例えば、大好きとか、幸せになってとか、元気になってとかね。」
そして海も言った。
「 ほら、次は陸の番だよ。」
俺は何も言わずただただ愛しい弟を見つめ、その柔らかな頬に両手を添えて、できるだけ優しくおでこにキスをした。