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ダンジョン迷駅
ダンジョン迷駅
雨宮徹
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月11日
公開日
2,050字
連載中
202X年。世界に変革が訪れ、多くの人がスキルを持つ時代になった。そして、同時期に数多くのダンジョンが出現。スキル持ちは、各地のダンジョン踏破を目指しつつも、配信をしてスパチャで稼ぎを得ていた。 そんな中、誰も攻略できないダンジョンがあった。その名は迷駅。正式名称は名駅。 これは、スキルなしが迷駅攻略を目指す物語。 ※この物語はフィクションです。

迷駅伝説

 202X年。世界は今、大ダンジョン時代を迎えていた。


 突如として各地に現れたダンジョン。人々は恐怖し、混乱し、そして……慣れていった。ダンジョンを攻略し、そこで得た富や情報を配信する――それが一つのビジネスとして確立されたのは、ごく自然な流れだった。


 そんな中、未だ誰にも攻略されていないダンジョンが一つだけ存在していた。


 その名は迷駅めいえき。正式名称は、名駅めいえき


 名古屋の中心に位置するその巨大駅は、ダンジョンとしての出現からすでに数年が経っているが、いまだ誰一人として“最奥”にたどり着けていない。攻略難度は極めて高いとされている。


 しかし、人々を惹きつけてやまない伝説があった。「迷駅には、莫大な富が眠っている」。誰が最初に口にしたのかも分からない。証拠があるわけでもない。ただ、その噂だけが、今日もスキル持ちたちをダンジョンに誘い込む。


 なぜか?


 それは――注目を集められるからだ。迷駅を攻略しようとするだけで、配信者としての数字が跳ね上がる。それだけで、試す価値がある。


 ……もっとも、バズるのは一瞬だけだ。次の挑戦者が現れれば、忘れ去られていく。


 今日もまた、一人の無名配信者が挑戦を始めていた。



「今、ダンジョン迷駅を攻略中です。私のスキル『金属探知』があれば、宝に辿り着くのは楽勝でしょう」


 やや鼻にかかった声が、配信を通じて視聴者の耳に届く。カメラはぶれ、薄暗い地下通路の壁が映っている。タイルの一部が剥がれ、鉄骨が露出している箇所もある。


 画面の隅には、絶え間なく流れるコメント欄。


「金属探知www」

「迷駅なめすぎ。うちの兄貴、去年から帰ってこない」

「応援してます! がんばって!」

「このスキルでいけるなら、俺もやるわw」


 応援の声もあるが、多くは冷笑と諦念だ。迷駅に挑む者は多く、そのほとんどが何の成果も得られずに帰ってくるか、あるいは……帰ってこない。


 その配信を、一人の男が見ていた。


 画面の前で身を乗り出し、食い入るように見つめるその目は、怒りに燃えていた。


 宮野和樹。


 スキルを持たず、戦闘能力もない一般人。ただし一つだけ、突出した特性があった。


 ――名駅マニア。


 彼は配信者の言葉に、奥歯を噛みしめる。


「迷駅を攻略するのは、僕だ」


 誰に向けたわけでもないつぶやきが、和樹の部屋に静かに響いた。


「あんな奴に、迷駅を汚されたくない……」


 画面の中で、配信者が天井のパイプを叩いている。何の意味もない行為だった。


 和樹は立ち上がった。決意が、確かな形を取り始めていた。


 ――明日、迷駅に潜る。


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