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第5話 :握手会、そしてメジャーデビュー決定!

:握手会、そしてメジャーデビュー決定!


ダンジョンの入り口に、朝から大行列ができていた。


「本日、ダンジョンアイドル・アリス握手会。

ただし、撮影・録音・録画は一切禁止です。ルールを守れない方は、ゴブリンによって排除される可能性がありますので、ご注意ください」


係員のアナウンスに、列の参加者たちはピリッと身構える。


「アリスちゃんに会えるなら、どんなルールでも守る!」 「いやマジで、生アリス見たら心臓止まるかも……」 「博さんに握手求めるのってアリ?」


そんなざわめきが飛び交うなか、隊長・河口博はダンジョンの管理室(仮)で頭を抱えていた。


「……なんで俺が仕切ってるんだよ」


かつては配信グループ「河口博ダンジョン探検隊」の隊長だった彼も、いまや“アイドル事務所の現地マネージャー”のような扱いだ。


「博くん、スケジュール確認いい?」


ひょこっと顔を出したのは、もちろん今日の主役――アリス。

金髪ツインテール、アイドル衣装に身を包んだその姿は、地下とは思えぬまばゆさだった。


「13時から握手会、15時からトークショー。18時から生配信ライブ。で、その後に重大発表ね!」


「……あのさ、ダンジョンって、こういう場所だったっけ?」


「違うけど、変わっていくのはいいことよ」


アリスはにっこり笑って、ピースサインを送ってきた。


「何が“変わっていく”だよ。お前、最初、俺ら襲ってたじゃん」


「警告してただけよ。“撮影禁止”って。今もルールは変わってないわよ?」


実際、ダンジョン内は今でも撮影・配信一切禁止。

守らない者はゴブリンたちによって――というより、アリスの意思で物理的に追い出される。


とはいえ、地上から見れば、ここは完全に“異空間アイドルスポット”だ。


ドンドン!


扉の外でノックが鳴る。


「アリスちゃん、時間です!」


「うん、じゃあ行ってくるね、博くん!」


アリスは軽やかにステージへと駆け出した。


――その後。


握手会は大成功だった。

「地下に現れた奇跡の歌姫」として、SNSのトレンドにも連日載る勢い。


アリスの“非実在感”と、実際に会えるという“リアルさ”のギャップが、オタク心に刺さりまくっていた。


そして夜。

ダンジョン内ステージ。照明が灯り、観客が見守る中――アリスがマイクを握った。


「みんな、来てくれてありがとう! 今日は、みんなに大事なお知らせがあります!」


観客がざわめく。


《え、まさか……引退!?》 《お願い、変な報告じゃないで!》


アリスは深呼吸し、叫んだ。


「――このたび、私、アリスは! メジャーデビューが決まりました!」


場内、爆発的な歓声。


「ええええ!?」「ガチ!?」「ついに全国区!?」


博は舞台袖で呆然としていた。


「……ダンジョンって、メジャーデビューできんの?」


「できます!」とプロデューサー(最近ついた)に即答されて、余計に頭を抱える。


――その夜。


ファンによる聖地巡礼が殺到し、

“ダンジョン地下アイドル アリス”はネットニュース・地上波番組にも取り上げられることになる。


そのたびに、博の配信アカウントにもコメントが飛んできた。


《昔のアリスちゃん映ってる動画ってまだある?》 《河口隊長って、あの時の“変な探検隊の人”?》 《お前がいなかったら、アリスちゃん世に出てないじゃん!》


「……だれが“変な探検隊”だよ」


ツッコミつつも、どこかくすぐったい気持ちになっていた。


だが、博はまだ知らない。

この人気が、さらなる波乱を呼ぶことになることを――。



---


この章では、アイドルアリスの躍進と、主人公・河口博の苦悩(とちょっぴり誇り)を描きました。

次章5-2では、メジャーデビュー後の混乱、そして“ある事件”の発生が描かれます。


続きを希望される場合は、お知らせください。



了解しました。それでは、**第5章後編「地下アイドル、地上へ。そして、トラブルへ――」**をラノベ小説としてお届けします。メジャーデビューを果たしたアリスと、その影響で起こる新たなトラブルが描かれるパートです。



:地下アイドル、地上へ。そして、トラブルへ――


メジャーデビュー発表から数日後。


アリスの顔は、ついに渋谷の大型ビジョンにまで映し出された。


「──この春、異世界から舞い降りた歌姫、アリス。

メジャーデビューシングル『光る迷宮(ラビリンス)』、ついに発売決定!」


華やかなCMと共に流れる彼女のMV。


その背景には、どこかで見覚えのある石造りの階段や、ゴブリンを吹き飛ばすような謎のカットも混じっていた。


「おい、これ……うちのダンジョンじゃねーか!」


河口博は、地上でその映像を見上げて叫んだ。

ダンジョン内撮影は禁止のはずだ。あれほど厳しく守ってきたのに、なぜか本人のMVにはバッチリ使用されている。


「まさか、あいつ……“歌ってる間はダンジョンじゃない”とか言い訳してないだろうな?」


的中していた。


ダンジョン内に戻ると、控え室でアリスがスタッフと話していた。


「アリスちゃん、地上でのMV撮影も終わったし、次はテレビ出演ね。今度はバラエティ番組よ!」


「えー、また? バラエティ苦手……トーク振られても“地下”と“構造強度”の話しかできないのに」


「それでいいの! 逆に“ダンジョン目線トーク”って新しいから!」


博は額を押さえた。


「……もう止まらないな、これ」


握手会もサイン会も、すでに週5開催。

ゴブリンは誘導係として完全にアイドル運営スタッフと化し、階層は“ライブフロア”と“ファンゾーン”に分けられている。


アリスは、もはや「実体化したダンジョンコア」ではなく、「次世代地下アイドル」として一人歩きを始めていた。


だが、その栄光の裏で──


「おい、聞いたか? アリスって奴、“地上でダンジョン撮影した”とか言ってたらしいぜ」


「撮影禁止のくせに、自分は撮ってんのかよ。ダブスタかよ」


──という不穏な噂が、ネットで静かに広まりつつあった。


さらに、匿名掲示板では“アリス偽装説”や“CG説”、“ダンジョンアイドルは国家の陰謀説”まで飛び交い、炎上寸前の空気が流れていた。


そしてついに。


「アリス、ネット番組から出演取り消しの連絡が来たわ。理由は“真偽不明の炎上リスク”だって……」


「えっ」


その場の空気が凍った。


プロデューサーの顔色も曇る。


「一気に人気が出すぎたんだ。地下のままなら良かったのに、地上に出たから余計に叩かれやすくなった」


「……わたし、何か間違ってたのかな」


アリスはぽつりとつぶやいた。


博はその背中を見つめたあと、小さくため息をついた。


「違うよ。お前、ずっと正しかった。“自分の場所”を作って、そこで人を楽しませてきたんだから」


「でも、わたしの場所……撮影禁止ってルール、守ってきたのに……それが今、裏目に出てる」


「──だったら、見せてやれよ」


博は言った。


「“ここがあんたのダンジョンで、あんた自身がそこに住んでる証拠”を、ちゃんと。」


アリスは目を見開いた。


「ルールがあるからこそ、大事なことがある。

だけど、それを曲げなきゃ守れないものもあるんだ。たとえば、お前自身とか──お前の信じてるものとか」


「……博くん」


「ちょっとくらい、撮ってやろうぜ。“自分の意思で”」


こうして、アリスは決意する。


次回配信ライブで、ダンジョン内部の一部エリアを「公式限定撮影ゾーン」として初公開。


炎上の火種となっていた「撮影禁止ルール」を“アップデート”するという、異例の決断だった。


地下アイドル・アリスの快進撃は、まだ終わらない。


いや、むしろ──ここからが本番なのだった。






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