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魔女はダンジョンを語らない
魔女はダンジョンを語らない
はじめアキラ
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月11日
公開日
3.3万字
完結済
「そのかりんとうがさ、三日前に新しい配信アップしてたんだよ。  その名も『近所の公園にダンジョンができてたんですが!』っていう」  大型掲示板で、そのような書き込みがされたのが始まりだった。  公園でダンジョンの入口を見つけた、中を探索してみる――そう言って消息を絶った動画配信者『かりんとう』。そのファンだというオカルト研究同好会の部長・奈河は、後輩の涼音とともにそのかりんとうを助けに行こうと提案する。  実は涼音は、現代に生きる魔女の末裔であり、二人は過去いくつかオカルト事案を解決した実績があったのだ。渋々涼音は、奈河とともにそのダンジョンを探索しにいくが……。

<1・ネット掲示板にて。>

――とある大型掲示板の記述より、抜粋。




【最近】新進気鋭の配信者上げてけ Part53【伸びてる】





 ・

 ・

 ・


498:名無しの実況者さんは配信中

今更だけどはっきり言いたい、オカルト系配信者って勇者多すぎだろ


499:名無しの実況者さんは配信中

それなー


500:名無しの実況者さんは配信中

あの人ら、ほんと数字取ることしか考えてませんから……


501:名無しの実況者さんは配信中

>>500

それは偏見ってなもんだよ

真っ当なホラーの考察ちゃんねるとかもちゃんとあるんだから


502:名無しの実況者さんは配信中

ようは、迷惑系ユーチューバーみたいに立ち入り禁止のところに勝手に入って撮影したり、ラクガキしたりみたいなことしなけりゃいいんだよ


503:名無しの実況者さんは配信中

>>502

昔、祠壊しのカンタラっていう度胸ありすぎるオカルト系配信者がいてだな……。

面白がられて恐ろしくバズってたんだけど、まあ、毎回のように地蔵っぽいのは蹴倒すし祠は潰すし石碑にはラクガキするしとマジでやりたい放題だったんだわ


504:名無しの実況者さんは配信中

えええええええええええええええええええええええ!?

そ、そんなアカン奴いたの……


505:名無しの実況者さんは配信中

((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル


506:名無しの実況者さんは配信中

なんつーワロエナイ……罰当たりがすぎる


507:名無しの実況者さんは配信中

ああ、そいつ知ってる。なんか三年くらい前に配信途切れてそれっきりなんだけど何があったのかなー()


508:名無しの実況者さんは配信中

普通に祟られてますやんけ……


509:名無しの実況者さんは配信中

そもそも論として、いくら興味持ってバズりそうだからって、得体のしれないものをほいほい撮影するのはやめた方がいいと思うんだよ

認識災害とか起こすものだったらどうすんのっていう


510:名無しの実況者さんは配信中

SCPじゃないけど、一部の怪談は認識災害起こすって言われてるもんな

ミーム汚染というかなんというか

猿夢もぶっちゃけその類いになるんじゃないか?


511:名無しの実況者さんは配信中

昔ネットできさらぎ駅の実況があった時もそうだったんじゃないかとか言われてたよね

それまでそんな話一切なかったのに、きさらぎ駅が話題になった途端、自分も似たような駅に行ったって情報が爆発的に増えたし

中には目立ちたくて嘘こいてた奴もいるんだろうが


512:名無しの実況者さんは配信中

知ってしまうと汚染されるものとかあるんか……こわ。きさらぎ駅とか怖すぎて行きたくないです、ハイ


513:名無しの実況者さんは配信中

話の豚切スマソ

ちょっとお尋ねしたいんだが、この中に配信者の『かりんとう』知ってる人いない?

平仮名でかりんとう。ただ、配信してるのは若い男性なんだけども


514:名無しの実況者さんは配信中

あー、なんかこの間テレビにもちらっと呼ばれてたような?ちらっとだけど


515:名無しの実況者さんは配信中

最近伸びてる実況者だね。あの人もオカルト系か、一応。


516:名無しの実況者さんは配信中

昔は本人の顔出しせずに考察動画とかだけ上げてたけど、最近はなんかホラースポットに足運んで取材することも増えたんだっけ

一応不法侵入とかはしないスタイルだそうだけど


517:名無しの実況者さんは配信中

顔だしって言ってもマスクとサングラスで出てくるから顔わかんないんだよね

多分大学生くらいだと思うんだけど


518:名無しの実況者さんは配信中

そのかりんとうがさ、三日前に新しい配信アップしてたんだよ。

その名も『近所の公園にダンジョンができてたんですが!』っていう。


519:名無しの実況者さんは配信中

ダンジョン!?!?!?


520:名無しの実況者さんは配信中

さすがにその想定はなかった!え、なにそれちょっと面白いんですけど!!


521:名無しの実況者さんは配信中

公園にダンジョン?どゆこと?え?


522:名無しの実況者さんは配信中

や、俺も流し見しただけで詳しくは知らないんだけどさ。

公園の滑り台の下から入れるダンジョンなんだって。呪文を唱えると、そのダンジョンとやらに入れるらしくって


523:名無しの実況者さんは配信中

へええ、何それちょっと楽しそうな


524:名無しの実況者さんは配信中

その配信自分も見たわ

ぞうさんの形した、水色の可愛い滑り台だよな?普段は何にもないように見えるんだけど、呪文唱えたりなんたりするとその真下に階段が現れて中に入れるようになってた、って


525:名無しの実況者さんは配信中

中はなんか、木造校舎みたいになってたって言わなかった?なんか学校の怪談とかに出てきそうなかんじの


526:名無しの実況者さんは配信中

やべえめちゃくちゃ気になる、見て来よ


527:名無しの実況者さんは配信中

どこの公園?行ってみたいんですけど!!!!


528:名無しの実況者さんは配信中

確か、どこの公園とかは公開されてなかったような気がする。家の近所だって言ってたから、住所バレもあるし場所特定できないようにしたんじゃないかな


529:名無しの実況者さんは配信中

なんだあ、残念


530:名無しの実況者さんは配信中

水色のぞうさんの滑り台かあ。……確かかりんとうって、東京在住ってところまでバレてたんじゃないっけ。どっかの区内。

ならもうグーグルアースで調べられちゃいそうな気もす


531:名無しの実況者さんは配信中

どこの区かもわからないのに調べるの厳しいだろwwwww


532:名無しの実況者さんは配信中

それが意外といけちゃうから問題ないんだよな。かりんとう、周りの景色もちらっと映しちゃってるし、ぼかしてなかったような気がするし


533:名無しの実況者さんは配信中

特定しよっ!


534:名無しの実況者さんは配信中

おまいら落ち着け。気になるのはわかるけど、仮に特定しても行くのはちょっと考えた方がいいかも。

かりんとう、毎日のようにインスタやXも更新してんだけどさ


その実況動画アップした後から、何故かどれ一つ動いてないんだよ

この三日間、一回も


535:名無しの実況者さんは配信中

ちょ……


536:名無しの実況者さんは配信中

え、なに……それ、マジ……?




 ***




「えっと……」


 ニコニコ笑顔でタブレットを見せてきた先輩。吉良涼音きらすずねは困惑しつつ、タブレットと先輩の顔を交互に見比べたのだった。


「これ見せて……あたしにどういう反応期待してます?」


 いやもう、尋ねる前に答えはわかってしまっているような気もする。

 とある動画実況者の情報をまとめた大型掲示板。その中の【最近】新進気鋭の配信者上げてけ Part53【伸びてる】というスレッド。放課後、教室を出たところで彼女に捕まった涼音はそのまま部室に引っ張り込まれて、タブレットでこれを見せられたというわけである。

 指定した箇所に書かれていたのは、かりんとう、というオカルト系配信者がどうやら公園にあるダンジョンを発見して撮影した後、行方不明になっているらしいという話だった。なるほど、キナ臭い話ではあるが。


「そりゃもう、決まってるじゃない?」


 我が高校のオカルト研究会の部長、三島奈河みしまなかは。涼音の前でにっこりと綺麗な笑みを浮かべてみせたのだった。


「これはもう、我が部で取材するしかないと思って」

「嫌っスよ!」

「ちょ、即答!涼音ちゃん冷たい!」

「いやだって、これ場所がどこかもわからないし!そもそも撮影者が行方不明になってるっぽいって時点でとっても関わり合いになりたくないッス!」


 それなのだ。

 この配信者の動画はまだ見ていないが、掲示板の様子からして公園とやらの住所は明らかにされていない様子なのである。グーグルアースを駆使して目を皿にして探せば見つかるかもしれないが、そこまでの労力をかけたい案件でもない。

 それに、掲示板で言われていることはほとんどが真実なのだ。きさらぎ駅の目撃情報が広まったのは、確実にきさらぎ駅の名前と情報がネットで拡散し、ミーム汚染が広がったからだと涼音は思っているのである。誰かに認識されると、その人物をも怪異に引っ張り込むようになる怪異。世の中にはそういうものが少なからず存在すると涼音は知っている。

 まあようするに。触らぬ神に祟りなし、やべー怪異は知らない方が身を護ることができるというものなのだ。


「確かに、あたしはその……ちょっとはそういう能力もありますけど」


 ぷう、と頬を膨らませる涼音。


「でも、何でもかんでもできるほどの力じゃないんスよ?魔女の力は封印されて久しいんスから」


 吉良涼音。高校一年生、十五歳。

 涼音の家、吉良家はかつてヨーロッパから渡ってきた、魔女の一族とされている。魔女狩りから逃れて隠れ巡り巡ってこの極東の地まで来たというわけらしい。

 身を護るため、魔女の一族はその力を封印し、普通の人間として隠れて生きることを選んだ。この国には、吉良家以外にもそういう隠れ魔女家系がいくつも存在しているそうな。

 時々、涼音のように金髪金眼の子供が生まれて、魔女の力が復活することもある。それゆえ涼音は簡単な魔法と多少の霊能力は持ち合わせてはいるのだが――封印が完全に解けたわけではないので、使えるのは本当にごくごく一部の力のみなのだ。

 はっきり言おう。ゴーストバスターをするほどの力ではない。

 いや、かろうじて涼音自身を守ることはできるかもしれないが、ヤバイ怪異やらモンスターを倒して回れと言われたら断固拒否したいわけで。


「あんま頼りにしないでくださいッス。ってこれ毎回言ってるでしょ。この間の調査が最後だって。あたしはあくまでオカルト研究会に幽霊部員として身を置くだけにさせてくださいって」

「それでも毎回ちゃんと私の依頼を受けてくれるのよねー涼音ちゃんは。うん、三島先輩知ってるー」


 そんな涼音に、ニコニコ笑顔で言うのが奈河だ。


「まあ、ちょっと配信だけでも見てから判断してよ。……私の見立てじゃかりんとうが撮影してるこの場所、かなーりご近所だと思うのよねえ」


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