あたしは自分たちの部屋の希望を母に伝えて許可を取った。
その後、ダーウたちのトイレが届くまで手紙を書こうと思ったのだが、サラがうとうとし始めた。
今日は色々あったので、疲れたのだろう。
「サラ。ルリアといっしょに昼寝しよう」
「ん……うん」
「ということで、寝室にいってくる!」
「いってらっしゃい。あ、あなた、サラを抱っこしてあげて」
「畏まりました」
侍女が半分眠りに落ちたサラを抱っこして部屋まで運んでくれる。
サラの大切な棒人形は、格好良い棒と一緒にあたしが丁寧に運ぶ。
「サラお嬢様の服をお仕立てしないとですね」
運びながら侍女が呟くように言った。
「だんしゃく家からふくをもってきたらよいのではないか?」
男爵家にもサラの服はあるはずだ。
「これを見てください」
「む?」
侍女は抱っこしたサラのお尻をあたしに向けた。
「尻尾を通す穴がありません」
「ほ、ほんとだ」
「きっと、サラお嬢様は専用の服を用意して貰ってないんですよ」
「そ……そうだったのか」
たしかに、男爵家の応接室で初めてサラに会ったとき、尻尾が窮屈そうだなと思ったのだ。
「いいふくをきていたから……」
「素材はいいですよね。サラお嬢様にあってないだけで」
「なぜ、そんなことを……」
男爵がサラを可愛がっていなかったのは知っているが、合わない服を用意する理由がわからない。
「デザインが古いですし、多分古着ですよ。これ」
「そうだったかー。でもしっぽあなをあけるぐらい、たいした手間じゃない」
「そうですね。でも、尻尾穴をあけると、買取り価格が下がりますから」
「な、なるほど……」
男爵は富裕だと聞いている。
男爵にとって、買取価格など大した額ではないはずだ。
些細な額を惜しむほど、サラを疎んでいたのだろう。
「むむう」
改めて腹が立つ。
「それにこの服、普段は着せられてないと思いますよ。奥方様がおいでになったから特別かと」
普段はもっとボロボロの粗末な服を着ていたのかもしれない。
前世のあたしもボロボロの服を着ていたものだ。
「ふむー。かあさまに、サラの服のことつたえてほしい」
「わかっておりますよ。もう奥方様は動いておいででしょう」
隔離中だから、誂えることはできないが、今よりましな服を用意してくれるに違いない。
あたしたちが部屋に入ると、侍女は寝台にそっとサラを寝かせる。
あたしは、そのサラの枕元に棒人形を置いた。
格好いい棒は寝台の下に置く。敵が来た時にすぐとれるようにだ。
「お嬢様。先ほどから気になっていたのですが、それは……」
「かっこいい棒だ」
「いえ、そっちではなく……」
侍女はサラの棒人形を指さした。
「サラのたいせつな人形だ」
「人形、でございますか?」
あたしは寝ているサラを起こさないように声を潜める。
「ルリアがサラのへやにはいったとき、サラはこの人形をだきしめていた」
それは、ただの木の棒に布を巻いたものだ。
上下に少しずれて生えている小枝が腕のように見えなくもないただの棒だ。
「そうだったのですね」
「ぬいぐるみとか、あげたらよろこぶかもしれない」
「そうですね」
「でも、この人形もたいせつ」
この粗末な人形は、つらかったときのサラを支えた大切な物だ。
だから、大切に扱わなければならない。
あたしは布団に入ってサラの隣で横になった。
キャロはサラの顔の近くで二本足で立って警戒を始める。
「ルリアもねる」
「絵本でも——」
「だいじょうぶ」
あたしは絵本を読もうかという侍女のありがたい申し出を断った。
そして、目をつぶって寝たふりをする。
侍女はいそがしいのだから。
それに、サラが寝ている間に、クロから色々と話を聞かねばならないのだから。