あたしが朝起きると、スイに抱きつかれていた。
「……全部食べていいのであるか? ダーウ、それはうんこなのである」
スイは寝言を呟いている。
「えぇ……、スイちゃんはどんな夢をみているんだろ」
少し気になる。あたしはスイのことを撫でた。
「むにゃむにゃ。おいしいのである」
サラは棒人形のミアを抱っこして眠っている。
ミアにくっついてクロやロア、精霊たちが眠っていた。
「みんなもミアが好きなのか?」
あたしはサラとミア、そしてクロ、ロア、精霊たちのことを撫でる。
「………………」
すると、あたしのことをじっとダーウが見つめていた。
「ダーウも撫でてほしいか?」
「……ぁぅ」
「よーしよしよし、コルコとキャロもおいで」
「こっ」「きゅ」
あたしが撫でまくっていると、
「お嬢様がた、朝ご飯ですよ」
侍女が呼びに来てくれた。
「すぐいく! サラちゃん、スイちゃん、ごはんだよ!」
「…………ごはんたべる」
「……もう朝であるか……ふぁぁぁぁああ」
スイは眠そうに大あくびをした。
「すいちゃんねむいか?」
「ねむいのである」
「ふーん。夜あそんでた?」
「なっ! そんなこと、したことないのである!」
なぜかスイは焦っていた。
「そっかー、まあいいけど」
そして、あたしたちは着替えて、食堂へと向かう。
食堂には全員が揃っており、母が険しい顔をしていた。
「かあさまどした?」
「ルリア。どうしましたか? でしょ?」
「どしましたか?」
「まあいいでしょう。……まずは座りなさい」
「あい!」
あたしたちが席に着くと、父が言う。
「今朝、陛下から早馬が来て、お昼に参内するようにと」
「え? 今日の?」
「そう、今日のだ」
「なるほどー。楽しくなってきたな?」
昨日身につけた、あたしの完璧なマナーを披露する機会が、早速やってきた。
「あなた、断れないの?」
「断れない。陛下からの召喚を断れば、それこそ叛意を疑われる」
「叛意って……ルリアはまだ五歳ですよ?」
「疑われるのは私だ。病気や怪我だろうと、這ってでも参内しろというのが陛下の方針だ」
国王はずいぶんと厳しい人らしかった。
「断れば、より厳しいことを言われるのは間違いない」
「参内しないという選択肢はないわけね」
母は深くため息をつく。
兄と姉も心配そうにあたしのことを見つめていた。
「殿下、一体、陛下はなにをお望みなのでしょうか?」
マリオンは不安そうだ。
「まだ、サラは陛下の御前にでる準備ができておりませんのに……」
「サラちゃん、がんば。いざとなれば、ルリアのまねをすればいいからな?」
「うん。きんちょうする……」
サラはもう緊張している。
「……ルリアはまだお手本になれるほどではないわ」
母が意外なことを言う。
きっと、あたしの作法は素晴らしいが、まだまだ調子に乗るなという意味に違いない。
「わかってる!」
あたしが元気に返事をすると、こちらを見ていた父が言う。
「陛下の狙いが何かはわからないが、こちらに準備をさせないつもりなのは間違いないだろう」
「やはり、作法がなっていないと叱責する気かしら」
母も心配そうな表情を浮かべている。
「かもしれぬ。だが、サラは大丈夫だろう。男爵位の継承は陛下も賛成なさっているし」
「そっかー、サラちゃんは緊張しなくていいよ! よかったな!」
「う、うん……でも、ルリアちゃんだいじょうぶ?」
「ルリアはだいじょうぶだ」
あたしがそういって胸を張ると、母は、
「そ、そうね、きっと大丈夫よ」
そういって、泣きそうな顔で抱きしめてくれた。
「まあ、スイも大丈夫だと思うのであるぞ?」
「スイちゃんは、どうしてそうおもう?」
あたしが尋ねると、スイは動揺して尻尾を揺らす。
「え、えっとであるな? そう思うからそう思うのであるな?」
「そっかー」
なんか怪しかったが、深く聞くのはやめておいた。
朝ご飯の時間も、作法の勉強だ。
「ルリア! そうではありません。フォークの使い方は——」
「こだな?」
「違います」
あたしはたまに失敗しながらも、大まかには完璧だった。
そもそも、生まれついての気品がかもし出されているので、多少間違っても良い気がしてきた。
朝ご飯を食べ終わると、母に衣装を着せて貰う。
「ルリア可愛いわね。絵本のお姫様みたいよ」
「ルリア様。とてもお似合いですよ」
姉とマリオンはそういって褒めてくれる。
「そっかー、でも動きにくいなぁ。やっぱりにいさまの服の方がいいなー」
「だめよ。ルリア。我慢しなさい」
「あい」
あたしの隣では、サラもドレスを着せられている。
「おおー、サラちゃんかわいい」
「そ、そうかな?」
「うん。すごくかわいい。こうみるとドレスってのもいいもんだなぁー」
「ルリアちゃんもかわいいよ」
「そっかー」
姉や母もサラのことを褒めていた。
ドレスを着たサラはとても可愛い。
着替え終わると、あたしたちは父の元に向かう。
「ルリア! 可愛いな! いつもドレスを着ていてもいいのに」
そういって、父はあたしのことを抱き上げる。
「とうさまは無茶をいう。これ動きにくいからな?」
「そうか。だが、とても可愛いよ」
「ルリア、とても似合っているよ」
兄も褒めてくれる。
「サラもとても可愛いいし、綺麗だ。似合っているよ」
「ありがとうございます」
サラは緊張気味に父に向かって頭を下げる。
「うん。とても似合っている。陛下の前に出ても安心だ」
そういって、兄はサラの頭を撫でた。
「ありがとうございます」
サラは頬を赤くして、照れていた。