ミナトたちが風呂に入っている頃。
聖女の部屋でアニエスと神殿長とマルセル、ヘクトルが会議していた。
議題はおいしいアンパンの作り方だ。
「小豆は比較的簡単に、安価に入手できるが、灰汁がすごいだろう?」
「神殿長。そこは気にしなくていいでしょう。きっと灰汁抜きする方法ぐらいあるでしょうし」
「アニエスの言う通り。製造法は専門家に任せればいい。材料確保と作る人をどうするか」
「マルセル。材料はともかく作る人は問題ないですぞ。神殿の見習いがたくさん――」
ヘクトルの言葉の途中で「バァン」と扉が乱暴に開かれて、サーニャが入ってくる。
「サーニャどうした? ……くっさ」
マルセルが思わず鼻をつまむ。
「乙女に向かって、臭いって失礼すぎるでしょ!」
「そうですよ、マルセル」
そういいながらも、アニエスは鼻をつまんでいる。
「どうした、サーニャ。下水に落ちたか?」
「聞いてくれる?」
「話なら聞くから、その前に風呂に入れ」
「ちっ、わかった」
三十分後、風呂から上がったサーニャが余った菓子パンを食べながら、説明を始める。
「……ミナトが心配で下水道に潜ったのだけど」
この場にいる全員が、見ていたのでそれは知っている。
「ミナトは下水道をすごい速さで走り回って……」
水魔法で綺麗にしながら、縦横無尽に走り回っていた。
「魔法はすさまじかった。でも、それよりも、ミナトの走りに、ついて……いけなくて」
「え? 嘘だろ? いくら使徒様と言え、五歳児だぞ」
マルセルの言葉に皆うなずく。
森の狩人エルフは健脚で知られている。獲物を追って一晩中走り続けることもあるのだ。
その森の狩人エルフの中でも精鋭であるサーニャが、五歳児についていけないとは考えにくい。
みな、ミナトの【走り続ける者Lv50】のことを知らないのだ。
「嘘ついてどうするのよ。帰りもあっという間に見えなくなって……」
サーニャは迷子になったのだという。
結局、数時間迷った挙句、入った場所と違う出入り口から脱出した。
森の狩人が道に迷うとは。みな、あまりに哀れでかける言葉を見つけられなかった。
「…………次は、経験豊富なわしが行くしかありませんな」
「ヘクトルより若い俺が行くべきでしょう」
「いや、私が行くわ。次こそはついて行って見せるわ」
ミナトを見守るのはだれか真剣に話し合い始めた。
それを聞きながら、神殿長は「誰もついていかなくていいだろ」と思った。
聞いている限り、ミナトは強いし、迷子にもならないのだから。
「それで小豆の産地はどこがいいと思う?」
「そうですね、北方の……」
だから神殿長はアニエスと小豆の仕入れ先の相談をした。
ミナトの探索についていくより、アンパンを作って出迎えたほうがきっと喜ぶ。
そう考えて、神殿長とアニエスはアンパン開発に注力することにしたのだった
その後、ジルベルトがやってきて、瘴気がたまっているらしいということが報告された。
「私が瘴気が平気だったのは、ザクロ石のお守りのおかげね」
「そうだなぁ。神殿長、神像を下水道に配置するのはどうだろう?」
ジルベルトが提案すると、神官長は少し考えた。
「それもありかもしれませんが、瘴気の中に神官を派遣するのは危険ですから」
「それより、下水道の入り口に神像を配置して、瘴気が漏れないようにするのがいいのでは?」
「それだ! さすが聖女!」
そうして、王都に点在する下水道入り口に神像を設置することになった。
次の日からもミナトは下水道に潜る。
タロは入り口で待機し、ピッピは独自の調査に向かった。
そして、ミナトとスライムたちと協力して清掃するのだ。
「ぴぎ!」
「そっちにしつこい瘴気だまりがあった? 僕にまかせて!」
スライムたちがその伸縮自在の体を利用し、一晩かけて瘴気だまりを見つけてくれる。
「この裏だね。それにしても、下水道の壁ってしっかりしてるよね」
岩壁の向こう側に巧妙に隠された空間に【剛力Lv45】を使って侵入し、
「えいっ!」
っと一撃で瘴気を払う。
「瘴気だまりには、大体この汚いのがあるんだよね」
「ぴぎ~~」
硬質化して床にへばりついているヘドロの塊だ。
「ばっちいなぁ」
ミナトは忘れずに、サラキアのナイフでこそぎ落とす。
「ふう? これでよしっと。他にも見つかった?」
「ぴぎっ」
スライムは一晩に三つぐらい瘴気だまりを見つけてくれるのだ。
三つ瘴気だまりを払った後、ミナトは下水道を浄化しながら駆け回る。
「とりゃああああ!」「ピギぴぎっぴぎっ!」
フルフルを肩に乗せて、下水道を駆け抜けながら綺麗にする。
スライムたちは【走り続ける者Lv50】を持つミナトの速さについて来られない。
だから他のスライムには探索をお願いし、ミナトはフルフルだけ肩に乗せて駆け回る。
「む、しつこい汚れ発見! はああ!」
水魔法を使って、流れる水を丸ごと一気に浄化していく。
瘴気は少しも見逃さず払い、毒があれば解毒して、腐敗した水は浄化した。
「むむ! このあたり……少しだけ他より瘴気が濃い? フルフルお願い」
「ぴぎ! ぴぎぃぃ~」
ミナトが瘴気が濃いところを見つけるとフルフルが皆に知らせる。
そうすると、その近くをスライムたちが重点的に探してくれるのだ。
「ぴぎいい!」
「瘴気だまりがみつかった? やったね!」
そうして、瘴気だまりを見つけ出しては払っていった。