クラスに戻ってくると、私以外の全員が席についていた。
まだ昼休み中のため、席で読書をしている人もいれば、何かをノートに書いている人もいるし、隣同士で会話している人もいる。
後列の窓際にある空いている席。それが私の席だ。
そして私の隣には――。
「お、お帰りなさい……光……くん」
席に戻ると隣の彼女が声をかけてくれた。
頬を林檎のように真っ赤にして話す『華の姫』
「ただいま、雛乃さん」
心の中ではいつも『ちゃん付け』で呼んでしまう。彼女の雰囲気に合うからだろうか? 私が微笑むと、彼女は更に顔を真っ赤にして照れているように見える。こんな彼女の表情が見られて……なんて役得なんだろう。
この時ほど、私の見た目を良く産んでくれた両親に感謝した事はない。
「次は何があるんだっけ?」
「えっと……あ! ホームルームで学園祭の話をするって言ってたよ?」
「そうだったね、ありがとう」
首を傾げたり、頷いたりする雛乃ちゃんは可愛い。
そんな彼女を見つめていると、ふと複数の視線を感じた。
前の席に座っている二人と……。
雛乃ちゃんの斜め後ろで、何かをスケッチブックに書き付けている翡翠さん。
「あああ、インスピレーションがああぁぁ……!」
彼女の創作意欲が何に刺激されたのかは分からないが、ちらっと見えたスケッチブックの絵に描かれていたのは……いや、きっと気のせいだ。うん、気のせい。
それよりも前の二人の視線が気になるんだが。
「りおなさん、朱音さん、私の顔に何かついていたりする?」
そう尋ねても二人はニヤニヤと笑うだけ。
「やだ〜、ウチらのことなんて気にしないでよ〜、ね? 朱音っち~!」
「気にせんでよかよ〜、うちらのことは置物と思っとってよ!」
いや、視線が気になるから無理だが? そう視線で訴えると、りおなさんがウインクをして私に言った。
「んも〜、ウチらのことは気にしないで〜、雛ちゃんとラブラブしといて〜☆」
ラブラブ、という言葉に、俯く雛乃ちゃん。
俯いた彼女の耳まで、真っ赤に染まっている。もしかして怒っているのか……?
ああ、もしかして……私とそう見えてしまって、ショックを受けているのかもしれない。本当に申し訳ない。
――ほら、やっぱり二人の様子もおかしいだろう?
これでいつも雛乃ちゃんを困らせてしまうのだ。本当にどうしたことか……。