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06 フラグは埋め立てましょう


「それから……もうすぐローズ祭ですが…お相手はもういらっしゃるのですか?」


──あー、そんなものありましたね…


ローズ祭とはオルドローズで行われる建国感謝祭のようなもので国を挙げて盛大な祭典が行われる。

下町ではカーニバルのような出店を伴うお祭りを、貴族間では王城でパーティーを、教会では守護神式典をを開く。

私も例外なくパーティーに参加しなくてはならないのだが、このパーティーは繁栄の象徴として男女二人一組で参加するルールがあり、その相手は家族ではいけない為に事前に誰かと組む必要があるのだ。

悪役令嬢のイリスはヒロインの相手であるキャラと無理に組んで邪魔をするのだけどそもそも邪魔をする予定は無い私には結構困る行事なのである。

下手をすればヒロインの邪魔立てになってしまうだろうしベストとしては不参加なのだけど公爵家の令嬢が参加しないなんてありえない事、許される訳もない。


「あー……それがその…まだ決まってないんです」


「イリス様程の方なら引く手あまたかと思っていましたが意外ですね」


「引く手あまただなんてそんな事ありませんわ…」


「ウィリアム王子と行くのはどうですか?国民行事ですが王子程の方ならば参加も出来る事でしょう」


「そんな……恐れ多いですわ…」


王子となんてこのままでは悪役令嬢街道まっしぐらだし、それだけは回避したい。

出来るだけフラグは分散しておきたいかなぁ……なんて思っていたところでフラグが立ったらどうすることも出来ないんだけれど。


「お誘いしてみてはいかがですか?ああ……それとも、私と組みますか?」


品の良い笑顔でそう言った彼は恋愛に臆病とかいう設定が消し飛んでいるような気がしてならない。


おーいスタッフー!!バグ修正必要ですよー!!!


確かにエレンも伯爵家の出身だからパーティーにも参加は出来るけれどなんで誘うの私なのよ!?


「え、ええと……」


「なんて冗談ですよ、伯爵家の、それも副担任となんて組んでいては妙な噂の種ですからね。」


ええ全くその通りでございますね…両親に何を言われるかわかったものでは無い。


「帰りがけに引き止めてしまって申し訳ありませんでしたイリス様。では、お気を付けて」


エレンは困った様に笑うと、私に何も言わせないように話を切り上げて席から立ち、挨拶に頭を下げた。

一方的とはいえ用件が済んだ以上は長居する理由もないのでここは大人しく引き下がることにした。


「ええ、ではこれで失礼いたします」


廊下へ出て職員室から声が聞こえない程度まで遠ざかった辺りで傍で静かにしていたナズナが口を開いた。


「お嬢様は良い意味で学園に入られてからお変わりになりましたね」


「どういう意味よ」


確かに私の意識が覚醒するまでは悪役令嬢の色味が強く出ていて、私の自我自体は下地みたいな所だった。

今ではそれが逆転して悪役令嬢の影はほぼ無くなったと言っても過言ではない変化だろう。

ナズナは控えめに微笑みながら続けた。


「私が初めてお嬢様にお会いした時からお優しい方ではありましたが…最近ますますお優しいのを受けていろんな方からの人気が上がってきているのですよ」


「え……」


「この学園にも密やかにファンクラブなどもあるのだとか…ずっとお嬢様を見てきた身としては少々妬けます…」


「ええ……!?」


「お嬢様を聖女様なんてお呼びしている方もいらっしゃるとか……」


突拍子もないことだらけで私は絶句せざるを得なかった。

何がどうしてこうなっているのか頭の理解が追いつかないんだけど…え、どういう事?

困ったわというように頬に手を当てて眉を下げるナズナはほう、とため息をついた。


「極めつけにあのウィリアム王子の件ですもの……もうお嬢様のにわかは埋めるしか……」


過激派オタクみたいな事を口走る従者にも驚いた。

私、ナズナがこんなにも私のモンペだった事を今の今まで気付かなかったわよ……。

しかも仮にも相手はナズナのいうにわかだとしても貴族ですよ…従者の身であるナズナがそんな事したら末恐ろしいことに……。


「なんの事だかサッパリだけどとりあえず落ち着きましょう?」


「ああっ……なんというお優しさ……!これ以上の尊さは私の一日の許容量を超えてしまいます……!!」


待って、私の従者はこんなにもガチオタモンペだったかしら…一周回って怖いわ


頬を染め恍惚とした表情で口を手で抑えるその様は、まるで憧れのアイドルや推しを目の前にしたオタクの姿そのものだった。


「………………こほん……失礼致しました。少々妙なスイッチが入り取り乱しました」


「え、ええ……大丈夫よ」


流石に本人を目の前に荒ぶった事を恥じたのか顔を赤らめて頭を下げた。

私もちょっと恥ずかしかったのでもうこれ以上掘り下げるのはやめるべきだ、お互いの精神のために……。


「…………あー……その……帰りましょうか……」


「はい……お嬢様」


なんとも言えない雰囲気の中、寮へ向かって無言で歩く。




とりあえず、私の従者が私の過激派ガチオタクな新事実が発覚しました……




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