手紙を開くと、古びた羊皮紙はこの時空の狭間の冷気を吸い込み、紙端が凍るようにひんやりと疼く。
しかし、頁には何も書かれていない。かすかな凹凸だけが、消された文字の残響を物語る。指先でそっと撫でると、一度は刻まれたはずの言葉が淡く浮かび上がり、ふたたび闇へと消えていった。
彼はいまも生を紡いでいる。流転する裂け目を越え、幻の回廊を踏みしめながら。あの紋章は深い暗闇を切り裂き、瞬きひとつで世界を繋ぎ止める灯火となる。
ある世界では蒼き星の娘、イリスとともに霧氷を駆け抜け、別の世界では紅の裳裾を纏うマリナと交錯する。
無数の輪廻と崩壊をくぐり抜けた先に、いつもそこにあるのは私だ。共に在ることを許されぬ絆を胸に、彼は揺らめく時空の狭間から、どこまでも進む。
薄闇の奥、廃虚の片隅にひとり佇む姫君。銀糸のように伸びた髪は、浮遊する星屑とともに静かに舞い落ちる。水晶細工のように澄んだ瞳は、刻まれた過去と未来を映し、その唇に宿る微笑みは、時の裂け目を抱きしめるかのよう。頬を伝う涙は、消えゆく文字のように、静かに崩れ落ちた。
ねぇ、ユトス——
ここから零れ落ちる記憶、その声。まだ聞こえているの?