夜。土砂降りの雨。
雨が江藤雨澄の血まみれの体を洗い流し、辺り一面を真っ赤に染める。
黒い車が止まり、古川理が駆け寄ると、佳梦の首を強く締め上げた。
「お前が殺したのか!」
「違う、私じゃない…私が着いた時には、もう江藤は息絶えていたの…」
「言い訳するな!お前は前から彼女を心底恨んでいたんだろうが!」
「江藤の方から私を呼び出したの。着いたら、もう地面に倒れてる彼女が目に入っただけ!」
だが古川理は信じない。
その深い眼差しには陰険な光が宿っていた。
「佳梦…必ずお前を生き地獄にしてやる…雨澄の霊を慰めるために!」
佳梦は絶望的に眼前の美しい男を見つめた。
彼女こそが古川理の妻なのに、彼の心に触れたことは一度もなかった。
彼が心から愛していたのは幼なじみの江藤雨澄。その想いは、一片たりとも彼女に向けられたことはない。
四年前、理が白血病を患った時、佳梦の血液型と骨髄は彼にぴったり適合し、命を救えた。
古川家は彼女と条件を交わしたが、彼女は何も求めず、ただ彼と結婚することだけを選んだ。
佳梦は願い通り古川家の奥様となることができた。理の病気もまた回復した。
「バシッ!」
—重い平手打ちが佳梦の頬に浴びせられ、口元から血がにじみ出て地面に倒れた。
「雨澄がようやく昨日、妊娠したと教えてくれたばかりだ…それなのに今日、お前は手をかけた」
理の全身から冷たい気配が立ち込めている。
「佳梦…血の借りは血で返してもらうぞ!」
彼女は愕然として彼を見つめた。
「どうして…どうして彼女が妊娠したの?…古川理、私は一体何なの!古川啓人は何なの!」
古川啓人は彼女と理の息子だ。
あの年、理に輸血しすぎたため、佳梦の体は妊娠に適さず、無理に出産すれば命の危険があった。
それでも彼女は並大抵ではない苦痛に耐え、啓人を産んだ。
理は自分を気遣ってくれると思ったのに、彼は佳梦が子供で自分を縛ろうとしただけだと考え、それ以来、一度も啓人を抱こうとしなかった。
父子の情は冷め切っていた。
啓人はそのため自閉症を患っていた。
「お前たち?雨澄の靴を拭く価値もない!」理の薄い唇がわずかに動き、残酷な言葉を吐く。「者ども!彼女を女子刑務所に放り込め!」
「承知いたしました!社長!」
二人の護衛が佳梦を引きずっていく中、理は腰をかがめ、江藤雨澄のそばにしゃがみ込んだ。ハンカチを取り出し、彼女の顔についた雨粒を丁寧に拭い、半開きだった瞼を閉じ、そして慎重に抱き上げた。
まるで宝物のように。
その光景が古川佳梦の目を刺し、心が灰のようになる。
彼をこんなに長く愛してきたことが、いったい何だったのか。
誰も気づかなかった。路地裏にある人物が全てを静かに見つめ、ひそかに喜んでいることを。
彼女が江藤雨澄を殺し、佳梦に罪を着せたのだ…ならば…
古川理は自分のものになる!
何しろ彼女は江藤雨澄の双子の妹、瓜二つの顔を持っているのだから!
女子刑務所。
看守が彼女を監房に押し込み、だらりとした口調で言った。
「お前たち、新人をしっかり歓迎してやれよ」
佳梦が顔を上げると、周囲を取り囲む女たちがいた。
「来ないで…」
彼女は恐怖を抑え込んで言った。
「あんたたち…何をするつもりなの!」
「さっき親分から言われただろ?ちゃんと言うこと聞かなくちゃな」
先頭の女が指を鳴らしながら言った。
「このお姫様みたいな顔つき、お見事だなあ!」
佳梦は逃げようとしたが、監房の扉は固く閉ざされ、彼女は声を張り上げて助けを求めるしかなかった。
「叫べよ、いくら叫んでも助けは来ないさ」
彼女は平静を装って言った。
「私が誰か分かっているの?私は古川家の奥様よ!」
理がどんなに彼女を憎んでも、こんな女たちに手を下させるはずがない。彼は強引で横暴な男だ。殺すにせよ切り刻むにせよ、自分でやるはずだ。
「ハハハハハ…」予想に反し、女たちは一斉に笑い出した。
「古川家だって?今日ぶん殴るのはお前という古川奥様だぜ!」