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悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me
異世界恋愛悪役令嬢
2025年06月13日
公開日
8,728字
連載中
 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。  そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。    ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。  そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。  周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。

第1話  悪役令嬢の記憶①

    唐突だが、私は転生者だ。“この世界”がとある乙女ゲームの世界で、私がその中でもっとも悲惨な悪役令嬢に転生してしまったのだと思い出したのは7歳の時に起こったとある事件がきっかけだった。





    私の名前はセリィナ・アバーライン。輝くプラチナブロンドの髪とエメラルドのような瞳をした美人揃いだと有名な公爵家三姉妹の末っ子だ。


    だが有名になりすぎたからなのか、なんと7歳の時に暴漢に拉致されてしまうのである。


 あれはセリィナが初めて街のお祭りに参加する為にお出掛けした時の事だった。それまでなぜか外出禁止だったセリィナは浮かれていたのだ。初めての家族でのお出掛け、初めてのお祭り。その賑やかな雰囲気に7歳の子供が浮かれるのは仕方がないとも思わなくはない。


 でも、浮かれているだけならばまだ良かった。あまりに楽しくてほんの一瞬だけセリィナはお姉様たちの手を離してしまったのだ。あれだけ「絶対に離してはダメよ」と言われていたのに。


 時間にしたらほんの数秒である。普段なら鉄壁だと言われている護衛たちだが、なぜかその瞬間に限って隙ができてしまった。そしてセリィナの体は人混みの中でゴロツキに連れ去られていったのだった。


 結果的な事だけを言えば、セリィナはすぐにケガもなく無事に助けられた。時間としてはわずかな時間だっただろう。


 だが、野蛮なゴロツキの男たちに囲まれた恐怖から精神的ショックを受けたセリィナは男どころか人間が苦手になってしまったのだ。


 それは公爵家の護衛やいつも世話をしてくれる使用人たち、さらに言えば一時期は家族までも近づくのに抵抗してしまうほどのかなりの重症であった。小さな子供が精神的ショックを受けたのだから仕方がないだろうと……医師は「時間をかけて解決するしかない」と言うしかなかった。


    しかしその真相は、その時のショックでからなのだ。



   #セリィナ__私__#にはこことは違う世界での前世の記憶があって、 #この世界__・・・・__#は“私”が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界であること。そして、“私”がその乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったということを。


    つまり私の未来は……両親や双子の姉たち、それに使用人たちなど信じていた人たち全てに裏切れて最後は惨めに死んでしまう悪役令嬢なのだ。今現在、私に向けられている“笑顔”や“優しさ”もヒロインが現れた瞬間に砂で作られた城のようにすぐに崩れ去ってしまうと知ってしまったのである。


    この世界……〈エターナルプリンセス~乙女の愛は永遠に~〉略して〈えたぷり〉は、よくある攻略型の乙女ゲームであった。


 人気絵師が描き下ろした登場人物たちのイラストと豪華声優陣のボイス付きに加え、最先端のAIアシスタントを組み込んだやり込み要素のあるゲーム内容も合わさって大人気ゲームとして攻略記事が雑誌に載るくらいだった。


 17R指定されてはいたが、それは決して大人向けの恋愛だからというわけではない。それは「断罪される悪役令嬢の処刑方法が残酷でリアルだから」である。このゲームのコアなファンは主に二通りに別れていて、それぞれ攻略対象者が推しだからというものが多いが、悪役令嬢の全ての断罪シーンを見たいからと攻略を進めるファンもいたのだ。なにせどの攻略対象者か、好感度はどのくらいか、どの選択肢を選んだか……ほんの少し違うだけで断罪方法が変化するのである。そして、それによってヒロインのエンドも微妙に変化するので何度プレイしても飽きないと評判だった。


    ヒロインはとある下位貴族の娘で、明るくて可愛らしいみんなに愛される少女だ。攻略対象者は定番の王子に侯爵家の令息、宰相の息子と大商人の長男。そしてシークレットキャラの計5人がいる。


  攻略対象者についてはほとんどプレイしたし攻略本にも情報が載っていたが、シークレットキャラだけは非公開なので顔もわからないままだった。なんでも出現条件が難しいので出現させるだけでも神の領域らしいと噂はあったが。なのでシークレットキャラの場合はわからないが、とにかく他の4人の攻略対象者のルートでは必ず悪役令嬢には悲惨な結末が待っている事だけは確かであった。


    ヒロインは幼いときに行ったお祭りで、まずシークレットを除くキャラたちと初めての出会いをする。それはムービーで毎回必ず流れていた。すぐにプレイ出来ないのはもどかしいが、それでも出会いイベントがないとゲームが始まらない。ヒロインが道に迷いながらそれぞれと最初の運命の出会いを果たすのを見ながら、大商人の息子以外は多少こじつけ感があるのでは……なんてファンの中では囁かれていた。お忍びで来るにしたって7歳かそこらの子供なのだから限界があるだろうと思わなくもなかったが、所詮ゲームなのだから……と、誰も深くは考えなかったようだ。何より美しいイラストが滑らかに動き、AIアシスタントの選択したメロディーが流れてくるとファンは黙って魅了されていた。


   とにかく。その時はまだ子供だったしお互いの事情も名前も知らずにお祭りのわずかな時間を一緒に過ごした思い出を胸に残して終わる。


 そして数年後、貴族の子供が必ず通わなくてはいけない王都の学園で運命の再開を果たす事によりゲームが開始するのだ。


 さらに攻略が進むに連れ、実はヒロインが公爵家の子供だったと言う衝撃の真実が明かされる。


    なんとヒロインと悪役令嬢は赤ん坊の頃に侍女によってすり替えられていた事がわかったのだ。家族はヒロインを正式に公爵家の娘として引き取りとても可愛がるが、逆にヒロインをいじめていた悪役令嬢は放り出されはしなかったものの冷遇されてしまう。悲しみと憎しみに染まった悪役令嬢はヒロインを殺そうとして……結果、攻略対象者に惨殺されてしまうのであった。


   好感度がMAXならば、 どのルートでも悪役令嬢を殺してハッピーエンドだ。殺害方法は毒殺・絞殺・刺殺と様々でどれも残酷だった。最後に血塗れになって手を伸ばした悪役令嬢の目の前には果たして誰がいたのか。そして、ヒロインはその時の攻略対象者と結婚し幸せに暮らすのだ。例え好感度が低くても、やはり悪役令嬢は死んでしまうか悲惨な目に遭う。例えヒロインにとってバッドエンドでも、取り替えの事実がある以上悪役令嬢に安らぎなどなかった。


    そのすべてを理解したとき、自棄になり泣いて暴れた。あまりの暴れぶりに苛立った暴漢が私を殴ろうとしたとき奇跡が起こって私は助かったのだが……助かった後もその恐怖は消えることは無かったのだ。


    自分を囲む護衛や使用人が、家族が怖かった。心配そうにしているが、もうすぐそれもゲームと同じあの冷たい眼に変わるんだと思ったら悲しくて怖くて誰にも近付いて欲しくなかった。



    そう、たったひとりを除いて────。






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