元王城お抱えスキル研究家の、モフモフと田舎同居スローライフ 〜拾った女の子が隠しスキル持ちだったので導く~
野菜ばたけ
異世界ファンタジースローライフ
2025年06月13日
公開日
1.4万字
連載中
動物と話せる幼女と『特性:沼』持ちの羊を、褒めて伸ばしてのびのび養育!
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魔法はないが、神から授かる特殊な力――スキルが存在する世界。
王城にはスキルのあらゆる可能性を模索し、スキル関係のトラブルを解消するための専門家・スキル研究家という職が存在していた。
しかしちょうど一年前、即位したばかりの国王の「そのようなもの、金がかかるばかりで意味がない」という鶴の一声で、職が消滅。
解雇されたスキル研究家のスレイ(26歳)は、ひょんな事から縁も所縁もない田舎の伯爵領に移住し、忙しく働いた王城時代の給金貯蓄でそれなりに広い庭付きの家を買い、元来からの拾い癖と大雑把な性格が相まって、拾ってきた動物たちを放し飼いにしての共同生活を送っている。
ひっそりと「スキルに関する相談を受け付けるための『スキル相談室』」を開業する傍ら、空いた時間は冒険者ギルドで、住民からの戦闘伴わない依頼――通称:非戦闘系依頼(畑仕事や牧場仕事の手伝い)を受け、スローな日々を謳歌していたスレイ。
しかしそんな穏やかな生活も、ある日拾い癖が高じてついに羊を連れた人間(小さな女の子)を拾った事で、少しずつ様変わりし始める。
スキル階級・底辺<ボトム>のありふれたスキル『召喚士』持ちの女の子・エレンと、彼女に召喚されたただの羊(か弱い非戦闘毛動物)メェ君。
何の変哲もない子たちだけど、実は「動物と会話ができる」という、スキル研究家のスレイでも初めて見る特殊な副効果持ちの少女と、『特性:沼』という、ヘンテコなステータス持ちの羊で……?
「今日は野菜の苗植えをします」
「おー!」
「めぇー!!」
友達を一千万人作る事が目標のエレンと、エレンの事が好きすぎるあまり、人前でもお構いなくつい『沼』の力を使ってしまうメェ君。
そんな一人と一匹を、スキル研究家としても保護者としても、スローライフを通して褒めて伸ばして導いていく。
子育て成長、お仕事ストーリー。
ここに爆誕!
第0話 拾った女の子が羊の羊毛に食われた
人生で、その時ほど自分の目を疑ったことはない。
たまたま出会って、腹が減っていそうだったから晩飯を作ってあげた女の子・エレン。
彼女が満腹で彼女が召喚した羊のメェ君の羊毛にポフンと身を投げて、「沼のように沈み込むモフモフ~」と呟いた瞬間、エレンはまるで沼に沈むかの如く、モフモフの中に沈んでいった。
メェ君はたしかにもう量が多いが、小さな体の子ども相手とはいえ、流石にその体の殆どを沈み込ませる程の奥行きはない。
物理的に、あり得ない。
その上、一部始終で連想したのは、魅力的なもので獲物を誘引して捕食する擬態型の魔物の姿だった。
気が付けば、俺はその羊毛にズボッと両手を差し込んでいた。
抱き上げたエレンは、キョトンとしている。
どうやら外傷はないようだが、遅効性の状態異常にかかっている可能性だってある。
この羊は、エレンの召喚動物で、今日見ていた限りでは、主人への庇護欲がかなり高く、群を抜いて仲良しだった。
彼がまさか自らの意思で、エレンを傷つけたとは思いたくないが、だからこそ、今のあり得ない光景の正体を知る必要がある。
「ドラド、助けてくれ! この子が羊の羊毛に食われたんだ!!」
駆け込んだ先は、冒険者ギルド。
ギルド長であり既知でもあるドラドに、エレンの無事と妙な事を引き起こしたメェ君を見てもらうために走った。
血相を変えた俺を見て、ドラドはまるで奇妙なものを見たかのような顔で片眉を上げる。
「何言ってんだお前、女の子がお前の脇に抱えられている時点で、羊毛に食われてないだろうが」
「食われたんだよ! 引き上げたんだ!!」
俺の剣幕に合わせるように、両脇に抱えていたエレンとメェ君の足がプランと揺れた。
「スレイ、おちついて?」
「めぇめ?」
「元はと言えば、お前たちが!」
一人と一匹に剣幕を向けかけて、我に返る。
何が起きたのかにすら気が付いていない様子のこの子たちに何を言ったところで、意味はない。
俺は意識的に腹から深く息を吐き、自らをどうにか落ち着けた。