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告白6

「その後もずっとずっとリューちゃんは私を助けてくれたし、いつも側に居てくれた。多分私のワガママでリューちゃんを困らせたことだっていっぱいあると思うけどリューちゃんは笑って私の頭を撫でてくれた……」


 それほど大きく声を出しているわけでもないのにやたらとルフォンの声が頭に響く。


「私ね、リューちゃんが好き」


 分かりきっていた言葉。

 顔を真っ赤にして、それでも笑顔を浮かべてルフォンは真摯にリュードに気持ちを伝えてくれた。


「だから16歳になったら……」


「ルフォン」


 だからリュードも真剣に受け止めてちゃんと答えを返す。

 リュードが言葉を返すよりも早く、ルフォンが立ち上がったリュードの顔を見て何かを察したのか瞳が揺れた。


 今自分がどんな顔をしているのかリュード自身も分からない。

 少なくとも真剣な顔をしてるつもりだったけどもしかしたら悲しげな顔をしていたのかもしれない。


 リュードが何を言おうとしているのか察して悲しそうな顔をしているルフォンに答えを言わなければならなくて内心重たい気分がしていた。


「俺はルフォンの気持ちには応えられない」


 ルフォンの上がっていた尻尾がゆっくりと下に落ちていく。


「どうして、私じゃ……ダメ?」


 震えるルフォンの声に胸が押しつぶされそうになりながらもリュードは首を振る。


「ルフォンがダメだからとかじゃないんだ」


「じゃあ、どうして」


「……俺は16歳になったらこの村を出る」


 まだ誰にも言っていない決意。

 この体に転生して、この村にお世話になっているものの俺はもっと外の世界を見たい、旅してみたいという思いが常々あった。


 恐ろしく恵まれた環境で努力をして外でも生きていけるだけの力がついたと思う。

 当然竜人族の習慣や村で生きるために必要だったこともあるけれど努力を続けていたのはいつか村の外に出て生きていくためでもあった。


「次の力比べで俺は優勝する。子供部門じゃなく大人部門でだ。仮に優勝出来なくても子供部門チャンピオンのお願いとして村から出ることを願い出る。

 そして来年の誕生日を迎えて、次の行商に着いて行って、そのまま世界を見て回るつもりなんだ」


 この村に戻ってこないなんてつもりはない。

 竜人族の寿命は真人族よりも長く、強い魔力を持つほど長生きの傾向もある。


 いつか戻ってくるから待っていてくれ、正直言ってそうした卑怯で狡い言葉が喉まで出かかった。

 ルフォンならそうしてくれそうな気もするし、リュードもルフォンが誰かと一緒になるとかそんなの考えたくもない。


 でもそんな卑怯な考えでルフォンを拘束してしまいたくもない。

 ルフォンの顔を見る勇気は今のリュードにはなく、顔をそむける。


 ただルフォンに一緒に来てくれなんていうわがままを言える勇気もなかった。

 きっと言えば来てくれる、そんな気もするのだけどそれはルフォンの意思ではなく、リュードのためにとなってしまう。


 旅路は楽なこと、楽しいことばかりではないだろう。

 大変なこと、辛いこと、見たくもないことがあるはずだ。


 この告白は正直言って嬉しい。

 だからこそ、だからこそリュードの気持ちを押し付けてはいけないと思ってもしまうのだ。


「だから俺は、ルフォンの気持ちには応えられないんだ」


「そっか……私のことが嫌いなわけじゃないんだ…………」


 長い沈黙の時間が流れる。

 リュードとしても決意が揺らいでしまいそうで、ルフォンとこの村で暮らしていくのも別に悪くないと思う自分がいて、それ以上の言葉を口に出来ない。


 大切に思うからこそ応えられない。

 顔色も伺えなければ視界の端に見える尻尾の影も動いていない。


 今ルフォンが何を考えているのかリュードには分からない。


「もう帰らないとすぐに日が落ちちゃうね」


 長い沈黙の後にルフォンが先に口を開く。

 洞窟はどちらかといえば帰りの方が少し苦労しそうな作りなっている。


 行きの時間と今の太陽の位置から今の時間を考えると確かに今帰り始めなきゃ村に着く前にはすっかり日が落ちてしまうだろう。


「そうだな……」


 行きとは違う重たい空気のままリュードたちは太陽が沈みきる前に村に着いた。

 当たり障りのないお別れの挨拶をしてそれぞれ隣同士の家に帰っていった。


 明らかにおかしな雰囲気をしていたはずなのに、リュードの両親もルフォンの両親も何も言わなかった。

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