激闘の力比べから数日後、リュードは村長に呼ばれ村長の家に赴いた。 一緒に大人部門の女性チャンピオンのメーリエッヒとついでにヴェルデガーもついてきている。 村長の家に着いてみると女の子の子供部門チャンピオンのルフォンとルーミオラ、ウォーケックもいた。「此度の力比べご苦労であった。そして優勝おめでとう」「ありがとうございます」 みんな集まったところで村長が労いの言葉をかける。 村長の前にテーブルを挟んでリュードとルフォンは村で作られた皮張りのソファーに、メーリエッヒはソファーの横に置いた1人がけの椅子に座る。 ヴェルデガーとウォーケック、ルーミオラは仕方なく後ろで立ちっぱなしになる。 まず村長から労いの言葉が送られた後、お茶とお茶受けをフテノが運んでくる。 甘いのも好きなリュードは我先にと遠慮なくお菓子に手を伸ばす。「メーリエッヒ・イデアムは大人部門女性チャンピオン、ルフォン・ディガンは子供部門女性チャンピオン。 そしてシューナリュード・イデアムは子供部門男性チャンピオンとなった」 改めて口にされると実感する。 勝利と、負けを。 目の前の圧倒的にも思える覇気を纏う村長に後一歩及ばなかったのだと。「それぞれ1つ、願いを叶えてやろう。もちろんこの村の総力を挙げて叶えられることではあるがな」 今日呼ばれたのは他でもない、優勝商品である1つ希望を叶えてもらえる権の中身について希望を聞くためである。 ルーミオラとルフォン、そしてリュードはそれぞれの部門での優勝なので1つずつお願いを叶えてもらえる。「ではまずシューナリュードから聞いてみよう。 ……望むならこの村長の座を明け渡してもよいぞ」 この村において村長の座につくことは最大の誉れ。 名誉や名声を重んじる魔人族にとってはこの上ないご褒美になりうる。 リュードにとってはあまり興味のないものだけどそれを望む人も多いのは事実である。 リュードは村長に肉薄した。 勝てはしなかったものの実力は十分に示した。 村長はもう長いこと村長をしている。 それに対してよく思わない人も少しはいる。 まだ若いけれど村長はリュードは聡明であるしそのつもりがあるなら早いうちから村長としての経験を積んでもいいかもしれないと思っていた。 でももちろん興味はないのだから村長を引き受けるつもりはない。 それにあまり多くはないとはいっても村長の仕事をやるのも面倒だと思う。「恐れ多く、この身におきましては村長の地位はふさわしくありません。私が望むのは……」「望むのは?」「この村から出て行く許可が欲しく思います」「ほう」 村長の片眉が上がる。 意外ではない、けれどやはり聞けば驚きはあるといった表情。 ルフォンはもちろん知っているし、実はルフォン経由でリュードの両親もルフォンの両親も知っている。 村長もリュードほどの若者がこの村には収まらないかもしれないことは予想していたのである。「許可とそのための旅費でもいくらかもらえれば……これが俺の希望です」「この村から出て行く、とは? 何をするつもりなのだ?」「……何かの目的が明確にあるわけではありません。ただ世界を見て回り、旅をしてみたいと思っています。そして色々な経験をして……もっと強くなりたいです」「なるほど……旅をし、強くなりたいか」「はい。力比べで俺の実力も示せたと思います。だから旅に出る許しが欲しいと思っています」「良かろう、ただし……」「村長!」「むっ?」 何かを言いかけた村長に何かを決心した目をしているルフォンが割り込んだ。「私のお願いも聞いてください」「今はシューナリュードの希望を……」「私のお願いはリューちゃんと一緒に旅をする許可が欲しいことです!」「はっ?」 立ち上がってルフォンが告げる。リュードを見て。 ルフォン、今なんと?とリュードも驚きの表情を浮かべてルフォンを見る。 ルフォンの言葉を聞いてウォーケックが膝から崩れ落ちた。 リューちゃんと一緒で、ではなくリューちゃんと一緒に、旅をする許可が欲しいとは聞き間違いじゃないはずだ。 村長も両眉が上がり驚いて目を見開いている。 ルフォンのお願いの方は全く予想もしていなかった。 コノヤロウと思わざるを得ない。 ヴェルデガーは特に表情を変えていないが母親たちは抑えきれないニヤニヤが顔に出ている。 最終的にはルフォンが決めたからこうはなったのだろうが恐らくこうなるように誘導したのは怪しく笑うこの2人だとリュードはピンときた。 ハイタッチまでしてるし。 かくいうリュードも突然のことに頭が追いついていない。 付いてくることを考えている素ぶりなんてこれまで見せてこなかった。 しばらくあまり顔も合わせていなかったから全く気づくことも出来なかった。「えっと……ルフォン?」「リューちゃん、私決めたの!」「決めた決めてないとかじゃなくて……」「まあ、待ちなさい」「ダメですか、村長」「だから待ちなさい」 やや暴走気味のルフォンを村長が制する。 少しだけ声に魔力を込めるようにして圧力を加えてようやくルフォンが止まる。 親どもは特に制するでもなく静観を決め込んでいる。 ウォーケックだけは1人放心状態でショックを受けている。 聞いていたなら激しく反対していただろうから聞かされていなかった。 ルフォンも落ち着きを取り戻したのかソファーに浅く座り直す。 ひとまず言いたいことも言えたからルフォンはホッと胸を撫で下ろしている。