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託された思い7

 生者として死にたい理性。 魔物として死ねない本能。 アンデットとしてこんなところで生き長らえるよりは船でも沈めて死んでしまおうと考えたこともあったのだがいざ実行しようとすると出来なかった。 生きていたいという無意識の部分が強く、最後の最後で実行出来なかったのだ。 無為の日々。 クラーケンの魔石の魔力が尽きれば船が朽ち始めて死ねるはずだと考えていたところ大きな物音がした。「それが君たちが落ちてきた音だった」 甲板から音がしたように感じられたので見に行かせたらスケルトンの気配が消えた。 絶対に何かがあったはずだと思い、慌てて甲板に出てきた。 ゼムトは久々に感情というものを思い出した。 生きているものを見るのがこれほど嬉しいものだとは思いもしなかった。 ゼムトを見ても即座に攻撃してこないで意図を汲んでくれたリュードたちに感謝を述べてゼムトは椅子に深く座り直して天井を見上げた。「これが僕達の終わりの話。 ごめんね、でも誰かに聞いて欲しかったんだ」 あまりに救いの無い話にルフォンも泣きそうな顔をしている。「そこで勝手だけどお願いがあるんだ」 僕達を殺してくれないか。 そんな悲しいお願いがゼムトから伝えられた。「ただでとは言わない。殺してくれるなら君達を穴の上に魔法で飛ばしてあげるよ」 他にも特典付き!と明るく告げるゼムトだけどルフォンはもう耳をペタンとして気分が沈んでしまっている。「分かった。引き受けよう」「リューちゃん……」「……ありがとう。うん、お願いと言いつつ断れないようなやり方をして申し訳ないね」「構わない。具体的にはどうしたらいい?」「そうだな……僕達もこの船も、もはや亡霊に過ぎない。だから燃やしてくれないか?  洞窟だとちょっと辛いかも知れないけどアンデットだしそれが確実だろう。煙も上がらないように死ぬまで魔法で防いでおくからさ」 もう死んでいるだろ。なんてことは言えない。「承知した」「ははっ、君みたいな人に最後に会えて、幸運だったよ。じゃあ特典と……ちょっとお願いなんだけどね」 ゼムトは立ち上がりながら言った。「度々悪いけど付いてきてくれるかい」 次に向かったのは1つ上の階の1番奥の一際大きな部屋で物置なのか大小様々な箱が所狭しと積んである。「こっちの小さい箱はね、遺品なんだ」 よく見ると手のひら大ほど箱には1つ1つ名前が書いてある。 クラーケンとの戦いの最中で死んでしまったり、まだ人だった頃に先に逝ってしまった仲間たちそれぞれの遺品をまとめてある。 本来なら装備品とかもまとめてそれぞれの箱に置いておきたいところであるがそんなふうに分けておくスペースや余裕もない。 とりあえず簡単にまとめられるものだけを小箱にまとめてあるのである。「それであっちの大きな箱はこの船でも高価な物、武器とか魔具とか魔物の素材とかそんなものだけどね。 お金もいくらかあるからそっちの方は貰っておくれよ。 こっちの遺品の方なんだけどね……出来れば遺族に返して欲しくて…………」 当然といえば当然の願いだと思う。「その、ダメ、かな?」「リューちゃん、私……」「分かってる」 くいっとリュードの服を引っ張ったルフォンの表情を見れ何を言いたいのか分かる。 ここで断るほどリュードも冷血漢ではない。「ゼムト、それも引き受けるよ。 元々旅に出るつもりだったんだ、すぐに行くとはいかないけど1つ目的としてはいいだろう」「ありがとう」「リューちゃぁん……」 ルフォンの顔もパアッと明るくなる。 完全にゼムトたちに感情移入しちゃっている。「と、いうことで! この量を両手に抱えてもっていくのは無理でしょうから、最大の特典をジャジャーンとあげちゃいます!」 そう言ってゼムトが取り出したのは大きめの麻の袋。 「これはなんとなんと、空間魔法が付与されていてこの部屋の荷物全部入れてもまだ入っちゃうぐらいの優れもの!  この大きさの空間魔法なら国宝クラスのマジックアイテムなのだ!」「ほーん」「いや! リアクションの薄さ!」「そう言われてもなぁ……」 実際問題リュードにはマジックボックスの魔法がかけられたカバンがある。 容量も結構デカいしカバンの方がスタイリッシュなのでわざわざ袋を腰から下げて持つかなと考えれば持たない。 確かにこの量の荷物が入り切るのか不安だったから助かったといえば助かった。 けれど驚くまではしないぐらいである。「これむっちゃ凄いやつなんだけどな……」 うなだれて全身でショックを表現するゼムト。 凄いことは分かるし役に立つことも重々承知していてもリュードの持っているものが同等の働きをするため驚きは少ないのはしょうがないのだ。 容量で考えると袋の方が多そうなので実際は袋の方が凄い。 凄さを分からせてやるとゼムトは他のスケルトンの力も借りて部屋の荷物を袋に放り込んでいく。 すごいと目を輝かせるルフォンのリアクションを得てやっとゼムトは機嫌を持ち直した。 なんやかんやと部屋の荷物を収納してみせた袋を1度名残惜しそうに撫でた後グッとリュードの方に突き出してくる。「子供なんかもいた奴には遺品を渡してほしい。家族がいなくて、親族なんかもいないような奴のはどうか……この遺品を埋葬してやってくれ。 一応名簿みたいのも入れたからさ。国から派遣された騎士だから国に渡してくれれば分かるはずさ」

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