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第7話 ぬいぐるみ


これは僕が18歳のとき――

今から7年前に体験した実際の出来事です。


当時、僕には付き合っていた女の子がいました。


A子というかわいいものが好きな子で、特にぬいぐるみを集めるのが彼女の趣味でした。


ある日、ふたりでデート中。


ふと立ち寄ったリサイクルショップの店先にクマのぬいぐるみが置かれていました。


A子はそのぬいぐるみに一目惚れしたようでどうしても欲しいと言い出したのです。


正直、僕はそういった中古の人形には抵抗がありました。


「誰が持ってたか分からないし、変なものが憑いてたら怖くない?」


そう言って止めましたが、A子は「新品も中古も一緒だよ」と笑って結局そのぬいぐるみを購入しました。


彼女はその日一日ずっと上機嫌で、まるで宝物を抱えるようにそのクマを大事にしていました。



――でも、その翌日からA子と一切連絡が取れなくなったのです。



毎日LINEして、電話もしていたのに急な音信不通。

不安になった僕はA子の実家を訪ねました。


インターホンを押すとA子のお母さんが出てきました。


そして少し困ったような、どこか悲しげな表情でこう話してくれたのです。


「A子は……部屋にいるけど、急におかしくなってしまってね。


なにかに怯えてるみたいで、食事もしないし……。

夜中に叫んだりするの。今朝病院にも連れて行ったけど、原因は分からないの」


静かに語られるその姿に僕はゾッとしながらもある“可能性”が頭に浮かびました。


(あのぬいぐるみじゃないか……?)


理由なんてありません。

ただ、直感でそう思ったのです。


僕はどうしてもA子に会わせてほしいとお願いし、しぶしぶ許可をもらって部屋に向かいました。



ドアを開けた瞬間、A子は部屋の隅に蹲り何かに怯えるように震えていました。


「A子……?」



そう声をかけた途端、A子は突然豹変しました。


叫びながらカッターや物を投げつけてきて、僕に襲いかかってきたのです。


驚いたお母さんが部屋に駆け込み、二人がかりでA子を押さえ込み、ようやく落ち着かせました。


でも――

そのとき僕が一番気になったのはA子の机の上に置かれた“あのぬいぐるみ”でした。


あの可愛い雰囲気とは違って真っ赤に染まったぬいぐるみ。


血のような液体に濡れ、異様な雰囲気を放っていたそのぬいぐるみを見た瞬間僕の中で何かが直感的に「これをすぐにでも処分しなきゃ」とそう思ったのです。


僕は反射的にそのぬいぐるみを掴み、家を飛び出しました。


どこに行くかも分からないまま、近くのお寺へと駆け込みました。


お寺の門が見えた瞬間――

僕の右手に激しい痛みが走り


咄嗟に手元のぬいぐるみに目をやると

そのクマの口が、まるで人間のような裂けた笑みを浮かべていたのです。


「……ッ!」



その恐怖に僕はその場で意識を失ったようでした。


気がついたとき僕は病院のベッドにいました。


お寺の人が倒れている僕を見つけ、救急車を呼んでくれたそうです。


後に聞いた話では、あのぬいぐるみには“強い生霊”が憑いていたとのこと。


持ち主を死に追いやるほどの力がある“呪物”だったらしいのです。


お寺の方が有名な神社に預けてくれたそうで、今でも特別な場所に保管されているとのことでした。


そして――

A子はあれ以来、精神を病んでしまい入退院を繰り返す生活を送っています。


あのぬいぐるみがどこから来たものなのか、

A子があのぬいぐるみを購入したのは見えない何かに引き寄せられていたのか...


それは今も分かりません。


でもそれ以来、僕はどんな小さな物でも中古品を買うのが怖くなりました。


もしあなたがリサイクルショップやフリマアプリで「かわいい」と思う人形やぬいぐるみを見つけ――

ほんの少しでも違和感を覚えたら購入をやめておいた方がいいと思います。


この世には、“物”に宿る何かが絶対にいるからです。



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