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雀荘にて

 幸いにも雀荘にはあの日、私やKと共に卓を囲んだ電脳が居た。に頼らない論理思考を基に麻雀を打つ電脳は、頭脳明晰な男と評判だった。そんな彼から意見を貰うのが最適であろうと考えた私は、彼にKの睡眠薬と時計を使ったアリバイトリックについて、語って聞かせた。


「……それって、本気マジで言ってる?」


 麻雀の途中で無理矢理卓から引き剥がされたせいもあろうが、電脳の反応は恐ろしく冷ややかだった。


「そもそもさあ、キミの考えたトリックって、ボク達全員を眠らせないとダメじゃん。Kクンから聞かなかった? あの日。前の晩、徹夜でもして疲れてたんじゃない?」


 電脳の言葉に、私の推理はあっさりと瓦解した。


「どうしてもキミが起きないから、仕方なくボク達は三麻に移行したんだ。で、二時間位打ってたら、今度は年に勝てなくなった梅サンが根を上げてさ。そこで、その日の麻雀はお開きになったんだ。それが確か、二十三時少し前だったかな?」


 電脳は煙草を口に咥えると、ジッポで火をつける。


「それと参考までに。推理小説ミステリによく出てくるアリバイトリックにこんなのがある。実は殺人現場は犯人とそのアリバイの証人が居る場所の近くで、犯人は手洗い等と称して席を外し、その僅かな時間で犯行に及び戻って来る。そしてその後、遠くの偽現場まで死体を持って行く……というのだけど、警察が言うには、死体は損傷が激しく、現場も凄惨故に、別の場所から来た形跡はないらしい。だから、このトリックもありえないだろう。とにかく、Kクンに元カノサンを殺すのは絶対に不可能だ」


「それなら……一体誰が黒雀姫を殺したんだ?」


 私の疑問を愚弄するかの様に、電脳は大量の煙を溜息と共に吐き出した。


「……キミさ、ホントになあんにも知らないんだねえ」

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