10-1. 互いの心を確かめて
夜の静寂の中、セーラとリチャードは並んでベッドに座っていた。
心臓の鼓動が、静かな寝室に響くようだった。
リチャードが「君の隣で眠りたい」と言ったとき、セーラの胸は高鳴った。
今までは「夫婦」とは名ばかりで、互いに一定の距離を保っていた。
しかし、今夜だけは――彼と本当に心を通わせたい と思った。
「セーラ……」
リチャードが、そっと彼女の手を取る。
「私は、君を本当に愛している。」
「……。」
彼の瞳は、まっすぐに彼女を見つめていた。
「私はこれまで、君に自由を与えようと考えていた。」
「君が好きなように生きることこそ、君を繋ぎ止める最善の方法だと思っていた。」
「だけど、本当は……君に“私のもとにいてほしい”と願っていた。」
彼の告白を聞きながら、セーラの胸がきゅっと締め付けられる。
「それを伝えるのが怖かった。君の自由を奪うことになるのではないかと。」
「だから、君が私を選んでくれるのを待っていた。」
「でも、もう待たない。」
リチャードは、しっかりと彼女の手を握った。
「私は、君と共に生きたい。」
「永遠に、君と共にいたい。」
その言葉に、セーラの瞳が潤んだ。
彼は、ずっと彼女を想っていてくれた。
それなのに、彼女は気づかずに過ごしていた。
「……ごめんなさい。」
セーラは、震える声で言った。
「私はずっと、政略結婚だから仕方ないと割り切っていました。」
「旦那様が優しくしてくれるのも、『好きだから』ではなく、ただ貴族としての義務だと思っていたのです。」
「でも、本当は違いました。」
「私は……私は、ずっと旦那様に甘えていたのですね。」
リチャードは、驚いたように彼女を見つめた。
セーラは、静かに微笑む。
「私は、あなたのことを“夫”だと意識していなかったわけではありません。」
「むしろ、意識しすぎていたのかもしれません。」
「あなたの優しさに、どう応えていいか分からなくて……私は、ただ『政略結婚の妻』を演じていたのです。」
「だけど、今は違います。」
セーラは、リチャードの手をそっと握り返す。
「私は、あなたのそばにいたい。」
「あなたの妻として、あなたと共に生きたいのです。」
その言葉に、リチャードの瞳が揺れる。
「セーラ……本当に?」
「ええ、本当に。」
彼女は、まっすぐに彼を見つめた。
「私の自由は、旦那様のもとにあるのです。」
「永遠にともにありたいと、心から思っています。」
リチャードの表情が、ゆっくりと緩んでいく。
「……本当に、君は……」
彼は、まるで信じられないというように、そっと彼女の頬に触れた。
「ずっと、私が聞きたかった言葉を……君は、今、言ってくれたんだな。」
セーラは、少し照れながら頷いた。
「だって、本当のことですもの。」
その瞬間――リチャードは、彼女を優しく抱き寄せた。
「……ありがとう、セーラ。」
彼の声は、震えていた。
「私は、君を決して離さない。」
「私の心も、君のものだ。」
彼女は、彼の腕の中で、静かに目を閉じた。
――私たちは、本当の意味で夫婦になったのだ。
その温もりを感じながら、セーラはそう確信した。
翌朝――
窓から差し込む朝日が、優しく二人を照らしていた。
セーラが目を覚ますと、リチャードはすでに起きており、彼女を静かに見つめていた。
「おはよう、セーラ。」
「おはようございます、旦那様。」
彼女は少し照れながら微笑んだ。
昨夜の出来事を思い出し、頬が熱くなる。
リチャードは、優しく彼女の髪を撫でながら言った。
「これからは、もう遠慮しなくていい。」
「君は、君のままでいてくれればいい。」
「そして……私は、君を全力で愛し続ける。」
その言葉に、セーラは心の奥から喜びが溢れるのを感じた。
「はい……私も、旦那様を愛します。」
「ずっと、ずっと、永遠に。」
リチャードは、静かに微笑み、そっと彼女の手に口づけを落とした。
「誓おう。君と共に生きると。」
――こうして、二人は本当の意味で夫婦となった。
互いの心が繋がり、二人はこれからも共に歩んでいくのだった。
10-2. 未来への誓い
朝日が差し込む寝室。
セーラは、隣に座るリチャードを見つめながら、じんわりと胸が温かくなるのを感じていた。
昨夜、彼と心を通わせたことで、今までとは違う感情が生まれている。
――これが、本当の夫婦なのだ。
「おはようございます、旦那様。」
「おはよう、セーラ。」
リチャードは、優しく微笑みながら彼女の髪を撫でた。
その仕草があまりにも自然で、セーラの頬がじんわりと熱くなる。
「昨日のこと、夢じゃありませんわよね?」
「夢ではないさ。」
彼は、セーラの手を取り、そっと口づけを落とした。
「君が、私と共に歩んでくれると誓ってくれたのだから。」
その言葉を聞いて、セーラの胸がきゅっと締めつけられる。
「はい……。」
彼の温もりが、愛情が、こんなにも心を満たしてくれるなんて。
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夫婦としての第一歩
「そういえば……。」
セーラは、リチャードの顔をじっと見つめた。
「せっかく、夫婦としての想いを確かめ合ったのですもの。今日は、一緒に過ごしませんか?」
リチャードの眉がわずかに上がる。
「今日は、君と過ごすために、仕事をすべて片付けた。」
「まあ!」
セーラは、思わず笑顔になった。
「それなら、今日は何をしましょうか?」
リチャードは、少し考えてから、彼女の手を優しく握った。
「……君の好きなことをしよう。」
「私の?」
「君は、これまでずっと忙しくしていた。」
「商人ギルドの仕事、屋敷の管理、私の財務管理の手伝い……。」
「だから今日は、純粋に君がしたいことをする日にしよう。」
セーラは、驚きながらも、嬉しそうに微笑んだ。
――この人は、本当に私のことを大切にしてくれる。
「では……お散歩なんていかがかしら?」
「散歩?」
「ええ。屋敷の庭を歩いて、お茶を楽しみながら、のんびりと過ごすのも悪くないでしょう?」
リチャードは微笑みながら頷いた。
「いいな。そうしよう。」
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穏やかな時間、そして未来の話
庭に出ると、穏やかな風が吹いていた。
春の陽気が心地よく、花の香りがほのかに漂っている。
セーラとリチャードは並んで歩きながら、ゆっくりと会話を楽しんでいた。
「こうして歩くのは、初めてですわね。」
「確かに、今まで二人でゆっくり過ごす時間は少なかったな。」
リチャードは、ふと空を見上げた。
「私は、こうして君と過ごす時間が増えたことが嬉しい。」
セーラは、彼の横顔を見ながら微笑んだ。
「私もですわ。」
「これからは、もっとこういう時間を増やしていきましょう。」
「君が仕事で忙しいのは理解しているが、それでも、私は君と過ごす時間を大切にしたい。」
セーラは、一瞬驚いた。
リチャードは、これまで 「君の自由を尊重する」 という立場を崩さなかった。
だが、今の彼ははっきりと 「君と過ごす時間を増やしたい」 と言った。
――それは、彼が彼女を繋ぎ止めたいと願っているから。
「……旦那様。」
セーラは、そっと彼の手を握り返した。
「私も、あなたと過ごす時間を大切にしたいですわ。」
「これからは、夫婦としての時間を、もっと楽しみましょう。」
リチャードの目がわずかに見開かれ、そして嬉しそうに細められた。
「……ありがとう、セーラ。」
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誓いの言葉
庭を歩いた後、二人は屋敷のテラスでお茶を楽しんでいた。
ゆったりと流れる時間の中、リチャードがふと真剣な表情になった。
「セーラ。」
「はい?」
彼は、彼女の手をしっかりと握りながら言った。
「私は、君を心から愛している。」
「君がどこにも行かないように、私は君のすべてを受け止める。」
「だから――これからも、私と共に歩んでほしい。」
セーラは、その言葉を聞きながら、じんわりと涙が浮かぶのを感じた。
「……はい。」
「私も、あなたを愛しています。」
「私の人生は、あなたと共にあるのです。」
「永遠に。」
リチャードは、彼女の手を引き寄せ、そっと口づけを落とした。
「誓おう。君と共に生きると。」
――こうして、二人は永遠の愛を誓った。
これまでとは違う、新しい夫婦の形。
互いに心を通わせ、本当の意味で寄り添い合う人生。
これからも、セーラとリチャードは、共に歩んでいく。
そして、彼らの物語は、ここから新たな幕を開けるのだった。
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