「またおまえか」
魔王の俺を倒しに、魔王城には数々の勇者がやって来る。むろん俺を倒せる者はまだ現れていない。大抵は一度か二度で心が折れて、以来姿を見ることはない。
しかし目の前にいるこの勇者だけは違った。
「魔王さん、今日こそはあなたを倒してみせます…!」
「おまえもう何回目だ?いいかげん諦めろ」
この勇者はとてつもなく弱いくせにかれこれ二十回以上俺に挑んでいる。
強さは俺の足元にも及ばないがやる気だけは一人前の勇者だ。
「よそ見してると痛い目見ますよ!」
「そのセリフも聞き飽きたな」
「もーうるさいですよ!いきますよ!ウォォオオオ!!!!」
この勇者は毎回こんな感じで、馬鹿正直に全力で突進をしてくる。
俺はいつも通り小手先で鎌をくるりと動かした。こいつに膝をつかせるにはこの一撃で充分だからだ。
今日も俺の鎌は勇者に直撃した。
しかしいつもなら倒れてるはずの勇者は俺の目の前まで突っ込んできた。
「な、なにっ!?」
あろうことか、剣を振りかざした勇者の素早さは俺の反射神経を上回った。
「てやあああああ!!!!」
勇者にボコボコにされた俺は冷たい床に倒れ、そのまま伏してしまった。
「やった!やりましたよ…やっと魔王を倒したぞ僕は!!」
頭上では勇者の喜びに満ちた雄たけびが聞こえる。
短期間で攻防ともにとてつもなく強くなって戻ってきた勇者に俺は疑問が残った。
「おまえ、なぜそんなに強く…?」
「ふふふ、それはもちろん…どんな手を使ってでもあなたを倒すという信念があったからです!!」
勇者の抽象的な返答にますます疑問が芽生えた。しかしどちらにせよ勇者が圧倒的に強くなったことに変わりはない。
そしてその変化に気づけなかった結果がこのありさまだ。
「ふ、おまえとも…今日でお別れだな…」
「ふふ、やっとあなたから解放されて嬉しいです…!数年間通ったこの魔王城も、今日で見納めですね!」
勇者との会話もそこそこに力尽きた俺は、城の牢屋に入れられた。