脱獄した勇者は指名手配されたがそのまま行方知れずとなった。
対する俺は二年ほど服役した。勇者のように脱獄も考えたが逃げ隠れる生活は現状よりもっと精神を消耗することを俺はわかっていた。
──そんな俺にある日転機が訪れる。
「この国に新たな魔王が現れた。その魔王を倒せばおぬしの残りの懲役は免除してやってもいい」
正当な理由でなおかつ本来よりも早く地上に出られると王様から聞いた俺はその条件をすぐさまのんだ。
元魔王の俺は正式に勇者に転職し、魔王城へ赴いた。
かつての我が家である魔王城に勇者として足を踏み入れるとは…当時の俺なら想像もしなかったことだ。
「ふ、皮肉なものだな」
懐かしさも相まって思わず笑みがこぼれた。
さあ今の俺は勇者だ、と気を取り直して入城した。
新魔王がいる部屋へ足を進めていると、誰かが廊下の先からこちらへ近づいてくるのが見えた。
黒いマントでフードを被ったその人物は俺の目の前で足を止めた。
「あれ?」
「ん?」
「魔王さんじゃないですか!!」
フードによって隠れていたそいつの顔をよく見ると、あのときの勇者だった。
「あ、おまえあの時の…!?二十回以上俺に負けた勇者か!?」
「うわあ懐かしいですね!ていうかその呼び方やめてくださいよー!黒歴史ですよそれ」
「まあ俺も今となっては自由欲しさに勇者に堕ちたんだがな。おまえも魔王を倒しに来たのか?」
「いや、僕あれから色々あって」
勇者は恥ずかしそうにモジモジし始めた。
「努力したんですけどねー、なかなか上手くいかなくて」
勇者がマントを脱ぐとツノが現れた。
「僕、魔王になったんですよ!」
─完─