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第18話 羞恥心

 モンスターを見ては斬撃で斬り、腕を掴んでは投げ、脚を掴めば棍棒の様に振り回してモンスター同士をぶつけて潰した。


 前へ前へ。より前へ。目に付く敵を斬り裂き後続の部隊をズンズン進ませる。後ろから聞こえる果敢な雄叫び。部隊のそれを耳にする度に、モンスターの悲鳴を聞く度に、我々の快進撃は止まらないと思った。


 上空を通過するのは轟音を響かせる火球。隕石を彷彿とさせるそれは魔術部隊が展開した魔術攻撃であり、着弾すると爆発。四散するモンスター軍団を見ると魔術の恐ろしさを痛感する。


 時に人は言う。"モンスターも生きている。酷い事をしないで欲しい"と。


 確かに中には争いを好まず悠々自適に生きているモンスターも居るのが事実。だがしかし、この世界に跋扈するモンスターの九割はヒューマン――人間やエルフやドワーフと言った亜人たちを襲うのだ。


 無効は本能で生きている存在。言葉が分かるはずもなく交渉もクソもない。何よりこちらを餌だと、玩具だと、嬲って遊ぶ対象だと思い襲ってくる。


 つまりは命を狙ってくる。


 そんな奴らに施しなんて必要ない。


 故に。


「出て来なければッ!!」


 ――ザシュ!!


「死なずに済んだものおおおおおおおお!!」


 ――ッズバ!!


 躊躇いなんて一切必要ない。殺さなければこちらが殺されるからだ。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 ひたすら斬り。ひたすら潰し。ひたすら進む。


 斬撃が飛ぶたびに血飛沫が飛び。衝撃が大気を揺らす度に死に絶えたモンスターが空を舞い。私が走った場所には死骸転がる。


 そして日が沈むころには数はどんどんと少なくなっていき、嗅覚と聴覚、そしてモンスターの気配を感知しないと見つけられない所まで来た。


 くるぶしに川の水が浸かった時、気付く。


「……ここは……どこだ?」


 自分が戦場ではない所まで進んでしまったと。


 だが私は焦らない。スタンピードを殲滅する大事な作戦だがいつの間に孤立。何者の気配も感じない。しかし、むしろ、これが平常運転。


「うん! 暴れた暴れた!!」


 実に作戦どおりで気分も爽快。私に課せられた作戦は簡単に言うと暴れることだ。先陣を切り味方の道を作る。そして私の剣撃で敵軍を乱しに乱し、暴れる。


「あんたが暴れると作戦が台無しになるだろ!? 私の立場が無いぞ!? もういい!! ガブリエラが暴れる前提で作戦考える!!」


 などと何とも肯定的な意見が通り、私は伸び伸びとモンスターを倒せる。


(もう日が落ちる……火の準備でもするか……)


 川の近場にある岩の木陰。そこに焚火を焚き、モンスター除けの結界を張り一晩を過ごした。ちなみに夕飯は川に泳いでいる魚だ。


 次の日の朝。


「――!?」


 川で水浴びをしていると、不意に得体の知れない気配を感じた。


 その気配は断崖絶壁の角からだった。私が動くとそれは崖に隠れてしまう。しかし見えた人ならざる腕。とげとげしい腕だ。


 妙な気配だと思いつつもモンスターに変わりなく、短刀を生成して投擲。着弾した岩が破裂すると共に、モンスターが飛び込みように横に避け、姿を現した。


「ほぅ。初めて見るタイプのモンスター……」


 二足歩行の人型でモンスター。しかし見た事のない程の煌びやかさを見せる鱗は、一枚一枚が高価な物に見える。そして細身でありながらも盛り上がる筋肉質の身体。明らかに普通じゃないとわかる。


 明らかに意思を持つ眼。その視線が私に合うと。


「……お、俺に敵意はない」


「言葉を話すモンスター……」


 警戒しながらも敵意は無いとこちらに訴えて来るモンスター。流暢すぎる言葉と意思がにわかに信じ難いと言わざる得ない。


 当然私は結論付けた。この言葉を話すモンスターはスタンピードの首魁なんじゃないかと。


 知性が高いなんてレベルの話じゃすまないモンスター。そんなモンスターだからこそ、スタンピードを起こして我々ユーゼウス王国を滅ぼそうとしていると考えるのが一つだろう。


 しかし奴は予想外のことを口にした。


「俺はジンガ。ジンガって名前です」


「……」


「俺は怪獣族の……おそらくは最後の生き残りです」


「怪獣族……?」


 個人を主張する名前。そして自分の種族を口にしたのだ。


「――ッアハハハハ!!」


 声を大にして笑うのは仕方のないことだろう。何故ならば怪獣族なんて種族はとっくの昔に滅んだ種族なのだ。おおかた変な知識を付けたモンスターが、我々を欺くための一芝居をうったと思った。


「お、俺はジンガです! マジの怪獣族なんで――」


 ――――ッドゴ!!


「問答無用ッ!!」


 先手必勝。怪しさ満点な奴をほおっておくほど、私は甘くない。


 得意の斬撃で斬り掛かるも、紙一重で避けて来る。最初は戸惑いを見受けられたが、段々と洗礼された動きを見せる様になった。


(私の攻撃をこうも避け切るとは中々やるッ!! やはりスタンピードの首魁としか考えられないッ!!)


 驚愕しつつも私は内心は穏やかではない。こう見えてもユーゼウス王国最強の騎士と称されているプライドがある。だからこそ易々と斬撃を避け切る奴に腹立たしさを覚えてしまう。


(こいつ強いぞッ!!)


 認める。強さを認める。強さを認めたからこそ、あえて隙を見せて釣る。


「ッ!!」


 案の定私の剣を折に来た瞬間、逆に反撃。


「ッハ!!」


 ――ッド!!


「ッ」


 渾身の回し蹴りを放つも、奴は防御。


 しかし。


(硬いッ!? まるでオリハルコンを蹴った様な感覚ッ!!)


 押し潰す程に蹴りぬいたというのに、あまりの硬さに対し逆に脚がどうにかなる感覚を覚えた。


 硬いのは硬い。しかし同時に包み込むようなしなやかさも感じる奴の身体。


 関心すると当時に、ある違和感に気付いた。


(私に対しては反撃していない……?)


 剣を折ろうとしたが私に対しては危害を加えようとはしていない。その事実に攻撃を止め、奴の眼を見た。


「……ジンガと言ったか。なぜ反撃してこない。怪獣族などと――――」


 対話を選んだ。一方的に暴力を振るっていたから分かるジンガの誠意。その真意を確かめるべく、問うた。


 しかしジンガは自分が怪獣族だと一片張り。そして警戒する私に対しては、本当にモンスターではなく怪獣族なのでは? と心の隅に思ったことを図星で貫かれた。


 そしてジンガは動いた。


「――姿が問題なら、たぶん解決できます」


 そう言ってジンガは下腹部をまさぐると、見覚えしかないモノを取り出した。


 ――もぞもぞ。


(……アイテム袋だと?)


 そして中から指輪を取り出すと指にはめた。


 ――ッボン!


 次の瞬間、ジンガの身体は一瞬で煙に包まれた。


 そして煙から出てきたのが……。


「ヒューマンだと……?」


 困り果てた表情をするヒューマン――ジンガに対し、同じヒューマンに裸を見られていると認識。


「み、見るなあああああああ!! 私の裸を見るなあああああああああああ!!」


 私は羞恥心を覚えた。

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