モンスターを見ては斬撃で斬り、腕を掴んでは投げ、脚を掴めば棍棒の様に振り回してモンスター同士をぶつけて潰した。
前へ前へ。より前へ。目に付く敵を斬り裂き後続の部隊をズンズン進ませる。後ろから聞こえる果敢な雄叫び。部隊のそれを耳にする度に、モンスターの悲鳴を聞く度に、我々の快進撃は止まらないと思った。
上空を通過するのは轟音を響かせる火球。隕石を彷彿とさせるそれは魔術部隊が展開した魔術攻撃であり、着弾すると爆発。四散するモンスター軍団を見ると魔術の恐ろしさを痛感する。
時に人は言う。"モンスターも生きている。酷い事をしないで欲しい"と。
確かに中には争いを好まず悠々自適に生きているモンスターも居るのが事実。だがしかし、この世界に跋扈するモンスターの九割はヒューマン――人間やエルフやドワーフと言った亜人たちを襲うのだ。
無効は本能で生きている存在。言葉が分かるはずもなく交渉もクソもない。何よりこちらを餌だと、玩具だと、嬲って遊ぶ対象だと思い襲ってくる。
つまりは命を狙ってくる。
そんな奴らに施しなんて必要ない。
故に。
「出て来なければッ!!」
――ザシュ!!
「死なずに済んだものおおおおおおおお!!」
――ッズバ!!
躊躇いなんて一切必要ない。殺さなければこちらが殺されるからだ。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
ひたすら斬り。ひたすら潰し。ひたすら進む。
斬撃が飛ぶたびに血飛沫が飛び。衝撃が大気を揺らす度に死に絶えたモンスターが空を舞い。私が走った場所には死骸転がる。
そして日が沈むころには数はどんどんと少なくなっていき、嗅覚と聴覚、そしてモンスターの気配を感知しないと見つけられない所まで来た。
くるぶしに川の水が浸かった時、気付く。
「……ここは……どこだ?」
自分が戦場ではない所まで進んでしまったと。
だが私は焦らない。スタンピードを殲滅する大事な作戦だがいつの間に孤立。何者の気配も感じない。しかし、むしろ、これが平常運転。
「うん! 暴れた暴れた!!」
実に作戦どおりで気分も爽快。私に課せられた作戦は簡単に言うと暴れることだ。先陣を切り味方の道を作る。そして私の剣撃で敵軍を乱しに乱し、暴れる。
「あんたが暴れると作戦が台無しになるだろ!? 私の立場が無いぞ!? もういい!! ガブリエラが暴れる前提で作戦考える!!」
などと何とも肯定的な意見が通り、私は伸び伸びとモンスターを倒せる。
(もう日が落ちる……火の準備でもするか……)
川の近場にある岩の木陰。そこに焚火を焚き、モンスター除けの結界を張り一晩を過ごした。ちなみに夕飯は川に泳いでいる魚だ。
次の日の朝。
「――!?」
川で水浴びをしていると、不意に得体の知れない気配を感じた。
その気配は断崖絶壁の角からだった。私が動くとそれは崖に隠れてしまう。しかし見えた人ならざる腕。とげとげしい腕だ。
妙な気配だと思いつつもモンスターに変わりなく、短刀を生成して投擲。着弾した岩が破裂すると共に、モンスターが飛び込みように横に避け、姿を現した。
「ほぅ。初めて見るタイプのモンスター……」
二足歩行の人型でモンスター。しかし見た事のない程の煌びやかさを見せる鱗は、一枚一枚が高価な物に見える。そして細身でありながらも盛り上がる筋肉質の身体。明らかに普通じゃないとわかる。
明らかに意思を持つ眼。その視線が私に合うと。
「……お、俺に敵意はない」
「言葉を話すモンスター……」
警戒しながらも敵意は無いとこちらに訴えて来るモンスター。流暢すぎる言葉と意思がにわかに信じ難いと言わざる得ない。
当然私は結論付けた。この言葉を話すモンスターはスタンピードの首魁なんじゃないかと。
知性が高いなんてレベルの話じゃすまないモンスター。そんなモンスターだからこそ、スタンピードを起こして我々ユーゼウス王国を滅ぼそうとしていると考えるのが一つだろう。
しかし奴は予想外のことを口にした。
「俺はジンガ。ジンガって名前です」
「……」
「俺は怪獣族の……おそらくは最後の生き残りです」
「怪獣族……?」
個人を主張する名前。そして自分の種族を口にしたのだ。
「――ッアハハハハ!!」
声を大にして笑うのは仕方のないことだろう。何故ならば怪獣族なんて種族はとっくの昔に滅んだ種族なのだ。おおかた変な知識を付けたモンスターが、我々を欺くための一芝居をうったと思った。
「お、俺はジンガです! マジの怪獣族なんで――」
――――ッドゴ!!
「問答無用ッ!!」
先手必勝。怪しさ満点な奴をほおっておくほど、私は甘くない。
得意の斬撃で斬り掛かるも、紙一重で避けて来る。最初は戸惑いを見受けられたが、段々と洗礼された動きを見せる様になった。
(私の攻撃をこうも避け切るとは中々やるッ!! やはりスタンピードの首魁としか考えられないッ!!)
驚愕しつつも私は内心は穏やかではない。こう見えてもユーゼウス王国最強の騎士と称されているプライドがある。だからこそ易々と斬撃を避け切る奴に腹立たしさを覚えてしまう。
(こいつ強いぞッ!!)
認める。強さを認める。強さを認めたからこそ、あえて隙を見せて釣る。
「ッ!!」
案の定私の剣を折に来た瞬間、逆に反撃。
「ッハ!!」
――ッド!!
「ッ」
渾身の回し蹴りを放つも、奴は防御。
しかし。
(硬いッ!? まるでオリハルコンを蹴った様な感覚ッ!!)
押し潰す程に蹴りぬいたというのに、あまりの硬さに対し逆に脚がどうにかなる感覚を覚えた。
硬いのは硬い。しかし同時に包み込むようなしなやかさも感じる奴の身体。
関心すると当時に、ある違和感に気付いた。
(私に対しては反撃していない……?)
剣を折ろうとしたが私に対しては危害を加えようとはしていない。その事実に攻撃を止め、奴の眼を見た。
「……ジンガと言ったか。なぜ反撃してこない。怪獣族などと――――」
対話を選んだ。一方的に暴力を振るっていたから分かるジンガの誠意。その真意を確かめるべく、問うた。
しかしジンガは自分が怪獣族だと一片張り。そして警戒する私に対しては、本当にモンスターではなく怪獣族なのでは? と心の隅に思ったことを図星で貫かれた。
そしてジンガは動いた。
「――姿が問題なら、たぶん解決できます」
そう言ってジンガは下腹部をまさぐると、見覚えしかないモノを取り出した。
――もぞもぞ。
(……アイテム袋だと?)
そして中から指輪を取り出すと指にはめた。
――ッボン!
次の瞬間、ジンガの身体は一瞬で煙に包まれた。
そして煙から出てきたのが……。
「ヒューマンだと……?」
困り果てた表情をするヒューマン――ジンガに対し、同じヒューマンに裸を見られていると認識。
「み、見るなあああああああ!! 私の裸を見るなあああああああああああ!!」
私は羞恥心を覚えた。