園内にある建物の物陰に、二つの影が潜んでいた。
二人の男は、遠くに見える少女に視線を注いでいる。その少女とは、最近月の力を発揮したと噂されている―…
「月光羽闇…間違いなく、あの女だ。」
一人の男が、確信を持って呟いた。
すると、隣にいたもう片方の男が迷いを滲ませながら問い掛ける。
「どうします?やはり、すぐに捕らえるべきでは―」
「いや…待て。ここは人目が多すぎる。それに、横にはあの男がいるんだぞ。」
「では、一体どうすれば…。」
「…こうなったら、コレを仕掛けるしかないか。」
男達は少女の隣にいる人物に警戒している様子だ。指示を出した男はそう呟きながら、鞄から小さな黒い球体を取り出す。それは、不気味な光沢を放つ爆弾。
二つの影は、すぐそこに迫っていた―。
時計の針が正午を指した頃。メインパークを堪能した私達は、園内にあるレストランで昼食をとることにした。
「ふぅ…まだメインパークしかまわってないのに既に体力が…!」
「お疲れ様。結構夢中になっていたみたいだけど、どうだった?」
「海の生き物ってあんなにいっぱいいるんだね、勉強にもなったし凄く楽しかったよ!タツノオトシゴなんてもう可愛すぎて…!」
「タツノオトシゴか〜。確かに、羽闇ちゃん動けない位ずっと見てたもんね。」
「えへへ」
メインパークで出会った海の生き物達は皆可愛らしかった。中でも、特に心を奪われたタツノオトシゴの愛らしい姿を思い出しながら私はフィッシュバーガーを頬張る。満面の笑みを浮かべた私を見て、夜空君も嬉しそうに微笑んだ。
「そういえばさっき、そのグッズを買おうか悩んでたよね。確か…アクセサリーだったっけ?」
「うん、タツノオトシゴのペンダントね。デザインも良かったから買おうと思ったんだけど、いつも着けているものがあるからやめたんだ。」
「嗚呼…その白い石のペンダントだね。月光家に伝わる大切な物だって大旦那様からも聞いてるよ。」
「実は私も最近知ったんだよね。最近までは石の部分が紫色だったんだけど、突然白く変色してさ。…でもこれはお母さんの形見でもあるの。」
十年前に亡くなってしまったお母さん。
そういえば、お母さんは私にこのペンダントを託した時に何か意味深な言葉を口にしていた様な気がする。
『私でも駄目だったけど、貴方ならきっとこの運命から抗える事が出来るかもしれない―』
きっとあの人は、私だけでも月の力で短命の呪いから解放されるこ事を願っていたのだろう。
「じゃあ、それは羽闇ちゃんにとってもそれは大切な宝物なんだね。僕にも宝物はあるけれど、そういった気持ちのこもったものはないなぁ…。」
「夜空君の宝物…?」
「正確には僕のというより、星宮家の宝物って言えば良いのかな。これなんだけど―」
ドォォン…!!!
夜空君が懐から何かを取り出そうとした瞬間―レストランの外から大きな爆発音が響いた。彼は驚き、取り出しかけた物を慌てて懐に戻す。
ドゴォォン!!ガシャーーン!!!ドォォン!!!
「な、何…!?この音…!」
何が起こったのか、最初は全く分からなかった。私や他のお客さんは恐る恐る窓の外を覗き込むと、信じられない光景が目に飛び込んできた。
黒ずくめの男達が、手慣れた様子で小型の爆弾を次々と投げ込んでいる。爆発音は次第に近づき、遂にこのレストランにも窓から爆弾が投げ込まれる危険が迫ってきた。私は恐怖に駆られながらも、夜空君や他のお客達と共に必死にテーブルの下に潜り込む。次の瞬間、轟音と共に閃光が走り、天井の照明が落下した。そして、壁には蜘蛛の巣状の亀裂が走る。
「皆様!此処は危険です!すぐに此方の非常口から避難して下さい!」
怪我人は複数出ていたが、店内のスタッフさんの誘導により何とか全員無事に脱出する事が出来た。
「ハァ、ハァ…一体何が…!?」
「羽闇ちゃん。此処は危険だから、絶対に僕から離れたら駄目だよ。」
夜空君はそう言うと、私を強く抱きしめる。周囲の人々は慌ただしく出口へ向かう中、彼だけは動こうとしなかった。その表情はかつてないほど険しい。
そして彼は懐から何かを取り出したところで、背後から不気味な声が響いた。
「ヒヒヒ…月の姫はっけーん。」