「月光羽闇だな…?悪いが、黙って一緒に来て貰おうか。」
「抵抗は許さん。」
声がした方へ振り返ると、それは先程爆弾を投げ込んでいた男達のものだった。彼らはサングラスを掛け、帽子を深く被っている。その男達を目の前にした夜空君は顔をしかめると、懐から取り出した星形の鼈甲色の石を弾いた。弾かれたその石は眩い輝きを増し、ダイヤモンドの様に煌めく小さな石が装飾された金色の杖へと姿を変えた。
「チッ。やはりそうきたか…邪魔をするなら消えて貰うぜ、
夜空君の事を『シエレトワール』と呼んだ男は嘲笑うかの様に再び爆弾を取り出すと、躊躇なく爆弾を私達の方へ投げ放った。夜空君は迫りくる爆弾から私を庇う様に抱き寄せ、私は彼の胸に顔を埋めながら固く目を瞑った。
ズガァァァン!!!
「きゃあぁぁ!!!」
その爆弾は先程の園内に投げ込まれていた爆弾とは明らかに種類が異なり、爆発の威力は凄まじいものだった。あれ…?でも何も当たってない…?
恐る恐る目を開くと、私と夜空君の周囲が白い球状のバリアの様なものに包まれていた。そして、そのバリアを張ってくれているのは、紛れもなく金色の杖を振り翳している夜空君だ。
「チィ…。」
「くそっ!」
信じられないといった表情で目の前の光景を見つめていた男達は額に滲む汗を拭う事もなく、焦燥感を露わにし、乱暴に髪を掻きむしっている。
「羽闇ちゃん。ごめん、ちょっと怖いかもしれないけど少し我慢してね。」
「夜空君、これって…?」
爆発が止み、夜空君は私に優しく微笑んだ。その表情には安堵と自信が入り混じっている。結界が解かれ、爆弾が消え去った事に気付いた男達は恐怖に駆られ後ずさる。夜空君は杖を構え、男たちに向けて球体の光を放つ。光はまるで生き物の様に男達を追い詰めると、彼らの体に見事に命中する。そして男達は悲鳴を上げる間もなく、地面に崩れ落ちた。
「ふぅ…。怪我はない?羽闇ちゃん」
「う、うん…大丈夫。夜空君こそ。」
「僕も大丈夫、初めてここまで力を使ったからちょっと疲れちゃったけどね。」
夜空君は頬に汗を滲ませ、少し息を切らしながらも小さく微笑んでいた。その表情は何処か無理をしているようにも見える。金色の杖はゆっくりと輝きを失い、小さな石へと形を変えていくのを静かに見つめると、彼はそれを懐へと戻した。
「凄い…!夜空君ってあんな不思議な力が使えたんだね!あれって何!?」
「うーんと…説明するのが難しいな。簡単に説明すると、星宮家は代々月の姫を守護してきた一族なんだ。
「月の姫の守護…?星の力…?そういえば、さっきシエレトワールって呼ばれてたのはどうしてなの?それにあの石は一体―…」
「それよりも羽闇ちゃん。敵がいつ目を覚ますか分からない。今のうちに、一刻も早く僕達も安全な場所に移動しよう!」
そうだった…敵は単に気絶しているだけ。油断は出来ないが、少なくとも今すぐの危険はない。周囲には気絶した男達と私、そして夜空君しかいない。園内にいたお客さんは、無事に避難出来たのだろうか?彼に聞きたい事は山程あるが、警察が駆けつけて来る前に私達だけでもこの場を離れた方がいいかもしれない。
「そうね…!じゃあ、このまま退場ゲートへ―」
その時、頭上から鋭い声が響いた。
「そうはさせませんわよ…!」
見上げると、黒い影が舞い降りる。それは、巨大な赤錆色の大鎌を携えた少女の姿。少女は流れる様な動きで大鎌を振りかぶり、此方に狙いを定めてくる。
「羽闇ちゃん!危ない!!」
ズドォォン…!!
夜空君の腕が、間一髪で私を捉える。背後へ強く引かれると同時に、私が立っていた場所に鎌が振り下ろされていた。地面が抉られ、砂煙が舞う。もし夜空君が私を引いてくれなかったら間違いなく私は鎌の餌食となっていただろう。
「ちぇっ、外しましたわ…!」
腰までの暗紅色の髪をツインテールにし、ゴシック調のワンピースを纏った少女。紅の瞳は宝石のように美しく輝いている。少女は静かに地面に突き刺さった大鎌に手を掛けた。重々しい大鎌をゆっくりと引き抜くと、石が擦れる嫌な音が静寂を破り、土煙が舞い上がる。大鎌を肩に担ぎ上げると、少女は不敵な笑みを浮かべ、まるで獲物を定めるかの様に此方を見つめた。
「貴方、何者…!?」
「失礼しましたわ、月のお姫様♪