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第13話【覚醒】

「…そんな選択、私がすんなりと選ぶとでも思っているの?」


「あら、まあ♪往生際が悪い… 月の力を手に入れたとは伺っておりますけれど、まだ月姫の覚醒まではなさっていないのですわよね? お気の毒ですわ。それに拝見する限り、戦闘のご経験も乏しいご様子…。私が相手では少々荷が重いかもしれませんわね。」


確かにそうだ。月の力を手に入れたといってもペンダントの石の色が変わっただけで、それからは何の効果も影響もなかった。そして先程の戦闘でも私は何も出来ず、夜空君に守られていただけ。


「ふふっ♪図星で御座いましたか。噂に伺っておりました歌の能力も警戒しておりましたが…その必要は無さそうですわねっ!」


麗夢と名乗った少女は瞬間移動したかの様に私の背後に現れ、再び大鎌を振り上げた。


「羽闇ちゃん!下がって!」


ガキィィン!!


危なかった…!もう少しで刃が突き刺さるというところで、夜空君が金の杖で間一髪、彼女の鎌を受け止めた。


「シエレトワール…貴方には特にご用は御座いませんのよ。これ以上邪魔をなさる様でしたら、然るべき対応を取らせて頂きますわ。」


「…やれるものなら、やってみるといいよ。」


ガキィィン!!カキィン…!!


再び2人の武器がぶつかり合い、金属の打撃音が響き渡る。互いに一歩も引かない攻防が続いていたが、彼女は夜空君の攻撃を冷静に見切り、一瞬の隙を突いて鎌で杖を弾き飛ばした。


「アッハハハハハハ!シエレトワール!これが貴方様の限界で御座いますの?だとすると、少々期待外れですわよっ!」


「うぐっ…!」


杖から手を放してしまった夜空君は、よろめきながらも麗夢に立ち向かおうとした。しかし、麗夢の大鎌から放たれた黒い竜巻の様な攻撃が彼の胸を直撃する。夜空君はそのまま倒れ込み、意識を失ってしまった。胸元からは血が流れ出し、地面を赤く染めていく。


「う…嘘、星宮君…?」


目の前の光景が現実のものとして認識出来ない。理解しようとすればする程、現実感が薄れていく。足は震え、立っているのがやっとだ。心臓が早鐘の様に打ち、呼吸が荒くなる。


「そんなっ…いやあぁぁぁぁ!!!!」


そして、喉が張り裂ける様な絶叫が静寂を切り裂いた。

私のせいだ。私が無力なせいで、夜空君は…。私にも戦う力があれば、夜空君はこんな事にはならなかったのに…。お願い、嘘だと言って…!

冷たくなっていく夜空君の身体を抱きしめ、私は只々泣き叫ぶ事しか出来なかった。


「さぁさぁ、次は貴方の番ですわよ♪この男は間もなく息絶えるでしょう!貴方も此処で果てるか、それとも私と参りますか?どちらを選ばれますの?」


麗夢は大鎌を肩に、泣きじゃくる私の傍らにゆっくりと近付いてくる。この出血量では、夜空君はもう助からないかもしれない。私もこのまま彼の後を追おうか…。そう覚悟を決めた時、大旦那様の言葉と先程麗夢が言っていたある言葉を思い出した。」


『月光家には歌も代々伝わる伝説があってな、歌で様々な能力を使う事が出来るらしい。』


『噂に伺っておりました歌の能力も警戒しておりましたが…』


そうだ。まだ―…希望があるかもしれない。間に合うかもしれない、だからこそ悲しんでいる暇はない。壱月はあくまで伝説だと言っていたけれど、それでもいい…!月の姫の力を発揮出来たのなら、そのに全てを賭けてみたい。私は涙を拭い、再び立ち上がると、首にかけている白い石のペンダントを強く握りしめた。このペンダントに、夜空君を救う力が秘められていると信じて…。


「お願い、力を貸して。」


―目の前の女を倒したい、夜空君を助けたい。

そう願いを込め、ペンダントを強く握りしめた瞬間、その気持ちに応える様に石の部分が光り出した。そして、初めて光った時よりも遥かに強く輝く温かな光はたちまち私の体を包み込んだ。


「ぐっ…目がぁ!何も見えませんわ…!」


光の眩しさに目を眩ませた麗夢は、大鎌を地面に落とし苦しそうにその場にへたり込んだ。光が弱まっていくと、いつの間にか私は銀色のティアラを輝かせ、純白のふわふわとしたバルーン型のミニドレスを身に纏っていた。

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