「川口さん、それでディメンジョン・イーターの毛皮、どうします? 売却すれば七百万DPですけど」
DPはダンジョン・ポイントの略で、冒険者ギルドカードのポイントだ。
一ポイントが一円換算で使えるほか、アイテムの売却や仕事でポイントを貰える。
「えっと、マジック・バッグに加工して自分で使いたいんですけど」
「いいですね。そういう人も多いですよ」
「ですよね」
「はい。では一度お預かりして、静岡の職人さんの所でバッグにする、でいいですか。費用が百万DPほどかかるんですけど」
「百万円。はっはい、出します。貯金ギリギリですけど、なんとか」
とほほ。ギリギリすぎる。もっとダンジョン攻略とかしないと。
配信を始めてから、ご祝儀と称して、スパチャとかいうのを貰っていて、それが五十万円ほどあった。
それから自分の貯金が六十万円くらいある。
あとは前から貯めていたDPが三十万DPくらいかな。
最悪、両親から借りるという選択肢もあるが、これは最終手段である。
「完成までに一週間くらいかかりますので、それまでに費用をお支払いください」
「わかりました。ではまた来ます」
冒険者ギルド日本平支部は日本平の中腹、山の中にポツンとある。
今はダンジョン入り口前に冒険者ギルド、コンビニ、複合商店、自衛隊の施設などがいくつか山の中に並んでいる。
ここから街の中心部まではシャトルバスが二十四時間走っている。
冒険者ギルドも二十四時間やっていて、日中は会社員、夜は冒険者という人もいた。
バスは山道を下って市街地へと向かう。
日本平ダンジョンは国内ではディメンジョン・イーターが生息する数少ないダンジョンで、中には専門の冒険者のハンター業者までいる。
そのため、市街地にはディメンジョン・イーターの加工業社が何社かあり、専門の職人を抱えていた。
ただ、冒険者でディメンジョン・イーターに遭遇するのは年に一回あるかどうか、という確率であるので、それだけを専門にやるにはかなりの気合が必要だった。
僕はそこまで運要素で冒険者をやっているわけではないので、今回は本当に運がよかったといえる。
「マジック・バッグ、早くできないかなぁ」
制作を依頼したのは、昔から普通のバッグを作って五十年、いち早く魔道具の加工へ参入して今年で二十年、マジシャンズ・ハンドというメーカーだった。
今では魔道具の一流メーカーとして冒険者など一部の人々に知られている。
むさくるしい男たちに混じって、バスに揺られる。
といってもさすがにみんな鎧姿ではないし、剣も携帯していない。
ほとんどの冒険者はギルドの更衣室に荷物用ロッカーを持っていて、そこで着替えて剣なども預けてある。
夏なんかクソ暑いのに、全身鎧やローブなんて着ていられない。
稀にコスプレみたいに、街中で冒険者の格好をしている人もいるが……。
「あれ、リオンじゃん」
「お疲れ、えっと、内藤さんだっけ」
「そそ。名前覚えててくれたんだ」
「まあ、よく見るしね」
「まったく、こんなかわいくなっちまって、まあ」
「あはは」
「生前の姿を知ってると、微妙ではある」
「生前っていうなし。まだ生きてるわい」
ちなみに、普通の銃はモンスターにはほとんど効果がない。
彼らは魔力障壁を展開していて、物理的な攻撃をはじく。
鉄のナイフや包丁なども同様だ。
そこで必要なのが、ダンジョンから算出する魔銅、魔鉄、ミスリウム、オリハルコン、レッド・メタル、クリスタル・アイアンといったいわゆる魔法金属と呼ばれるもので、魔力を含んでいる素材だった。
魔法金属の鎧に剣に槍、盾といった具合で、ダンジョン探索には必須だ。
また拳銃やライフルでも専用の魔鉄弾と呼ばれる種類のバレットを使えば、モンスターにもダメージを与えられる。
しかしモンスターの数が多いと、どう考えても高価な魔法金属を弾という使い捨てにするのは費用対効果が悪いので、冒険者はあまり使っていない。
それと銃刀法があり、普通に銃は規制対象なので、持つのに免許がいるのだ。
剣のほうが日本では規制が緩いので、多用されるというわけ。
自衛隊も魔鉄弾による、対魔物部隊が存在していて、各ダンジョン前には必ず駐留している。
「この後、一杯どう?」
「さては、僕がかわいいからって、変なこと考えてないでしょうね」
「いやいや、別にノンアルでいいよ」
「んじゃあ、から揚げでも食べてくか」
「いいね」
ということで内藤さんとご一緒することになった。
静岡市市街地へとバスで到着した。
二人で連れたって繁華街を歩く。
「から揚げ一つ! あと揚げ出し豆腐、それから枝豆!」
「はいよ」
席に着き、店員のお兄さんに声をかける。
「んで、最近どうよ。今日ちょっと上がるの早くね? 俺は昼が早かったらなんだけど」
「実はですね。僕、ディメンジョン・イーターが狩れて」
「は? マジで言ってんの?」
「うん」
「お前、先に言えよ。それなら焼肉だったのに」
「さいですか。から揚げも美味しいよ」
「そういう問題じゃねえ、あれいくらだよ」
「単体で七百万。バッグにすると一千万くらいのはず、最近なんかちょっと安くなってきたんだっけ」
「まあ、そうらしいが。一千万だぞ、一千万」
「うん」
「ノンアルのビール、追加!」
内藤さんはゴクゴクと酔うわけもないノンアルを飲み干した。
「やけ酒だ! やけ酒! ノンアルだけど!」
あははは。面白い人だ。
「ここはおごってくれるのか? ラッキー・ボーイ。ラッキー・ガールだったか! あははは」
マジで酔っぱらってんじゃないよな。ノンアルだよな?
僕はいぶかしんだ。
から揚げは、とっても美味しかったです。