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第4話 妹のマナミ


 内藤さんにタクシーで家の前まで送ってもらい、実家に到着した。

 さてお風呂入って寝ますかね。


「ただいま~」

「リオンおかえり~」

「お兄ちゃん、おかえり~」


 まず母親。それと、こいつは女子高生の妹、山口マナミである。

 御年、十六歳。ぴちぴちのコギャルである。昔で言うところの。


「私もダンジョン潜りたいなぁ」

「いや、危ないぞ。死ぬことだってあるし……」


 僕が頭に斎木さんのことを思い浮かべて苦い顔をすると、さすがの妹もちょっとおとなしくなる。


「荷物持ちとかでいい。かわいいモンスターいっぱいにするんだぁ」

「そういうのか、ふむ」


 テイマーという職業はある。

 スライムやビッグ・キャット、ウェア・ウルフなど、人気のモンスターをダンジョンから連れ出して、ペットのように連れ歩くのだ。

 街中にはモンスター専門のペットショップもあり、特にスライムが人気だ。

 スライムは、夏はひんやりしていて冷たいし、冬はちょっと暖かい。

 ご飯は残飯なども食べれば、ペットフードなどでもいい。

 おやつは魔石が好まれるが、別に必須ではない。


「十八になったらな」

「わかってるって」


 ダンジョン内へ入るには十八歳以上で免許がいる。

 免許といっても、安全講習会を十時間ほど受ければいいだけで、あとは健康な体があれば基本的には交付される。


「そういえば、ディメンジョン・イーター倒してきたぞ。マジック・バッグにするから百万くらいかかる」

「えっ、おかねかかるの?」

「うん」

「やめなよそれ」

「それが、マジック・バッグは一千万くらいの価値があるから」

「そうなんだ、お兄ちゃん、実はすごいの?」

「うん」

「へぇ、そなんだ」


 妹が目を丸くしていた。

 今でも妹は僕のことをお兄ちゃんと呼んでくる。

 たまに含みがあるときだけ「お姉ちゃん」と呼ぶこともある。

 それから街を二人で歩くときは僕のほうが「妹」扱いである。なんでも妹が欲しかったんだと。


「お風呂空いてるよ~」

「おお、入ってくるわ」


 お風呂につかる。ふぅ。本当に女の子になってるんだよな。

 まったく。けしからんな。自分の体を眺めながら考える。


 お風呂から出てくると妹が待っていた。


「お兄ちゃん、ネットでお兄ちゃんがディメンジョン・イーター狩ったの、記事になってるよ~」

「おー、ほんとだ。『初心者ダンジョン配信者のリオンちゃん。なんと一攫千金をつかみ取り、ニンマリ。かわいいと評判に』ふむ?」


 なんだこれ。全体的にはお祝いムードではあるが、少数、誹謗中傷とかもあるようだ。

 まあ、こういうのは気にしないに限る。

 妬み恨みは、どこにでもあるのだ。


「なになに。『リオンちゃんが頑張る訳、師匠・斎木さんの死を乗り越えて』か」

「うん、斎木さん、残念だったね」

「ああ、ちなみに、乗り越えたわけじゃないけどな。今、文字通り戦ってる最中だよ」

「そだね。んじゃ、ほどほどにね、おやすみ」

「おやすみ」


 顔は怖いと評判の斎木さん。実はいい人で、とても面倒見がよかった。

 だから慕っている人が大勢いたのだ。それでいてソロでシルバー級冒険者として有名だった。

 みんなの目標みたいな人だったことだけは確かだ。


 葬式は近親者のみで執り行われたと聞いた。

 確か、鬼軍曹は妹が一人いるってよく自慢していた。タブレット端末で写真まで見せびらかす始末で、なんとなく顔を覚えている。

「兄が死んだら」か。僕もマナミからすればお兄ちゃんで、もし死んだら、と考えると胃が痛くなりそうだ。

 冒険者はマージンをとって戦闘している。普通は自分では対処できない深層まで行くことはない。

 大丈夫なはずだったのだ。あの日も。


 スライムのクッションに頭を突っ込んでもだえる。

 なんだか女の子になってから、体臭もいい匂いがするし、どこ触っても柔らかいし。

 部屋の中も、以前は武骨だったのに、だんだんかわいいものグッズとかで埋まりつつある。

 部屋まで女の子みたいだった。


「おやすみ」


 誰にでもなく言う。夜は更けていくばかりだ。


   ◇


 こうして一週間、マジック・バッグができるまで、わくわくしながら過ごした。

 冒険者ギルド静岡支部にも行き、費用も払い済みだ。

 ちなみに日本平支部は日本平という山の中腹にあるのに対し、静岡支部は県庁所在地の静岡市街地にある。いわゆるお役所である。

 いちいち雑用のために山の上までバスで行かなくていいので、冒険者には好評だ。

 今では平地の麻機沼にも野生のモンスターが住み着いている。静岡支部はこちらの駆除も担当している。ダンジョン以外にもモンスターが生息地を広げた例は全国各地にあり、頭を悩ませている。

 飛行型モンスターが空を飛んでいた、としてパニックになった例もあった。

 静岡支部と日本平支部は職員が共通でどっちにもいたりするので、油断ならない。

 噂もすぐに広まるので、変な行動は慎まなければならない。

 僕がマジック・バッグを作っているという話も広がっていた。

 女性冒険者は少なく、それだけでも注目を浴びるのに、僕はさらに希少なTS冒険者である。それも美少女と接頭辞がつくので、男たちの視線が痛い。

 受付嬢にも妹みたいに扱われているので、いつも頭を撫でられたりしていた。


「川口さんですよね。私、斎木ミリアと申します」

「斎木……」


 アッと思った。見覚えがあるのだ顔に。どこかで。


「はい、斎木直樹の妹です。女子高生をしています」


 妹がいたと、この前思い出していた、その人だった。


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