東京の繁華街、ビルの一角にひっそりと佇むレストランの個室。
木目調の落ち着いた空間に、僕リオン、ミリア、マナミが私服で座っている。
僕を含め彼女たちのワンピースは華やかであったが、顔は緊張感からかやや不安な表情をしていた。
テーブルにはダンジョン産のモンスター料理が並ぶ。
クリムゾン・シュリンプのグリル、マッド・コカトリスのステーキ、魔法キノコを添えたサラダが彩りを添え、香ばしい匂いが漂う。
今日は配信なしのオフレコ会。冒険者ギルドの保守派幹部との会食は、静かな緊張感に包まれていた。
ミリアがマジック・バッグからミスリウム・ソードを取り出し、椅子の横にそっと置く。
アンバーの瞳には、兄、直樹の死の真相を追う決意が宿っている。
「リオンさん、向崎長官との話、兄の信念に繋がるはず。マギテックの隠蔽、絶対許せません!」
「うん、ミリアちゃん。斎木さんが保守派として何を戦ったのか、今日でハッキリさせよう。マナミ、メモの準備、頼んだよ」
「お兄ちゃん、ポーターの耳は全開! 料理食べながら、全部聞き逃さないよ!」
マナミがマジック・バッグからノートを取り出し、ペンを握る。
ドアがノックされ、冒険者ギルド庁長官、
静岡ダンジョン祭りの運営テントで二列目に座っていた男だ。
左目の傷を隠す義眼とサングラスが特徴的で、ダークグレーのスーツが彼の重厚な雰囲気を際立たせる。
体躯は百六十ない小さな背丈だが、彼の経歴を知っている人に言わせれば「小さな巨人」だった。
背後にはルミナスの小野田さん、増田さん、海野さんが控え、静かな威圧感を漂わせる。
向崎は静岡の日本平ダンジョン出身で、ゴールド級冒険者まで上り詰めた伝説の人物だ。
かつて日本平ダンジョンの最深部で伝説のモンスター「クリスタル・フェニックス」を単独で討伐し、ギルドにその名を轟かせたレジェンドとして知られている。
「スターライトの皆、よく来てくれた。斎木直樹のことは俺もよく覚えている。今日はオフレコだ。気兼ねなく話そう」
向崎の声は低く、落ち着いているが、ゴールド級の冒険者としての貫禄が滲む。
僕が頷き、食事が始まる。
クリムゾン・シュリンプのグリルは海の風味が効いていて、マナミが「これ、めっちゃ美味しい!」と目を輝かせる。
小野田が笑いながら「向崎さんが若い頃、こんなモンスター肉をダンジョンで焼いて食べてたって話だ」と付け加える。
向崎が苦笑し、サングラス越しに遠い目を向ける。
「昔話はいい。日本平ダンジョンは俺の故郷だ。あのダンジョンで命を賭けて戦ったからこそ、冒険者の誇りが何かを知った。斎木直樹も同じだった」
話題が斎木直樹に移ると、空気が一変する。向崎がステーキを切りながら、静かに語り始める。
「直樹は保守派の誇りだった。冒険者の自由と誇りを守るため、改革派のダンジョン商業化とマギテックの癒着に真っ向から反対していた。以前の静岡ダンジョン祭りで俺は彼を見ていた。あのとき、運営テントの二列目で様子を伺っていたが、直樹は改革派の動きに警戒していた。俺もかつて日本平でクリスタル・フェニックスと戦ったとき、ダンジョンがただの金儲けの場じゃないと悟った。あいつは同じ信念を持っていたよ」
ミリアがフォークを握る手が震え、声を上げる。
「兄が……そんな戦いを……。向崎さん、兄が危険な任務に送られたのは、改革派の陰謀だったんですか?」
向崎がステーキを口に運び、ゆっくり噛みながら頷く。
「その通りだ。直樹は新宿ダンジョンで採れる高濃度魔力結晶の危険性を報告していた。マギテックがTS病の原因とされる魔力暴走の実験を隠蔽していると疑い、証拠を集めていた。だが、改革派は彼を孤立させ、アース・ドレイクの討伐任務にソロで送り込んだ。あれは事故じゃない。意図的な排除だ」
リオンが息を呑む。マナミがノートに急いでメモを取りながら、悔しそうに呟く。
「お兄ちゃん、こんな汚い手……。斎木さん、めっちゃ立派な人だったのに!」
向崎がグラスに注がれたダンジョン産の果実酒を手に、続ける。
「直樹は俺に言ったことがある。『ダンジョンは冒険者の魂そのものだ。金や権力に汚されちゃいけない』と。俺もクリスタル・フェニックスを倒したとき、同じことを思った。保守派は彼の信念を継ぐ。スターライト、お前たちの配信が世論を動かしている。マギテックの闇を暴くため、俺たちも動くぞ」
「リオン、ミリア、新宿とお台場で集めた魔力結晶のデータ、保守派で分析中だ。TS病の原因がマギテックの実験なら、証拠を固めて改革派を追い詰める」
小野田が口を開いた。
ミリアが涙目でミスリウム・ソードに触れる。
「兄の信念……私も継ぎます。向崎さん、ルミナスさん、ありがとう。スターライトで、絶対真相をみんなに届けます!」
向崎が微笑み、珍しくサングラスを外す。義眼の左目が光を反射し、日本平ダンジョンでの壮絶な戦いを物語る。
「いい目だ、ミリア。直樹も喜ぶだろう。リオン、お前のTS病も魔力結晶と関係があるかもしれん。自分を責めるな。誇りを持って戦え」
「向崎さん、ありがとう。僕、TS病を受け入れて、みんなを引っ張ります。斎木さんの想い、絶対無駄にしない!」
僕が拳を握る。
食事が終わり、向崎が一枚のカードをリオンに渡す。
「これはギルドの特別割引券だ。秋葉原の装備店で使える。スターライトの装備を強化しろ。次の戦いはもっと厳しくなるぞ」
「お兄ちゃん、秋葉原! 新しいアダマンタイト装備、買いに行くよ! ポーターもカッコよくなる!」
マナミが目を輝かせる。
和やかな笑い声が響くが、向崎の真剣な眼差しが全員を引き締める。
食事会は終わり、スターライトとルミナスは新たな決意を胸にレストランを後にする。
夜の東京の街並みが、彼らの戦いの舞台を静かに照らしていた。