体がだるい、目もかすんできたのう。
はあはあと荒い息を吐いておる。
苦しい。
「おじいちゃん、死んじゃやだっ」
枕元で孫のつる子が泣いておる。おうおう泣くんじゃないよ。誰にでも一度は
爺ちゃんが先に行くだけの話じゃ。
予科練に入り特攻で死ぬと覚悟して、一日ちがいで終戦で生き残り、戦後を働いて働いて日本を立て直そうと頑張った
思えばずいぶん遠くまで来たのう。そろそろ戦友たちも待ちくたびれておるだろう。一昨年死んだ女房も西方浄土で待っておるだろうて。
「おじいちゃん」
「とうさんっ」
沢山の楽しい事、嬉しいことがあったのう。それは少しばかり悲しいこと、苦しかったこともあったさ、でも、三人の子供に恵まれて、育てるというよりも、共に親として爺として育っていけたと思っておる。
ほんとうにみんなありがとうよ。
ああ、光が、まぶしい光が
------------------------------------------------------------------------
どっかん、と膝を地面にぶつけた。
うぐっ、と、声を出してしまうほど痛い。
なんじゃ、大往生の時じゃというのに、ベットから落ちてしまったかのう。
失敗失敗、悲しんでいる家族達に悪い事をしたのう。
目を開く。
回りには緑があふれ、さわやかな風が吹き抜ける野外じゃった。
これはなにごと!
手を打ち合わせて砂を落とし、立ち上がる。
なんじゃ、体が軽い。
腰痛はどこへいったんじゃ?
ここはどこじゃ。
豪華な西洋の城が遠くに見える、ノイシュヴァンシュタイン城のような豪華な作りじゃ。
ここはヨーロッパなのであろうか。
どこまでも広く抜けるような青空に飛行船が何隻も飛んでおるのう。
後ろをふり向くと大きな洋館が建ち並んでおる。
制服の若者が沢山行き交って、儂らの方をチラチラ見ておるな。
儂が転んだのは、大きな洋館から、足下に広がる運動場、若人が走っておるのでグラウンドであろうか、そこへ続く石造りの長い階段の途中であった。
階段といっても踏み面が一メートルほどもある緩い勾配だったので膝を付いても転げ落ちる事は無かったのが幸いじゃったな。
お、おおお?
なんじゃ、これは、視線を下に移せば、
スカートをはいて、足がスウスウする。
胸元には、なにやら真っ赤な大きな宝石がついたペンダントがきらりと光を反射しておる。
なんじゃ、なんじゃこれは?
「聞いているのかい、イライザ!」
イライザ?
何を言うておるのじゃ、
なにか、
外人の学生さんのようじゃな。
洋画に出てくるような、あの、デカプリオやらいう男優に似ておる奴やら、シュワルツネッガーばりのマッチョやら、なんやらが、いかめしい顔で
すこし待って欲しいのじゃ。
「すこし、おまちになって」
や、ややや、なにやら言おうと思った事が、別の言語に翻訳されて、口からまろびでたわいっ。
女性のやや低めの声で、好みの音質じゃが、どうも
なにか、とてつもなく変な事が起こっておるのう。
どうも、ここは
「聞こえないふりをするのはやめたまえ、君のアリシアに対する、数々の嫌がらせは、明白だ、それどころか、
などと、白い
し、知らんぞ、
アリシア某というのは、白服ハンサムの後ろに隠れておる、小動物系の愛らしい少女の事のようじゃ。まことフリルのついた洋服が似合う、西洋人形のような娘じゃな。
「聞こえぬならば、いま一度、はっきりと告げよう、この私、聖メルキスタン王国の第一王子たるクリスは、君、
ほう、
そして、対面する真っ白な制服の金髪ハンサムは、この国の王子とな。
なにか、どこかで、聞いたような……。
王子クリス?
侯爵令嬢イライザ?
そうすると、そこに立って居る筋肉男は、男爵にして騎士のアラン?
隣の片眼鏡のお利口そうなハンサムは、
黒髪で可愛い感じの彼は、
……。
な、なんじゃと、それでは、孫のつる子が小学生の頃に、一緒にやってあげた乙女ゲームの「聖メルキアン学園物語」そのままではないかっ!
そうすると、儂がイライザということは、あのゲームで主人公アリシア嬢をいびり抜いた、悪役令嬢となっておるわけなのかっ!
これは、たいへんじゃ!