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第5話 お爺ちゃんは敵を斬り捨てる

 御者さんがびびってしまって馬車を止めてしまった。

 巡回役人は馬車の前に馬を止め地面に降りた。


「くそ、どうするニコル」

「なんだ、あの巡回役人は、ふ、ふざけるなよっ」

「ど、どうなるのかな、これから」


 さて、宰相の息子と、有力騎士家、外国の留学生を巻き込んで陰謀を完遂しようとするのじゃな。

 相手は相当の覚悟じゃな。


「とりあえず、俺が下りる、ニコルはあいつらを叱り飛ばして追っ払え」

「解った、何とかしよう。ヤマト君はイザベラさんをここで守ってくれたまえ」

「わ、解ったよニコルさん」


 ふむ。

 私は外に出るアランとニコルの後に付いて馬車を降りた。


「だ、駄目だよイザベラさん」


 ヤマトくんも困惑しながら降りて来た。


「おい、お前は馬車の中で待機してろって」

「アランさん、奴らの狙いは私でしてよ」

「何とか言いくるめて追い払うから」


 巡回役人はむっつり黙ってアランの前にやってきた。

 おお、チンピラやヤクザでは無いな、本物の巡回役人だ。

 しかも、なかなか腕が立つ。

 思想か、いや、宗教心だろうか、金でも地位でもなさそうだ。


「巡回役人がなんだっ、わたしはっ」

「ニコルさまですな、ケールソン侯爵家、いや宰相様のご令息と言ったほうが良いですか」

「それを解って誰何しようと言うのかっ! 無礼だぞっ!」


 巡回役人の二人は黙ってニコル君を睨んだ。


「イザベラ様をですね、三人で殺してはくれませんか? そうしたら俺らはあなた方三人を見逃します……」

「なっ!」

「ふざけてるのか、てめえっ!」


 アランくんが剣に手を掛けた。


「解りませんか? イザベラを殺さないなら、お前達を全員殺す、って、言ってるんですが」

「……」


 ニコル君が黙った。

 アラン君が剣を抜いて構えた。

 それでも二人の巡回役人はだらりと自然体でこちらを見ていた。


「そう、高位の貴族令息でも手を汚して弱みを作らなければ殺す、そういうたぐいの陰謀なんですのね」


 おや、という感じに巡回役人の眉があがり、後の役人が剣を抜いてわしを見つめた。


「一人でも逃したら、貴方たちのグループは壊滅ね。それほどの勢力は無いのかしらね。そうねこんな綱渡りみたいな陰謀を仕掛けているのですからね」

「良く回る口ですな、イザベラ嬢」

「ええ、命が掛かっておりますからね、うふふ」

「なんだ、中身に何が入った? 悪霊か?」


 中身?

 わしがイザベラ嬢の意識に入ったのは奴らのせいなのか?


「アランさま、片方、後方の役人と、相打ちなさってください」

「相打ちなのか?」

「はい、絶対に相手を殺してください。そうなるとアランさまの命は保証できませんが、私たちの生存率は跳ね上がります」

「もう片方はどうするのだ、イザベラさん」

「我々三人で殺します、ニコルさま、ヤマトさま、どちらかが彼に取り付いて動きを止めれば、多分殺せますわ」

「……、お前、誰だ」

「どうでもいいではありませんか、そんな事は重要かしら? どうせここで殺さなければ破滅の相手ですわよ、ほら、最悪の事態を考えなさいな」


 わしは煽るように微笑んで言った。

 目に見えるように巡回役人は動揺した。


 前に出ていた糸目のリーダー格も剣を抜いた。

 二対四、数の上では有利じゃが、向こうは歴戦の剣客な感じで、こっちはひよっこ騎士に、宰相の息子、外国の若侍じゃ。


「皆殺しで良いのだなっ!!」

「おまえらの言いなりで女を殺してどうすんだよっ!」

「イザベラさんの言っていた陰謀は本当なのかっ! お前達はどこの所属かっ!」


 ニコルくん、そんな事を聞いても教えてはくれないじゃろうな。

 ヤマト君が腰を落とし、わしを守るように前に出た。

 わしはすたすたと歩いて、ヤマト君の腰から脇差しを引き抜いた。

 おお、なかなか良い拵えじゃな。


「えっ?」


 ヤマト君が信じられないような顔でわしの手元と自分の腰を見た。

 敵の糸目役人も意表を突かれたのか動きを止めた。


「なっ」


 わしは背中をまっすぐにし、剣を大上段に振り上げ、猿のような悲鳴をあげながら走りより、糸目を叩き斬った。


「「「は?」」」

「ば、馬鹿な、馬鹿なっ!! 剣客の死霊が入ったとでも……」


 崩れ落ちる糸目役人から滑るように移動して後の役人に接敵した。

 もう一度、猿叫から、八双、そして切り下げる。

 敵が慌てて剣で受けようとしたが、なに、そんな事で避けれる薩摩示現流では無いのじゃ。

 剣ごと腕を切り落とした。


 ふう、と残心をすると、山の音が戻って来た。

 カッコウが鳴いておるな。


 予科練で叩き込まれた剣道が乙女ゲーム内に来て役立つとはのう。

 なんでもやっておくべきじゃわいな。


「お、おまえっ、その腕前は何だーっ!!」

「イ、イザベラさん、なんで蓬莱刀法を知ってるのっ!!」

「け、剣を叩き斬って、腕を落とすなんて」

「早く捕まえてくださいませ、何のために生かして制圧したんだと思ってますの?」

「あ、ああ、確かに」

「くそ、くそっ、貴様貴様、何故だっ!! イザベラの精神は封じたはずだぞっ、貴様っ」

「封じた? 何でですの?」


 敵の視線がわしの胸の上の大きな赤いブローチに動いた。

 む、この中にイザベラ嬢が封じ込まれておるのか?


「くそっ、くそ、ガザリング王国万歳っ!!」


 そう言って敵は懐から出したナイフで首を突いた。


「ガザリング王国……」


 とは、なんであろうのう?


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