「あなたは、二人とは今以上に仲良くなってはダメよ。うちに置いておけなくなるわ。それに二人とあなたが話しているとイライラするわ。少なくとも、私の前ではイチャイチャしないことね」
へ、それだけ? 俺はてっきりクビになるものだと思っていた。
「そうそう、あなたは私が水曜日に何をしているか気になっているんじゃないかしら。反応を見れば分かるわ。水曜日はね、絵画教室に通っているのよ。これで謎は解けたかしら」
なるほど。ということはリビングに飾ってある絵画は美里さんが描いた作品か。
「さて、スケッチも終わったことだし、私からこれ以上話すことはないわ。ただ、一言言うのなら、そうね。あなたは……」
その先はよく聞き取れなかった。でも、俺の勘違いでなければこう言ったに違いない。「あなたは私も狂わせたわ」と。
◇ ◇ ◇
それからはあっという間に過ぎ去った。舞さんとは映画館に行ったし、茜とはショッピングに行った。美里さんは相変わらず俺をスケッチしては楽しんでいる様子だった。絵画教室を休んでまでも。
そんなこんなでうだる夏がやってきた。日光が眩しく降り注ぐ。俺は夏が嫌いだ。こんな暑い季節はなければいいのに。いや、俺が嫌いなのは夏だけではない。冬も嫌いだ。あの寒さには嫌気がさす。早く秋にならないかとイライラしているある日のことだった。
朝食の席で茜が言った。
「せっかくの夏だから、どこか出かけようよ」
こんな暑い日に外へ出るなんてまっぴらごめんだ。と言いたかったが、茜は俺を見上げながら瞳を潤ませる。これではとても反対なんてできない。
「お姉ちゃんはどこがいいと思う?」
「そうね、夏だから涼しい場所がいいわね」
「涼めて夏らしい場所といえば……あそこしかないわね」と美里さん。
あそことは……?