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律儀な死神
律儀な死神
雨宮徹
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年06月15日
公開日
1万字
連載中
ある日、主人公の神宮寺渉は死神から寿命を宣告される。 「お前の残りの寿命は60年だ」 「えーと、それ寿命宣告、早すぎませんか?」 これは、神宮寺とお茶目な死神が織りなす、ギャグコメディ。

第1話 死神、現る

神宮寺じんぐうじわたる。貴様の寿命は残り六十年だ」


 その声は、突然、俺の背後から降ってきた。


 え、誰?


 思わず手が止まる。今まさにゴミ袋の口を縛っていた最中だった。日課のアルバイト、コンビニの裏のゴミ捨て場。そこに不釣り合いなほど重々しい声。


 背中がひやりとする。ゆっくりと振り返ると、そこには——。


 骸骨だった。


 いや、比喩じゃない。本物の骸骨。目は空洞、歯はニカッと全部見えてる。全身黒のロングコートを羽織り、手には異様にでかい鎌を持っている。あまりにも様になりすぎていて、逆にコスプレにしか見えない。


 だが、それより何より——。


 場所が悪い。


 ここはゴミ捨て場だぞ? コンビニの裏だぞ? 弁当の廃棄品とカラスとの縄張り争いが繰り広げられてる、地味で臭いバトルフィールドだぞ?


 そんなところに死神。場違いにもほどがある。


「え?」


 思わず声が漏れる。脳が現実を処理しきれてない。


「え、なに、今の? 寿命って言った?」


「そうだ。貴様はあと六十年で死ぬ」


 涼しい顔(というか骨)で、さらっととんでもないことを告げてくる。いや、どういうテンションなんだ。


 俺は今二十歳。てことは、八十歳で死ぬのか。んー……まぁ現代としては短めか? でも、特別驚くほどじゃ……いや、そうじゃないだろ俺!!


「おい、死神。お前、なんか間違ってないか? 六十年じゃなくて、残り六十日とか、そっちじゃねえの?」


 ツッコまずにはいられなかった。意味がわからなすぎて、逆に笑いそうになる。恐怖ってのは、こうも妙な方向に作用するもんなんだな。


 すると死神は、首をかしげた。骨だけど、なんとなく“困ったな”って顔に見えるから不思議だ。


「いや、間違いではない。実は……」


 言い淀む死神。


 え? なに? なんかあるの? その“実は”が一番怖いんだが。


 変に間があるせいで、逆に緊張感が増す。心臓がドクンと跳ねた。しかも、目の前の骸骨のせいで、どうにもブラックジョークにしか思えない。


「今の寿命宣告は、ついでだ」


「ついで!?」


 お前、今どんなテンションで言った? 寿命ってそんな、スーパーの試食みたいなノリで提供されるものなのか!?


「えーと……ついでってことは、本命があるってことか?」


 思わず聞き返す。正直、もう会話の主導権は完全にこいつに握られている。


 死神は、ため息混じりに首を振った。


「本命は、別の人物の魂を刈り取ることだ。だが……誤って別の次元に飛び込んでしまったらしい」


「次元……って、パラレルワールド的な?」


「ああ、まあ、そうなるな」


 死神は肩を落としている。落ち込んでる死神。なんかもう、怖さとか吹き飛んで、こっちが慰めたくなってくる。


 しかし、別の次元って。そんな重要そうな仕事をミスるなよ。人間の生死に関わるポジションだろ。いや、死神だけど。


「じゃあ、お前もさっさと戻って、その“本命”の魂でも刈ってこいよ。ここにいても、マジで臭いだけだぞ」


 実際、あたりには弁当とお惣菜の腐臭が充満している。牛丼なんか、容器ごとブヨブヨになってて、もはや新しい生命体が誕生しそうだ。


「理にはかなっている。だが、それはできない」


「……できないって?」


「別次元に戻るには、一度地獄に帰還する必要がある。しかし——戻ったら、上司に怒られる」


 ……。


 なんだその理由。


「……上司に怒られるから地獄に戻れないの?」


「うむ。雷を落とされる。実際に」


 物理的に!? 怖ッ!!


 ていうか、死神の上司って雷落とすのかよ。人事評価どうなってんだ。


「……で? これからどうすんの? この世界にいても、死神業できないだろ?」


「それなら、しばらく——貴様の家に住まわせてもらおう」


 ……。


 脳が処理を拒否した。


「はああぁぁぁ!? なんでそうなる!?」


 叫ばずにはいられなかった。隣のマンションの住人が通報するレベルで叫んだ。


 どうして寿命を告げにきたはずの死神が、俺の家に居候する流れになっているのか。これはドッキリか? 隠しカメラか? もしくは夢オチか? どれでもいいから頼むから目覚めさせてくれ。


 しかし——。


「すでに家の場所は調べてある。風呂と布団も頼むぞ」


 準備万端だった。


 こうして、俺と死神の奇妙な同居生活が始まった。拒否権? あるわけなかった。

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