最初に言っておくが、これは万人が涙を流すようなお綺麗な物語では、決してない。
この先、痛めつけられる人間がうんざりするほど出てくるし、目を逸らしたくなるような残虐なシーンだって山ほどある。
吐き気や悪寒を催すかもしれないし、中には唾を飛ばして激昂する奴だっているだろう。
だけど、それに対する俺たちの答えはこうだ。
「知らねーよ、馬鹿。じゃあ見んな、ボケ」
だって、これは正義のためにやってるわけじゃない。
ただただ、「自分のため」だけの行為なんだから。
つまらない世の中に一石を投じる?
そんなもんじゃ足りない。
犬のふんでもぶん投げてやるよ。
そう言って、大声でケラケラ笑いながら中指を立てる
――それが、俺たちの流儀だ。
この世は、こんなにも理不尽で、こんなにも不条理。
だったら、俺らも好き勝手にやらせてもらうだけ。
それだけの話。
*
時は20××年。
舞台は、少しさびれた雰囲気を醸し出すアンティーク雑貨店。
路地裏の、ちょっと隠れた場所にある
…だけど、どこにでもありそうな個人経営の小さな店だ。
木でできた出入り口の扉。
開けると、ちりんちりんと小さな鈴が鳴る。
一歩足を踏み入れれば、そこにはショッピングモールではまず見かけないような、茶色く古びた雑貨たちが、所狭しと並んでいる。
そしてこの雑貨屋には、いつも仮面をかぶっている、少し変わった店主がいる。
最初に見たときは、どこぞのサーカスから逃げ出したのかと疑いたくなるような異様さ。
実際、目を丸くして驚く客も少なくない。
ちなみに、これは誤解されがちだけど、別にコンセプトカフェみたいにお店全体がエンタメを売りにしているわけじゃない。
だからこそ、そのあまりに想像外な存在感に、客は一瞬にして“異世界”へ迷い込んだような感覚を覚えるのだろう。
でも、質問をすれば丁寧に答えてくれるし、レジ対応も至って普通。
怪しいのは見た目だけで、中身はしっかりしている。
だからむしろ、その異様さが“味”になって、人気店とは言わないまでも、そこそこ人が出入りするような店になっている。
……そして、何を隠そう、その仮面の店主こそが俺の兄、卯月凛(うづき・りん)だ。
どんな状況でも店を一人で切り盛りしている、尊敬すべき兄ちゃん。
あの仮面をかぶっているのには、ちゃんとした理由があるんだが…
それはまあ、いつか機会があったら話すとしよう。
色々とグダグダと話したが、つまりこの物語は、「アンチヒーローになりたかった」とある双子のお話である。