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第15話 セピア、地球に異動す

「セピア、私達の部隊は神器セイクリッド・アームズ回収に回る事になった。準備しておけ」


 上位天使である能天使パワーズ、バーミリン様から異動の辞令が出た事が知らされる。

 私は直ぐに敬礼すると元気良く返答した。


「了解しました! 残念ですが命令となれば仕方ありませんね……でもどちらへ?」


 現在の私の任務は魔神デヴィルの殲滅。

 そのための部隊に所属している一介の天使だ。

 本当なら絶対なるマザーのお役に立つために邪悪なる魔神デヴィル共を殲滅する役割を果たしたいんだけど……。流石に上が決めた事には従わないとね。


 何しろ私は他ならぬマザーの大いなる慈悲によって救われたのだから。

 魔神デヴィルとの戦いで両親が滅ぼされ、私と兄も消耗し堕天フォールダウン寸前の状態にまで追い込まれていた。

 それを勅令で救出部隊を出して助けてくれたのがマザー

 更には偉大なる祝福のお陰で天使としての存在を保つ事ができたのだ。

 まさに救世主メシアであり敬愛すべき存在。

 忠義をささたてまつる事が私の使命であり至上の喜びなんだ。


地球エデンだ。彼の地は第一次、第二次星間大戦ステラ・ウォーの激戦地。多くの同胞が命を散らした場所だ。恐らく人間達の魂に神器セイクリッド・アームズが宿っていてもおかしくはない」


 地球エデン――戦争の影響で現在でも第一種紛争地帯に指定されている惑星ほし

 現在も尚、日々、天使と魔神デヴィルの戦いが起こっていると聞く。


「もちろん、智天使ケルビムのクリムソン様も現地へ赴かれる。心配する事は何もないだろう。もしも最上級魔神が出てきても負けることはあるまいよ」


「はっ!! 私、セピアは神器セイクリッド・アームズ回収任務に尽力致します!」


 クリムソン様が強いのは承知しているけれど、もし敵に熾天使セラフ級の最上級魔神がいたら太刀打ちできるのだろうか?

 まぁ転属されるのは私達の部隊だけではないとは思うけれど。

 余計な心配かなぁ?


「噂では大物を持つ人間がいるらしいぞ。散逸は何としても避けなければならないだろう」

「護衛する必要がありますね……」


 人間はマザー現身うつしみであるはずなのにもかかわらず脆弱な肉体と精神しか持たない。

 天使と魔神デヴィルとの戦いに巻き込まれでもしたら、その命は儚く散ってしまうのは確実だ。

 とは言っても奴らも神器セイクリッド・アームズを狙ってくるだろうし護衛は必須事項だ。


「まぁ本来ならば警戒するのは魔神デヴィルだけなのだが、バグが出る可能性もあるからな……」

「バグですか……? あれが人間を襲うと?」


 バグとは特異生命体の事で宇宙の至る所でその存在が確認されているが、その数は少ない。

 それに特に人間を襲う理由が見当たらないのだが……。


「ああ、セピアは知っているか? 人間の体内にできる黒の心臓ブロークンの存在を」

黒の心臓ブロークン……ですか?」

「うむ。人間の心臓が何らかの影響で漆黒化しているらしい」


 不思議な事もあるものだ。

 そもそも人間は偉大なるマザーが創り給うた霊的に祝福された存在。

 その寵愛を一身に受けているはずなのに何故なのだろう?


「それが?」

「想像の通りだ。バグはその黒の心臓ブロークンを喰うために人間を襲うと言う話だ。言わば人間の捕食主に当たる存在だな」


 厄介な話。

 でもバグ殲滅部隊もいるようだから地球エデンに派遣されるわよね。


「なるほど。敵は魔神デヴィルだけでなくバグも、と言う訳ですね。承知致しました!」

「本来ならば人間などどうなろうと構わないのだが、天界の門ヘヴンズ・ゲートを通らないと散逸してしまうからな……寿命で死んでもらうか、我々の力で取り出さなければならない」


 バーミリオン様は人間に対していつも辛辣だ。

 単に興味がないだけなのか、面倒なのか分からないけれど、私としてはできる限り護らなければならないと考えているし好ましくも思っている。何しろマザーの祝福を受けている位だからね。


「事故にしろ、病気にしろ、普通に寿命で死んでくれればいいんだがな。我々としては魂が天界の門ヘヴンズ・ゲートさえ通過してくれれば良い。だが地獄の亡者共――魔神デヴィル悪魔デーモン魔人まじんに殺されると厄介だ。地獄の門ハデッサを通る事になるし、バグ共に喰われれば、ヤツらの力に取り込まれて虚界ネイン彷徨さまようことになる。となると回収は不可能に近い」


 無表情で淡々と話していたバーミリオン様の表情が少しばかり変わり語気が荒くなる。

 恐らく地獄ハデスの事を考えたからだろう。

 彼女からは嫌悪のようなものが感じられる。


「バーミリオン様、もし発見したとして寿命まで待つんですか?」

「いや、そんな悠長な事はせんよ。神器セイクリッド・アームズを取り出す力を持つ天使も地球エデンに呼ばれる予定だ」


 それなら特に問題はないだろうな。

 取り出すのは結構難しいって聞くけれど大丈夫なのかな?


「では、直ちに地球に向かいます」


 バーミリオン様にそう告げると私は退室して準備を始める事にした。

 人間の事は興味があって調べた経験がある。

 きっとコミュニケーションだって上手く取れるだろう。

 私はまだ見ぬ人間との邂逅に期待している自分に気が付いた。


 楽な仕事ではないだろうが楽しみではある。

 少し足取りが軽くなった気がした。




 ―――




「はぁ……人間って大変な仕事をしてるのよね。そりゃ黒の心臓ブロークンが宿る訳だわ。戦っている方が楽かも知れないわね」


 私は自分の部屋で思わず呟いていた。

 呟きが漏れたのは過去の事を思い出してしまったから。


 先輩には優しくしてもらっている。

 流石はマザー現身うつしみと言うだけあって黒の心臓ブロークンを宿していてもとても好感が持てる。


 後は先輩をどうやって護るか。

 私の眷属になってもらって神人化するのが一番良い気がするんだけれど……。


「きっと先輩は人間のままでいたいだろうし、無理やりするなんてできないよ……」


 そんな事を思うがバグの大量発生のせいでそうも言っていられない状況でもある。

 最悪、神人になってもらうしかないかも知れない。

 そんな日が来そうで少し怖い。


 先輩の事を考えると胸が苦しい。

 私はちゃんと実行できるだろうか?

 護り通せるだろうか?

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